ラファンの街を散策しよう!2
しばらく道なりに歩くことにした。特に行くところもなく、何となくぶらぶらと街並みを楽しみつつ歩いていく。
通りを歩く人々が段々と少なくなっていき、よりのんびりと穏やかな街並みを感じることが出来た。そして、建物が少なくなり開けてすぐ一つの建物が目に飛び込む。
「教会…?」
「あっいたぁぁあ!」
するとその瞬間、目の前から面と向かう形で歩いていた黒みを帯びた紅色の髪色をした少女が盛大に転んだ。
私たちは、その少女にすぐに駆け寄る。そして、私は腰にささっている杖を取り出してその少女の怪我をしている肘部分に向け小さく【キュア】と唱えた。
キュアは、たいていの外傷を治すことが出来るが、そこまで万能な魔法でもない。それに加え、人それぞれ得意魔法があり、全く適性のない魔法は使うことが出来ないのだ。キュアは、光属性の魔法であり、適性のある人は少ないと言われている。母に少なくとも覚えられるなら覚えておいた方がいいと言われ、幸いにも光属性の適正もあったようで念のために覚えておいたのである。
私が掛けたキュアは、みるみる彼女のけがを治した。
「あ、あの、ありがとうございます…」
その少女は、片目を暗い赤紫色の髪で隠しており、全体的に自信のないような暗い印象を感じるような少女であった。服装は、暗い感じのロングスカートを身につけており、より地味な印象を強めていた。歳は、私に近い12、13ぐらいの見た目だと思う。
「他に怪我してるところはない?」
「だ、大丈夫です…」
そして、完治したのを確認し立ち上がろうとした瞬間、その少女に腕を掴まれた。
「あ、あ、あの!もしかして…この街は、は、初めてなのでしょうか…?」
どうしてそう思ったのかは疑問だったが、聞き返すことをせず、素直にこくりと頷いた。
「やっぱり!わ、私は、ここに…幼い頃から住んでいるので……その…よ、よければ、お礼にあ、案内をさせてくだしゃい!!」
あ…噛んだ。
その少女は、自分が噛んだことにすら気付いていないのか訂正することも慌てふためくこともせず、恥ずかしそうに顔を赤くしながらもじもじとしていた。
「うん、案内してくれると助かるかな」
その私の言葉を聞いた女の子は、ぱぁーと顔を明るくさせ何回も小さく頷いていた。
「そういえば、自己紹介がまだだったね。私の名前はマナ、それで隣にいるのがアイト」
「アイトです。よろしく」
アイトは、ふわっと周りに花が出たかと錯覚するぐらいの爽やかで自然な笑顔を向けた。
だが、その女の子はその笑顔に微塵も反応することなく、何故かアイトを強く睨み、敵対心を剥き出しにしていた。
そして、すぐに私の方に向き直る。その時は、先ほどよりも少しだけ落ち着いたのか少しだけもじもじしながら小さく俯いていた。
「わ、私は、あ、アセビといいます!よ、よろしくおねがいしましゅ!」
アセビは、勢いよく頭を下げて自己紹介をしてくれた。
なに、この子可愛い。
私はそっとアセビの頭の上に手をのせて優しく撫でた。
「ふわぁ……わっわっ!うわわ!わわっ!」
「かわいぃ…あっいた!」
思わず、心の声が漏れてしまった。その途端、後ろからアイトチョップが飛んでくる。
「あまりアセビさんをからかわないの、アセビさんも困ってるでしょ?」
そして、アセビちゃんの方を見ると、ガルルルルとうなり声をあげてそうな程にアイトのことを何故かにらんでいた。
「な、なんか睨まれてない…?」
そのアセビちゃんの威嚇的な視線を感じ取ったのか、アイトが耳打ちにこそこそと尋ねてきた。
アイトが何をしたのかは知らないが、私だけでも同情しといてあげよう…どんまい。
「それじゃあ、案内よろしくね」
「はい……!ま、まかせてください!」
アセビは、気合を入れるように握りこぶしを作り、フンスと鼻息をたてた。
◇◇◇
私たちは、アセビに案内されることとなり、ちょうど昼頃だったので、昼食におすすめのお店に連れて行ってもらった。
そこは、女子が良く行きそうなおしゃれなカフェというイメージの場所であり、現に女子が多いように見えた。アイトにとっては、入りにくい場所だとは思う。
私は少しだけ心配しアイトの方を向く、するといつも通りの爽やかな笑顔をしていた。
うん…何も心配する必要はなかったみたい。
「アセビちゃんは、よくこのお店に来るの?」
その言葉にアセビちゃんは急に顔を赤くして、恥ずかしそうに両手を振って否定した。
「わ、私も…は、初めてなんですけど、いつも…と、遠目から見てて…可愛い女の子がたくさん、い、いるから…ま、マナさんもよ、喜んでくれるかなって……思って…」
私のことを考えて、いつも入らないところに勇気を出してってこと!?
