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魔法はマナとともに  作者: 神無月かなめ
第一章~あなたに出会えてよかった~
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希望に向けて走る君へ

「それでは、適性検査の結果を配りますねぇ」


 私は、目の前にふわりと現れた紙の適正判定の欄に目を凝らす。そこには、様々な適正のあるジョブの名前がずらりと羅列されていた。その中から、魔法使いと剣士の適性を探す。剣士は、一番上に書かれており、魔法使いは中途半端なところに書かれていた。


 というか、これって上の方が適正あるとかなのかな…そういう事なら、剣士の方が適正あることになるんだけど……そんな事ないよね?多分……


 でも、これで弟子入りに必要な試練を受けさせてもらえる!


 ◇◇◇


 本日の授業を終え、放課後の時間がやってきた。私は、荷物を持ち、師匠候補のいるトレーニングルームに向けて、歩みを進めていた。


「確か……デュランタ先生に聞いた話だと、この辺にあると思うんだけど……」


 放課後になり、ホームルームを済ませて退室する先生を引き止めてあの人のいる場所を聞いておいたのだ。デュランタ先生は、何故かムスッとしていたが、ちゃんと教えてくれた。


「あった!」


 そのトレーニングルームのドアには、『武器道場』と乱雑に書かれた看板が取り付けられていた。


 もうちょっと名前、どうにかならなかったのだろうか……


 あまりにもセンスのない名前の書かれたドアを押し開き、中に入る。すると、一人の女性が魔法学園では珍しい実物の剣を持ち、鍛錬に励んでいた。その女性とは、あの時ハスノギ先生に追われていた私を助けた凛々しい女性である。


 ドアが開く音が聞こえたのか、気配を感じとったのか、私が入ったことに気付き、その女性は剣を振る手を止め、こちらを向いた。


「なんだい?ほんとに来たのかい」


「弟子入りに来ました!」


「ほーう、それじゃあ、適性があったのかい?」


 その女性は、意地悪をするかのようにニヤッと笑った。


 私は、待っていましたと言わんばかりにすぐに鞄から一枚の紙を取り出し、バッと勢いよく開いて見せた。


「ふーん、意外と優秀なんだねぇ……分かったよ。試練を受けさせてやる」


「やったぁ!」


 私は、喜びを表現するかのように小さく飛び跳ねた。女性は、そんな私を窘めるように小さく手を上げ、それを制した。


「だが、喜ぶのはまだ早いよ。試練を乗り越えないことには弟子入りを認められないからね」


「私、どんな試練でも乗り越えてみせます!」


「どんな試練でもかい?そうかい、そうかい……それじゃあ」


 女性は、面白いことを考えているかのように小さく微笑みながら、顎に手を当てていた。


 私は、その女性の次の言葉に想像を巡らし、ゴクリと喉を鳴らした。


「私と戦いな」


 その言葉にこの空間の時が止まったかのような錯覚に陥る。


「へ?」


 そして、私の口から自分でも間抜けに思うほどの声がこぼれ出た。


 ◇◇◇


 私は、自分のアバターに包まれた体を眺める。グーパーと手を握ったり閉じたりしてみる。


「上手く『エイダー』を使えたみたいだね。さあ、戦おうか」


 彼女は、鈍く光る実物の剣を肩に乗せて挑発するかのように手のひらを上に向けて手招きをした。


「行きます!」


 私は、身体強化魔法【ステア】をいつも通り自身にかけ、魔法剣を作り、走り出した。そこまで、彼女との距離は離れておらず、すぐにその差は縮まる。彼女は、その場に立ったまま緩く剣をかまえ、私の攻撃を迎え撃つ準備をした。


 剣と剣がぶつかり合う。だが、それほど勢いよくぶつけたような音はならなかった。それは、彼女はただ、私を攻撃するために降っているのではなく、私の剣を捌くためだけに振っているからだ。


「その戦い方は、自分で身に付けたのかい?」


「いえ、私の母が剣で戦う方だったので…!」


「そうかい…」


 その後も私は剣を振り続けた、時には緩急もつけ素早く動き相手を惑わそうともしたが、なかなか上手くいかず私の剣は、彼女に捌かれ続けた。


 これじゃあ、埒が明かない……


「それなら……!」


 私は、彼女の後ろの足元に草のトラップを生成した。このトラップが起動すれば、彼女の足を巻き取り、体勢を崩すと踏んだのだ。


 しかし、そう上手くは行かず…起動したトラップは何も成すことなく、根元から引っこ抜かれる形となった。それどころか、植物に巻き取られた足を女性とは思えぬ力で持ち上げ私に蹴りを繰り出したのだ。


