はじまり
はじめまして。
小説はほとんど書いたことがないので遅筆ですが、ご了承ください。
目を覚ますと、真っ暗な闇の中にいた。
いや、目を覚ます、というのもまた違うかもしれない。
身体が動かない、というべきか。
俺は確か、夜道を歩いてて、そしたら…
もしかして俺、死んだ?
状況を呑み込めずにいると、ぼんやりと脳内に直接響いてくるような声が響いた。
まるで導くような声に従うと、霧が晴れるように視界がはっきりとしていった。
それは、まるで遺跡の中のような空間であった。
『はじめまして、ダンジョンコア6263番』
先ほど響いてきた声が、今度ははっきりと聞こえてきた。
ここはいったい…というか、迷宮番号ってなんだ?
『あなたは異界での命を不幸に散らせ、新たな生を受けたダンジョンコア…この名もなき迷宮の主となる存在です』
説明されてもわからん…と、考えていると。
『今から必要な情報を送り込みます。』
…その言葉に疑問を浮かべるよりも早く、脳内に情報が流し込まれる。
その情報量に脳が割れるような感覚と、それに伴った声にならないうめき声が漏れ出た。
『…情報の移送が完了しました。それでは、よいダンジョンコア生を』
…あまりにも強引な手段ではあったが、それでも自分が現在置かれた状況を理解することはできた。
誰だかは知らないが、感謝しておこう。
割れそうなほどの頭痛が収まったあたりで、自分の情報を整理するため、教わった技術を行使することにした。
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名称:なし
種族:迷宮核晶(No.6263)
レベル:1
性別:なし
称号:【迷宮の主】
スキル:【守護者契約Lv☆】【迷宮操作Lv☆】【化身生成Lv☆】【回復魔法Lv1】【鑑定Lv1】【念話Lv1】
能力値
体力:F
筋力:F
防御力:F
俊敏性:F
魔力:F
幸運:F
【迷宮の主】
迷宮を支配するダンジョンコアに与えられる称号。
特殊効果:迷宮内部の好きな場所への転移および視界の移動、迷宮内部の編集(ただし、外部からダンジョンコアまでの往復が可能な状態でなければいけない)
【守護者契約Lv☆】
許可された対象の魂をダンジョンコアに取り込み、対象をダンジョンモンスターに変異させる。
【化身生成Lv☆】
自我を共有した化身を生み出し、姿を変えることができる。
保存できる姿に制限はないが、化身全ての合計能力値が本体を上回るようにはできない。
【回復魔法Lv1】
回復効果のある魔法を使用できる。
スキルレベルの上昇で使用できる魔法が増える。
【鑑定Lv1】
相手の大まかなステータスを確認できる。
ただし、抵抗された場合は確認できない。
【念話Lv1】
顔を見たことのある相手と一定の距離を通話することができる。
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確か、Lv☆ってあるスキルがレベルの上がらない特殊スキルで…
能力値はF-が最低でS+が最高…ってことは、今の俺って最弱クラスってことか…
まぁレベルも1だし、仕方ないか。
とりあえず俺の体は動かないコアになってるし、この【化身生成】で動ける身体を作った方がよさそうだな。
そう考えた俺は、【化身生成】を発動させた。
せっかくなら美少女に…
種族まで選べるのか、なら…
せっかくなら何個か…
などと独り言を呟きながら(発声器官が無いから脳内で、だが)、俺は化身を作っていった。
気が済むまで凝り、満足いく姿がいくつかできたころ。
自分の直感が、迷宮への侵入者を感じ取った。
迷宮への初めての客の顔を拝んでやろうと視界を飛ばすと、そこにいたのは。
「まさかあんなにうまくいくとは思わなかったですねアニキ!」
「当然よ!この俺様にかかりゃ、護衛もない馬車なんて余裕なんだよ!」
「…」
「にしても、まさかこんな都合よく遺跡なんてもんがあるなんてな!」
「ですねアニキ!」
あまりにもテンプレな、恐らく盗賊であろうボスと子分のコンビ、それと奴隷らしき黒髪の少女だった。
…確か、この迷宮内で死んだ生き物の魔力は迷宮に取り込まれるんだっけか。
迷宮の入り口ギリギリまで視界を飛ばすと、恐らく彼らに襲われたであろう馬車の残骸と、商人らしき死骸があった。
…いや、ダメだ。いくら犯罪者とはいえ、自分から殺しに行くのはなんか…気分が悪い。
とはいえこのまま犯罪者を野放しにするのも…そうだ!
俺は先ほど【化身生成】で作った少女の姿を使い、迷宮の影から彼らのもとに足を運んだ。
「…おい、お前。人の家に入り込むのに挨拶もなしか」
「…なんだテメェ。俺様は今機嫌がいいんだ。水差すんじゃねぇ!」
予想通りの反応が返ってきた。
「でもアニキ!こいつなかなかの上玉ですぜ!さっき拾った奴隷と一緒に売り飛ばせばいい金になるんじゃねぇですか?」
こっちも予想通り。
自分で言うのもなんだが、この化身はかなり顔がいい姿である…俺が盗賊の立場でも同じことを言っただろうな、という程度には。
「…まったく、家主に挨拶もしないどころかその態度…罰が当たるぞ?」
そう言い残し、化身を戻す。
すると、少女の化身は足元から透けてゆき、消えた。
そしてその直後、盗賊コンビの足元に落とし穴を生成する。
全長もなく足元に発生した落とし穴、そうそう回避できるものではない。
しっかりと落とし穴に引っかかり、目算10mはありそうな穴に落ちていった。
今は視界のみを飛ばしているので声は聞こえないが、おそらく慌てていることが顔からよく分かる。
そして、奴隷の少女に対して救助を命令していることも。
そのタイミングで、俺は【念話】を用い、奴隷の少女に話しかけた。
それはなぜか?
