知識の探求
「魔法にはそれぞれ属性が存在し、火、水、風、土、光、闇の六つに分けられ、例外として無属性が存在します。今回は、無属性に話していきます。魔法使いの入門編23ページを開きなさい」
この学園では、授業によって担当の教師が変わる方式がとられている。そして今回の教科は、基礎魔法Ⅰであり、魔法の基礎について教科書をもとに授業する内容の教科である。
「無属性の魔法には、シールドやステアといった属性を持たない魔法が分類されます。理論的にこの無属性の適性を持たない人はおらず、等しくすべての人が無属性魔法を行使することができます」
私は、メモ程度にノートに書きこむ。要するに無属性魔法の適性を持たない人はいないってことだよね。
「皆さんはすでに知っていると思いますが、魔法には質というものが存在します。これは、練度と言い換えることもできます。この質を高めるには、何度も同じ魔法を繰り返し扱うこと。そう学んでいるはずです。しかし、無属性は例外であり、無属性魔法には質が存在しません。なので、シールドやステアを幾度も行使したところでその効果が上がることはないのです」
確かにステアとかはよく使うけど、効果が上がったような実感はないなぁ…
「ですが、無属性魔法に分類されるシールドの強度を上げる方法があります。これは、確か…入学試験の座学で出題されていましたね。ということは、ここにいる生徒は全員分かるはずですね!復習していれば…ボソッ」
やばい。復習なんて言葉、私の辞書にはないのですが…
「それでは、誰かわかる方は挙手して下さい」
しかし、というか案の定、その教師の言葉に反応して手を挙げる者はいなかった。
ははぁ~ん。なるほど、みんなも復習していないんだなぁ…ふふふ。私、一人じゃない!一人じゃないと分かった時のこの安心感は何物にも代えがたい!
「はぁ~それじゃあ…余裕そうな顔をしているマナさんお願いします」
安心感に浸っていた私は、教師に容赦なく名指しをされ慌てふためきながら起立し、
「わ、わかりません」
口角を引き攣らせながら、何とか答えた…というかすぐに白旗を挙げた。
「分からないのに、どうしてにやにやしていたのかは理解に苦しみますが、わかりました。座りなさい。それじゃあ、いつもやんちゃばかりするフーリッシュ君お願いします」
ふふふ、聞いた話によれば彼は合格ぎりぎりのラインであり、座学試験は目も当てられないほどの結果だったらしい…つまり、彼は答えられない!私は、一人じゃない!
「シールドの範囲を小さく限定して発動する」
「よくできました。正解です」
う、裏切り者ー-!
◇◇◇
「…となります。つまり…」
「マナさん…(コソッ)」
隣に座るアリウムさんが、私の肩をツンツンと優しくつつきながら声をかけてきた。私は、眠気と闘いながら、ノートに書かれているよれよれになった文字を見た後、アリウムさんに目線を移した。
「どうしたの…?(コソッ)」
「この後、図書室に行ってみませんか…?(コソッ)」
図書室といえば、確かとんでもなく広くて、蔵書数が世界でもトップクラスの多さを誇るとかなんとか…。一般の人も出入りが自由みたいで、たくさんの人が利用しているみたいだけど…本が多すぎて何を読んだらいいのか逆にわからなくなるんだよね…。
「一人じゃ心細くて…(コソッ)」
「行こう!」
儚い様子で小さく笑いながら気恥ずかしそうに尋ねる彼女に何をしてでも助けてあげたいと思った私は、すぐに快諾したのだった。
「マナさん、私語は慎みなさい」
「は、はいぃぃ!すいません…」
隣では、申し訳なさそうに眉を垂れさせながらも嬉しそうに小さく「ありがとうございます」とアリウムさんが呟いた。
「それでは、今回はここまでにしましょう。それと、もうしばらくすると使い魔召喚の授業があります。使い魔召喚の儀式は神聖なものですのでくれぐれも投げやりな気持ちで受けないように…事前に各々で調べておくとよいでしょう」