めちゃくちゃ可愛すぎる…
私たちは、お店に入り席に着いた。やはり、店内には女の子もたくさんいるが男女カップルで入ってきてる人もちらほらといた。若い人たち向けのお店なのかもしれない。そして、そのお店のおすすめの料理を注文した。どの料理もおしゃれな物であり、私には似合わないなぁと心の中で呟くのだった。
そして、食事をしながら少しだけ心に引っかかっていた疑問をアセビちゃんに聞くことにする。
「そういえば、アセビちゃんはどうしてあそこにいたの?」
アセビちゃんと出会ったのは協会から出たあたりの場所。私たちは協会に向かう道なりに歩いていたので、アセビちゃんは協会から出てきたということになる。教会に行く目的は、大体想像できるが…それでも、私は聞かずにはいられなかった。
「わ、私の…お母さんが、小さい頃に亡くなって…それで、毎週土曜日に協会に行くことにしてるんです」
私は、これ以上足を踏み入れていいのか少しだけ迷った。さっき初めて会ったばかりの相手に踏み込んだ身内話を聞いていいのか。自分でも無神経だと思った。それでも、あの場面でとても違和感を感じた。この違和感を拭うには聞くしかないとそう思った。
「お父さんは、どうしたの?」
アセビは、その言葉にビクッと体を反応させた。
違和感…それは、母の死を弔いに協会に行くのは分かるが、どうしてアセビちゃんのお父さんはあの場にいなかったのか…離れて暮らしているなら納得できる。でも、幼いころから住んでいたと言っていたし、今の反応を見るにそういうわけでもなさそうだった。
「お父さんは……」
「せっかくのお出かけでしょ?暗い話は、この辺でやめとこう」
そこで、アイトが食事を食べ終え、話を中断させた。
「そうだね、私も無神経だったね…ごめんね」
「い、いえ!私は、大丈夫ですので」
そして、全員がランチを食べ終えお出かけの続きをすることにした。
ほんとにいろいろな場所があった。魔法使いは知っておくべき場所である杖屋から色々な効果を付与するポーション屋、そして、冒険者ギルドまでたくさんの施設があった。
もし私が、ルミエールに合格したら新しく出来た友達と一緒に色々な場所に遊びに行くのかなぁ~なんてね。
時間帯は、夕暮れをさし始める頃、私たちはのんびりと広場の辺りを歩いていた。
「アセビちゃんはどうして、目を隠してるの?前髪短くしたら、きっと、もっと可愛くなるよ!」
その言葉に先ほどまで楽しそうに笑っていたアセビの顔が曇る。そして、歩みを止めその場で地面を見るように俯いた。
「どうしたの?アセビちゃん」
そして、ゆっくりと顔をあげたアセビちゃんは――泣いていた。
『マナさん……私を救ってください』
時間が止まったかのように、ただ静かに見つめあった。
「それってどうゆう……」
その質問の返事を聞くことは無く、アセビちゃんはすぐに走ってどこかに行ってしまった。私は、追いかけることが出来なかった。まだ、私はアセビちゃんのことを追いかけてはいけない気がしたから――。
◇◇◇
そして、私はその日を終え、その次の日はアイトからビシバシと隣で復習、テストの傾向、対策を叩きこまれた。終いには、よくそれで受けようと思ったなと言われた。それで、私はアイトに座学試験が合格ラインを越えなくても実技試験で合格ラインを超えるつもりだから!と自信満々に宣言した結果、日曜はお出かけ中止になったのだった。
ちなみに、試験は二日間にかけて行われ、座学試験と実技試験、そして実力試験の三つに分かれている。そして、合格するにはその三つの試験の合計が合格ラインに到達しなければならない。それぞれで合格ラインが引かれているのでそのすべての試験で合格ラインを越えれば合格は確実だろう。だが、人それぞれ苦手分野もあるわけで、三つの合計が合格ラインを超える条件は、その救済措置だと思う。
それでも、その合格ラインは非常に高く、どれか一つでも足を引っ張る形となれば、不合格は可能性として非常に大きくなってしまうだろう。
なので、アイト……先生がいま目の色を変えて、いつもの爽やか優男ではなく、鬼教師としてビシバシ叩き込んでいるのである。
「難しいぃよ!」
「早くその問題を解くように」
「は、はいぃ」
明日の試験は、本当に大丈夫なのだろうか…少し前までは自信があったのに、今は全くと言っていい程その自信が嘘のように掻き消え、もう不安しか残っていなかった。
「明日は何とか乗り越えられますように」
「乗り越えるだけじゃ落ちるぞ」
「は、はいぃ」
今日一日は、明日のために頑張りたいと思います。
ここで頑張らないと、夢をかなえることは難しくなる。必ず合格するんだ――。
「頑張るぞ!おー!!」
「次はその問題を解いてね」
「は、はいぃ」
そんな感じで、明日の試験に備えるのでした。