 私は、想像のできない一撃だったので横腹にくらってしまい、数メートルほど吹っ飛ぶ形となった。


「この程度なのかい?まあいい……次は、あたしから行かせてもらうよ」


 女性は、力を抜くように自然な立ち姿になるとその瞬間姿を消し、フラフラと立ち上がる私の腹に振り上げた彼女の足がめり込んだ。そして、そのまま私の体は宙を飛んだ。


「かはっ!」


 痛みは、ほとんど遮断されているがそれでも鈍くなる視界の中、彼女の追撃を防ぐため彼女に向けて、火の大きな壁を生成した。


「これで、ひとまずは……なっ!?」


 彼女は、体に魔法で生成した石の鎧のようなものを身に付け、火の壁に飛び込んできたのだ。そして、彼女は私を睨みつけたままその構えた剣を私に向かって振り上げた。


 私は、咄嗟の出来事で何も対抗することなく自分の身を守ろうと腕を前に出し、その攻撃を受けることとなった。


 その彼女の剣は、私の両腕を肘あたりで切り落とした。そして、そのまま私の体は受身を取ることもできずに地面に叩き落とされた。


 私の体は、アバターで作られているので死にはしないが、それでも切られた部分からは大量の体を構成するマナが溢れ出ていた。


「はぁ……期待はずれだよ。『剣姫』の娘だからと期待したが、がっかりだ…そういえば、さっき言ってたねぇ…母に戦い方を教えてもらったんだって?その割には、弱すぎる…あんたの母は教えるのが下手だったんだね」


 ピクッ


 そうだ……私が弱いと言われるのは構わないのだ。実際、弱いのだから仕方がない。だけど……母は…母を馬鹿にされることはあってはならないのだ。母は、教えるのが下手という訳では無い。ただ、私がちゃんと聞かなかったから……ただ、それだけの事なのに……


「子供だねぇ……」


魔法(マナ)生成【腕】……!私は、負ける訳にはいかない…!」


 失われた腕にマナが集まり、それが形となる。そして、私の腕として形を変えた。


 私は、改めて彼女の姿を捉えた。


「ほーう、面白い……あたしを楽しませてくれよ?」


 私は、自身にステアをかけ、駆け出した。だが、先程と同じでは結果も同じことになるだろう。だが、私には秘策があった。


 ぶっつけ本番となってしまうが、やるしかない……!


 そして、私は彼女と剣を合わせ続けた。


「おいおい、さっきと変わらないじゃないか」


「そう、思いますか?」


 剣と剣がぶつかり合う間隔が短くなるような錯覚を覚える。


「あんたの動き…まだ、早くなるのかい?」


 それには答えず、ただ彼女と剣をぶつけあった。そして、その時は、ようやく訪れた。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()


「もらった!」


 彼女が振り下ろす前にその剣の付け根に向かって、自身の腕に改めてステアをかけ、勢いをつけ剣を振り上げた。


 彼女は、驚いた表情と共にどこか楽しそうに笑いながらその剣を大きく宙に飛ばされた。


「これで私の勝ちです!」


 私は、剣を飛ばされがら空きになった腹に姿勢を低くして、構えていた剣を横薙ぎに思い切り振った。


「ぐはっ……」


 今の声は、彼女のものではなく私の喉から出た声であった。この状態でどうすることも出来ないはずなのに……どうして、私の背中に剣が刺さっているのか……理解できなかった。


「まだまだ子供だねぇ…」


 腹に貫通した部分から溢れ出るマナを止めることも出来ず、私の構成されたアバターは、崩れて無くなった。


 ◇◇◇


「なかなか面白かったよ。やるじゃないか」


 私の心境は、今それどころではありません。なぜなら、母のことを馬鹿にされっぱなしというのもありますが、負けてしまい、弟子入りを果たすことが出来なくなったからです。


「なんて、暗い顔をしてるんだい。一度負けたぐらいでめそめそしてたらこれからどれだけめそめそすることになるのか…想像もできないねぇ」


「え?」


 それって、つまり……どういう……


「言っただろ?弟子入りの条件は、私と戦うこと…最初から、弟子入りすることは決めてたんだよ」


「よ……よかったぁぁぁ!!」


 私は、緊張していた分を一気に力が抜け、地面にへたれ込んだ。


「それと……あんたの母も馬鹿にして悪かったね。それにしても…あいつに娘とはね……時間が経つのは、早いねぇ」


 やっぱりこの人は、私の母の師匠なのだろう……この人なら、私は強くしてもらえる…母のように。


「自己紹介が遅れたね…私の名前はガーベラ。よろしくな」


「私は、マナと言います。よろしくお願いします!」


「はは……こんな見た目で花の名前なんて似合わないだろ?」


「いえ、お似合いだと思います!」


「そうかい…」


 そして、私はガーベラと言う名の師匠を得たのであった。


 ◇◇◇


「ただいまーーー!!」


「お、おかえりなさい…マナさん」


 私は、寮の自室に戻り、ルームメイトと挨拶を交わした。


「それにしてもガーベラ先生って強いよね……」


「う、うん…き、聞いた話によると本気を出したら、どんな人もそ、その場に1秒と立ってられない……って」


「何それ、怖い」


 ということは、本気ではなかったのだろう……まあ、何となく分かってたけど…


 そして、私はふとアセビの顔を見る。アセビは、いつも通り右目に眼帯をつけ、前髪で隠していた。


「やっぱり、部屋でも眼帯は外さないんだね…」


「あ……はい。ごめんなさい……」


「謝らなくてもいいよ。人に言えないことってみんな持ってるものだと思うし……」


 私もマナ量のことは、まだ誰にも話してないしね……


 いつか話してくれるといいな……目を隠す理由とか……アセビちゃんのこととか……


 そして、私たちは互いにおやすみと言い静かに眠りについたのであった。




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