答えは【守護者契約】のためである。
ということで、彼女のステータスをご覧あれ。
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名称:なし(剥奪済み)
種族:獣人族(猫)
レベル:6
性別:女
称号:【奴隷】
スキル:【剣術Lv3】【身体強化Lv2】【直観Lv1】【奴隷封印Lv3】
能力値
体力:D
筋力:D
防御力:E
俊敏性:C
魔力:D
幸運:F-
【剣術Lv3】
剣を用いた技術を使うことができる。
【身体強化Lv2】
魔力を用いて体力、筋力、防御力、俊敏性を上昇させることができる。
【直観Lv1】
直観により危機を察知できる。
【奴隷封印Lv3】
奴隷に対して行われる封印。
このスキル以下のレベルのスキルは使用できず、スキルレベルも上がらない。
また、経験値を得てもレベルが上昇しない。
より上位の契約を行うと破棄される。
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おわかりいただけただろうか?
今の貧弱ステータスの私よりも圧倒的に強い。
彼女を仲間にすれば一気にこちらのパワーも上昇するってもんだ。
ということで、俺は彼女に念話で語りかけた。
『…聞こえますか?』
…ちょっとそれっぽい感じにしたのは、少しでも成功率を上げるためである。小細工、大事。
『だ、誰ですか…!?』
『私はこの迷宮の主…貴女を私の迷宮に迎えたく、こうして言葉を届けています』
声はあの美少女の時の透き通るような声である。
そのせいか、こちらを神か何かと勘違いして、ずいぶん戸惑っているようだ。
呆然と立ち尽くしているのが見える。
『いったいなんで…私なんかに…?』
『貴女には才能がある。守護者としての才能が…』
『でも…私は裏切られた。初めて会った相手は信じられない…』
…そうか。
こんなに強いのに、それでも奴隷なんかになったのにはそれなりな理由があるとは思ったが…
『その話、詳しく聞かせてもらってもよいですか?』
『…私は、仲間だと思った彼らに毒を盛られて…奴隷術で縛られて、そのまま…』
『…わかりました。私ならその縛りを解いてあげられるはずです。それを対価としましょう。私からは奴隷の縛りからの解放と、今後一生裏切らないという契りを。対価として貴女は、守護者として迷宮に迎えられる…どうですか?』
『…わかりました。それなら…お願いします』
契約成立、だな。
俺はすぐに少女のもとへ化身を飛ばした。
「先ほどぶりですね」
「あ、あなたが…!」
「それでは、契約を交わしましょう。さあ、手を出して…」
まるで救いを求めるかのように、彼女は手をこちらに伸ばす。
その手を俺は握ると、【守護者契約】を発動させる。
すると、彼女の体が光に包まれ…
「これが、私…」
そこにいたのは、美しい毛並みをした、白猫の少女だった。
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名称:なし
種族:迷宮獣人族(猫)
レベル:15
性別:女
称号:【迷宮守護者】
スキル:【剣術Lv5】【身体強化Lv5】【直観Lv3】【氷魔法Lv2】
能力値
体力:C
筋力:C
防御力:E
俊敏性:B
魔力:C
幸運:F-
【迷宮守護者】
【守護者契約】を行ったものの証。
効果:自分の主の迷宮内で全ステータスが3ランク向上、ダンジョンコアが破壊されない限り魔力を用いた蘇生が可能
【氷魔法Lv2】
氷属性の魔法を使用できる。
スキルレベルの上昇で使用できる魔法が増える。
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…凄まじい力だ。
3ランクってことは…今の彼女は実質、俊敏性Aに相当するってことだ。
しかも、俺の魔力の限り蘇生可能。
【奴隷封印】のせいで上がっていなかった分のレベルも一気に上がり、とんでもないことになっている。
これは…かなりいい仲間を手に入れたかもな。
「そうだ、貴女の名前は何ですか?」
「…過去の私は、あの毒を盛られたときに死にました」
「…そうですか」
…いや。この口調はダメだ。
仲間になった以上、嘘を吐き続けるのはよくない。
「わかった…お前は今日から『テト』だ!よろしくな、テト!」
「了解、ご主人!」
よし、これですべて解決…
「テメーら!俺様を無視しやがって!」
…あ、忘れてた。
邪魔されないように落とし穴に落としたものの、これに契約を結ばせるのはかなり難しいだろうしな…
と思っていると。
「ご主人、こいつらは私に任せてもらっても?」
「…そうだな、お願いするよ。あと、俺とはタメ口で話してもらって構わないよ」
「わかった、ご主人。【氷柱落とし】」
そう言うと彼女は落とし穴に氷柱を落とし、盗賊はあっけなく絶命した。
それと同時に、肉体に魔力が満ちていく感覚があった。
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名称:なし
種族:迷宮核晶(No.6263)
レベル:10
性別:なし
称号:【迷宮の主】
スキル:【守護者契約Lv☆】【迷宮操作Lv☆】【化身生成Lv☆】【回復魔法Lv2】【鑑定Lv2】【念話Lv2】【剣術Lv1】【身体強化Lv1】【直観Lv1】【氷魔法Lv2】
能力値
体力:F+
筋力:E
防御力:F
俊敏性:E
魔力:E-
幸運:F+
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おぉ。
盗賊たちの魔力と、おそらくテトの経験値も少し流れてきたのだろう。
一気にレベルが上昇し、スキルも増えている。
体感的にもなんだか強くなった感もあるし、成長後特有の万能感があった。
そうして、俺のダンジョンコア生が幕を開けたのだった…
No6263はラビリンスのもじりのつもりです。