ラファンの街を散策しよう!
試験は土曜、日曜を挟んだ月曜日に行われる予定だ。その二日間をかけて、私はこの都市についてもう少し調べようと思った。
今の段階で知っていることと言えば、魔法都市であり、見た感じ最新の技術も取り始めたところである様子。そして、建物はどれも洋風のレンガ造りの家や石造りの家が多く見受けられる。それでいて、街を歩く人は皆、見慣れない電子機器のような物を持っているような情景であった。
「今日は街を散策していこうと思います!」
私は宿で朝食をとりながら、朝から爽やかオーラを放っていそうなアイトにそう宣言した。
「マナ…筆記試験もあるみたいだけど、今のうちに復習しておかなくてもいいの?」
私はその言葉に一瞬冷や汗をかくも、すぐに調子を取り戻す。
「じ、自信はあります!」
「ほんとかなぁ」
いつものように私の言葉を半信半疑で聞いている彼は、今日も意地悪く笑いながら聞いていた。
「と、とにかく!今日は散策します!」
その言葉を言い終え、私は、少しだけ食べるペースを上げた。
◇◇◇
「それで、どこに行くの?」
「うーーーーん、どこ行こっか?」
アイトは、その言葉に大きくため息をついた。
この都市に来たのは初めてなのだ。いくら情報をかき集めたからといっても限度はある。どこに何があるのかとか、どういうものがこの都市のおすすめなのか、そんなことは全く分からない。それどころか今知ってることは、魔法に優れている都市というぐらいなのだ。どこに行こうか?と聞かれても分からないとしか言えないよ…
「そんな事だろうと思ったけどね…そうだなぁ…あっ!そうだ」
そう言った彼は、私の腕を掴んで走り始めた。
「うわぁ!なになに!?」
「今一番、マナにとって必要な物があるんだ!」
「必要な物…?」
私にとって必要な物って何だろうか…?お金?技術?知識?どれも必要な物だけれど、そんなすぐには手に入らないと思うんだけど…
そんなことを考えながらも、アイトは真っ直ぐその場所に向かって走った。
そして、着いたところは――。
「やっぱり女の子なんだし、服装には気を使わないとね」
アパレルショップでした。
「ちょ、ちょっと待って!私は、この服で満足してるから!」
母の着ている服をまねて着始めた、今では毎日着る服として愛用しているファッションというには、少し雑な気もするような衣装。私は、これだけで生きていける!
「いいからいいから」
「いやだぁぁぁああ」
嫌がる私の腕をしっかりと握り、思ったよりも力のあるアイトに為す術もなくずるずると入店させられるのだった。
ショップ内に入ると、たくさんの衣装たちが私たちを迎えた。カラフルな衣装に可愛らしい衣装、ボーイッシュな衣装まで揃えられている。そんな風景を見て、私は――。
とても冷め切った表情をしていた。
「それでも、女子だよね?この風景を見て、ワクワクしないことあるの?」
「先に言っておくけど…私、お金ないからね?」
自分の持っているお金は、母から預かった革袋に入っているお金とお手伝いで少しづつ貯めていた自分の雀の涙ほどのお金だけなのだ。そんな自分が、こんなキラキラとした場所に入ること自体許されるわけがない。それは、そうゆう顔にもなります。
「試着するだけならただでしょ?大丈夫だから…ねっ!」
「むぅ…わかった。それだけなら…」
そんな感じで流された私は、店員がすすめる服やアイトがすすめる服を交互に着ていくことになったのだった。
◇
「それでは、まずはこの服から着てみるのはいかがでしょうか」
そう言って、店員に手渡された服を着てみる事にする。
◇
バサッとカーテンが開かれる。
黒いワンピースのような服に白いエプロンを付けた、メイド服のような見た目で頭にはうさ耳が付いている。
「何でこうなった!!」
「とてもお似合いです!!お客様!!」
店員は目をキラキラさせ、手を握り合わせながら拝むかのようにしていた。
「うぅ…アイト!他の服を持ってきて!!」
「結構似合ってるのになぁ」
「いいから!!」
そういって、アイトの持ってきた服を試着してみる。
◇
バサッとカーテンが開かれる。
今度は、真っ白のシャツワンピースを身につけ、腰にはよりしっかりとした雰囲気を感じさせるように紐が軽く縛られており、腰より上は小さく、腰より下のスカート部分はふわっと柔らかく広がっていた。そして、頭には向日葵のような雰囲気を持つ少しだけつばの広い麦わら帽子をかぶっており、その姿をより可憐なものに昇華させるだけでなく、可愛らしさまで加えたようなどこか爽やかなイメージを持つ見た目となった。
「ど、どうかなぁ」
私は、あまり着慣れて無い服に少しだけ恥ずかしさを持ち、もじもじしながら上目遣いでアイトに問いかける。
「とても似合ってるよ」
アイトは、いつも通りの爽やかな笑顔でそう私の見た目をほめた。その言葉に少しだけ、調子の出てきた私は、ノリノリで渡される服を着始めるのだった。
◇
バサッとカーテンが開かれる。