◇◇◇
「ひ、広すぎない?」
私たちは、昼休憩を利用して図書室に訪れた。
図書室というよりも図書館のほうがしっくりくるけどねぇ…
「そうですね…ここなら、知りたい情報や読みたい本などもきっと見つかりますね!」
確かにこれだけの本があれば、どんな疑問でも解決できそうだし、読みたいシリーズ本もありそう。
「お目当ての本を探してきますので、マナさんも気になることとかありましたら、お調べになっててください!すぐに戻ってきますので!」
そういって、アリウムさんは駆け足のような早歩きのような感じですたすたと階段を上って階上に向かった。
気になることかぁ…うー-ん。日ごろから本なんて読まないしなぁ~気になること…気になること…。あっ!そういえば、さっきの授業で先生が使い魔召喚について調べておくようにって言ってたよね。この機に調べてみようかな。
私は、司書らしき優しそうな顔のふんわりと小さなおじいさんに使い魔召喚についての本が置かれている場所を尋ねた。
「ほぉ~~たしかぁ、すぐそこだったような気がするのぉ」
「ぐ、具体的にお願いします」
「一階の三番ブロックのCの棚じゃな」
おぉ…ふにゃふにゃした感じで心配してたけど、結構しっかりした司書さんだ。
「召喚について書かれている物は、たくさんあるからのぉ~簡単なものなら、上の段から三番目の右から七冊目の本じゃのぉ~」
こ、細かい…。というか、おじいさんのさっきまでの閉じられて優しそうに微笑んでいるように見えた目元も今はカッと開かれて、のんびりとした口調に似合わず、圧がすごい…。
私は、小さく礼をしてすぐに教えてもらった場所に向かった。(正直、ちょっと怖かった…)
◇◇◇
「確か、ここだよね…。えっと…。Cの棚の…上の段から三番目の……右から七冊目……。初めての使い魔召喚……ほんとにあった」
『初めての使い魔召喚』と書かれたタイトルの本を持ち、司書の詳細すぎる情報に悪寒が走るのだった。
というか、この図書館…世界でもトップクラスで蔵書数が多いんだよね…?いや、気にしないでおこう…足を踏み入れたら戻ってこれない気がする…。
私は、冊子をめくる。すると、かわいい猫の絵が描かれており、その絵の下に『使い魔召喚とは』と書き出されていた。
使い魔召喚とは、その召喚者のマナを信号の発信源とし、異界からその信号をキャッチした者が訪れる。マナの質、量により訪れる使い魔の階級も変化し、精霊級とよばれる存在すら確認されていない一種の幻想的存在の階級もある。今までにたった一人だけが召喚できたといわれているがその記録も確かではないため伝説上のおとぎ話として認識されている。改めて、使い魔召喚とは、使い魔に召喚者が品定めをされる儀式のことを言う。
「品定めをされる儀式…。つまり、自分のことを認めてくれた子が自分のところにやってくるってこと?」
そっか…。じゃあ、もし私が召喚したらどんな子が来てくれるんだろう…。
ページをめくる。次のページでは、使い魔召喚の仕方について書かれていた。まず、使い魔召喚用の魔法陣にマナを注ぎ込む。それだけらしい。昔ながらの方法で血の一滴を垂らす方法もあるみたいだが、あまりお勧めはされていないみたいだった。
私は、パタッと本を閉じる。
「使い魔召喚についてはこれぐらいでいいかな!大体わかったし」
私は本を元の位置に戻し、すこしだけあたりに置いてある本を眺めることにした。
それにしてもいろいろな本があるんだなぁ…。ペットの飼いならし方…SMの回復快楽術…回復魔法の神髄…。ん?何か今…変なタイトルがあったような…。
そして、目線を隣に移すとある一冊の本が目に留まる。
「失われし魔法…」
私は、本を手に取り、まじまじと『失われし魔法』と書かれたタイトルを眺める。
そういえば、入学試験の座学の最終問題で出てたような…。さっきのフーリッシュ君に裏切られた屈辱的な敗北は決して忘れない…。復習してやる…!