「ニーハオ!!」
私は、軽く足を少しだけ前に出し、中華っぽい構えをとる。
そう言いたくなるのもそのはず、今度は、赤色が基調のドレスで金色で刺繍が入れられてあり、脚の部分は側面がはだけているような、いわゆるチャイナドレスなのだから。
「感動しました!!お客様ぁぁぁあああ!!!」
「う、うん…似合ってると思うよ…」
店員の方は、神様でも見ているかのように手を合わせ、地面に足を揃えて正座をし、何度か頭を下げていた。それに反して、アイトの方は少しだけ苦笑いを浮かべていた。
絶対、この店員さん面白がってるよ…
「アイト、私に似合いそうな服…持ってきて」
「今すぐ持ってくるよ…」
そしてしばらくして、アイトが服を持ってくる。それを受け取って、すぐに着替える。
◇
バサッとカーテンが開かれる。
「似合う?」
今度は、白いシャツの上に真っ黒のコートを身につけ、ズボンはかっこよさを引き立てる脚の形がはっきりとわかるジーンズをはいている。そして、頭には黒いキャスケット帽を被り、より魅力的な雰囲気を引き出していた。
私は、壁に背を付け前屈みのまま、帽子に指を軽くかけ、片方の足で体を支えながら、もう片方の足を軽く曲げるようなポーズをし、鋭い目でアイトを見つめる。
「かっこいい!!!最高!!!」
アイトは、珍しく喜びを表現するかのように両手をあげ、何度も万歳をしていた。対して店員の方は、まだ拝んでいた。
この人、ガチだった…。
「店員さん!!二着目と四着目を買います!!」
アイトは、ものすごい勢いで店員さんに詰め寄ったが、店員さんの方はものすごくショックを受けたような顔をしていた。
「あ、アイト!試着するだけって言ってたよね?その、申し訳ないよ!」
「ここで、買わないと一生後悔する気がするんだ!」
私の言葉に意味の分からない言葉で返すアイトにこれはもう止められないやつだ…と止めることをあきらめた。今度、別の機会にこの恩を返そうと心に誓うのだった。
そして、店員さんはというと、ものすごくショックを受けた顔で会計を進めていた。そこになぜか私は感心するのだった。
◇◇◇
私は、二着目の真っ白のシャツアワンピースに身を包み、街の散策を再開することにした。
広場によると、この都市に着いた日と変わらない様子でたくさんの人があらゆる魔法で観光客を楽しませていた。
私たちはそのたくさんいる魔法使いのうちの一人のところに立ち寄った。その魔法使いは、空に絵をかき、その絵たちにマナを注ぎ込むことによって意思を持ったかのように動かす魔法を巧く、観光客たちに見せていた。
ウサギやカメ、龍や虎、果てはキリギリスやアリ、そんなどこかで見たことのあるような組み合わせの動物や昆虫たちを含む生き物たちが楽しそうに自由に動き回っていた。
私は、ふと一つのことを疑問に思って聞くことにした。
「そんなに毎日魔法を使って、マナは枯渇しないのでしょうか?」
その男性は少しだけ驚いた表情をしたが、すぐにほほ笑んで答える。
「自分のマナ量は、随時この首に下がってる小さな宝石で確認してるんだよ」
そういって、服の中に隠れていた首から下げられた薄い水色に小さく発光する宝石を見せてくれる。
その男の人は、私の手の甲に書かれている魔法陣をちらっと目で確認して、言葉を続ける。
「君は、あのルミエールの試験を受けるつもりなんだね。もし、受かることが出来れば、このペンダント…【ビジュー】をもらえると思うよ」
「ちなみに、この宝石の光り方は最大マナ量から7割までは白く発光して、7割未満から5割までは水色に発光、5割未満から3割までは橙色に発光、そして、3割未満から1割までは赤色に発光するんだ。一割未満になった場合は、その光を失うみたいだよ」
男の人の言葉にアイトが詳しい説明を付け加える。
「ということはつまり、お兄さんは水色なので残りのマナ量は7割未満から5割の間ということでしょうか?」
「そうだね。この光が橙色になったら、やめようかなって思ってるんだ。それも、3年ぐらいはまだあるだろうけどね」
「結構多いんですね!!」
そう言うと、男の人は困ったような顔をした。
「僕のマナ量なんて普通以下だよ。僕よりも多い人はたくさんいるからね」
毎日これだけの魔法を使っても、3年ぐらいはあると言っていたのにそれでも普通以下だなんて想像が出来なかった。母はもちろんのこと、ばぁばもこのことは知っていただろう。それでもなお、私のマナ量が異常だと教えてきた二人なのだ。どれだけ私のマナ量はあるのだろうか…。
「君たちがルミエールに合格する事を願ってるよ」
思考に耽る私に男の人は優しく微笑みかけそう言って、その手に持つ杖を空に向け何かを描き出した。すると空にたくさんの小鳥たちが生み出され、その鳥たちは群れになって私たちの周りを包み込むように飛んでみせた。
そしてしばらくたち、その小鳥たちはマナの粒子となり姿を散らしていった。
そして、視界が開け目に映った男の人は、笑顔でウィンクをした。