私は、勢いよく冊子をめくった。冒頭では、失われし魔法と呼ばれるようになった所以が書かれていた。要するに、その魔法を使うにはリスクが生じるらしい。膨大なマナ量を必要とする魔法は、自身のマナ量がその魔法を行使するのに足りなければ、発動すらしなかったり。はたまた、魔法によってはルールが存在し、そのルールに反した場合も同様、魔法は発動しないなどなど…。
簡単には発動できない…。というより、発動できないからこそ『失われし魔法』と呼ばれているのかな…。
ページをめくる。それ以降のページでは、ページごとにそれぞれ違う魔法の名称と発動方法、魔法の内容について書かれていた。記録がないものや確認されていないものは、不明かまたはぼかして書かれていた。
適当なページを開いてみる。
このページに書かれていた魔法の名称は『光』だった。魔法の内容は、どんな闇をも払いのけ、一筋の希望の道を切り開くすべての民の幸せの象徴とされる魔法であると書かれていた。
「幸せの象徴…。幸せ…」
幸せだと感じたら、笑顔になってくれるのかな…。
私は、魔法の発動方法が書かれた欄に視線を移した。
発動方法は…
「光よ、集え。希望の光よ――。闇よ、散れ。不吉の調よ――」
その瞬間、光り輝く天輪のような魔法陣が周囲に顕現した。私は、意図的ではない魔法発動の予兆に焦り、すぐに魔法発動をキャンセルした。
「な、なんで発動したの…」
と、とにかくキャンセルできてよかった…。
気を取り直して、次のページを開いた。そのページに書かれていた魔法は、〈禁術〉存在マナ変換憑依術。魔法の内容に視線を移す。内容は、他者の存在をマナに変換し、何かの実体のあるものに憑依させる魔法。しかし、この魔法には膨大なマナを必要とする。そして、それは憑依させる対象にも当てはまる。そして、この魔法にはルールが存在する。その、ルールとは魔法行使者の最大マナ量が憑依させる対象よりも大きくなくてはならない。
禁術と呼ばれる理由は、なんとなくわかった…。他者の存在をマナに変換すること。それはつまり、実体の死を意味するってことだよね…?それに、魔法を発動するためのルールが厳しい。魔法を行使する人はもちろんだけど、憑依させる対象もとても大きなマナ量を持っていないと成り立たない。そして、行使者の最大マナ量のほうが大きくなくてはならないか…。
本に目線を戻すとその文の後に言葉が続いていた。
そして、魔法行使者と憑依させる対象、両者の同意があって初めて成立する。
それって、つまり……憑依させられる人は、自分が憑依させられるってわかってて了承するってこと?それって死ぬって分かってて受け入れてるようなものなんじゃ…。そんな、魔法…発動できるわけない。だから、失われし魔法なのかな…。
私は、静かに本を閉じた。
「おぉ…!マナ君、こんにちは」
声の方に目線を移すと、そこにはへんた…ハスノギ先生がいた。というか、あのきざったらしいお嬢さん呼びはどうした…。
私のジトーとした視線に察したのか、やれやれといった様子でハスノギ先生は肩をすくめた。
「お嬢さん呼びの方がよかったのかな?」
「いや、全然」
「おぉ……こほん、それよりも復習とは偉いじゃないか。マナ君は、勉学に励む様には見えなかったからね。印象を改めなければいけないね」
「それは、どうも」
「あの…マナ君?態度がやけに冷たくないかい」
「そんなことないですよ。普通です」
「そ、そうかなぁ」
「マナさん!」
その時、後ろの方から聞き慣れた声が聞こえた。すぐに目線を後ろに移す。そこには、アリウムさんがこちらに歩きながら手を軽く振っていた。片手には、一冊の本が抱えられていた。どうやら、お目当ての本を見つけたらしい…。
「あと、ハスノギ先生もごきげんよう」
「あとって…。なんだか、僕の扱いが酷くないかい?」
「売店の恨みは大きい…(ボソッ)気のせいですよ」
「そ、そうかなぁ」
なぜか、アリウムさんから不吉なものを感じたが、というか聞こえたが…。聞かなかったことにしよう。いや、明日の昼休みにさりげなく誘おう…。
「と、とにかくだ!勉学に励むことは素晴らしい。これからも君たちの活躍を期待しているよ。それでは、これで失礼する」
そう言い残し、ハスノギ先生は踵を返し、歩いて行った。
「それでは、教室に戻りましょうか。本も無事に借りられましたし」
同行者としてついてきた私は本当に必要だったのだろうか…。という疑問が心中をぐるぐると駆け回るような感覚がした。
「本って借りられるんだね」
「借りられますよ。マナさんも借りたい本を見つけたのですか?」
「うん、部屋に戻ってからも読みたくて」
「司書の方に借りたいと申し出れば借りられますよ」
し、司書かぁ…。
詳細すぎる司書の言葉が頭をよぎった。私は、頭は左右に振り変な記憶を振り切った。
「ちょっと、行ってくるね…」
「お待ちしてますね」
そして、申し出たところ案外すんなりと借りられました。
◇◇◇
私は、片目につけられている目を隠すための機具に触れる。
「マナさんに真実を伝えたら……嫌われちゃうかな…」
すると記憶の奥隅で「悪魔に憑りつかれた女」「不吉」「近づかないで」「なんで生きてるの…?死ねばいいのに」そんな心無い言葉が顔のない黒い悪魔のように見える人達から投げつけられる。
そっか、怖いんだ…私。他の人たちに対しては、こんなこと思わなかったのに…。マナさんにだけは、嫌われたくない――。
一人の少女は、ふと心の中に現れた気持ちを大切に抱くように両腕で体を包んだ。
小説書くの楽しい…。こほん!何でもないです…。