2 世界の均衡
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俺は、鯨の落ちた方向へと向かって歩いていた。
そして、まず、この状況の整理をしていた。
歌が歌えないことはさておき、
俺は、トラックに跳ねられて確実に死んでいるはずだ。
だがしかし、今はこうして生きている。おかしい。
体を見て、触ってみる。
これといっておかしい所はないし、性別も男のままだ。
自分で言うのは気が引けるが、
おっさんというよりは青年に近く、体つきも悪くない。
容姿は鏡がないから確認できないが、きっと良い気がする!!!
何だかテンションが上がってきた。
もしかしたら、前世では経験の無いモテるというやつを経験出来るのかもしれない。
「よぉぉしゃーーー!!」
ガッツポーズ掲げ、上を向いたら空から何かが落ちてくるのが目に入った。
「危ない 危ない! どいて どいて どいてぇぇーー!」
*
「ここ、どこだ……?」
俺は意識を失っていたのだろうか。
気が付いたら、果てしなく大きな湖の上に一人ぽつんと自分がいる。
下を見ると自分の顔が映った。
この顔はよく見覚えのある顔だった。
現実世界の俺だ。
〝ポチャンッ〟
水の跳ねる音が響き渡り、音のした方を振り向くと、
そこには一人の少女が座っていた。
小学生くらいだろうか、美しい白髪で、目は少し青みを帯びている。
その少女の周りには小さな魚のようなものがぐるぐると泳いでいる。
「遅くなって申し訳ありません。
私からあなたに出来る事は、今は多くはありません。
しかし、必ずあなたに会うことになります。
落ち着いて聞いて下さい。
あなたはこのアイテーリアに現実世界から転生しました。
今は世界の均衡が崩れ始めておりまして、あなたに会うのも遅くなってしまいました。
今私からあなたに授けられるものはこの世界の言語理解能力くらいです。
読み書きの基本をあなたに与えます。
まずは、南のサハル砂漠を目指して下さい。
それと、ミーゼロッテという女性とは関わらないで下さい。
厄災に巻き込まれる前に……
逃げ…て……」
*
湖の上が霧に包まれ、少女の姿は見えなくなった。
だんだんと意識がはっきりとしてきた。
気が付くと頭の後ろに柔らかい感触がする。
俺はこの感触を知っている、そう、
これは、太もも!!!!
もにゅっとした感触で触ってみる。
「悪くない」
思わず口に出していってしまった。
「君、大丈夫?
いやー、いきなりぶつかっちゃってごめんね!」
そこにはナイスバディなお姉さんが一人。
そして、このシチュエーションはもしかして……
仲間獲得か!?
それと、この人の言葉が分かるのはさっきの少女のおかげなのだろうか。
やはり、この世界での言語は前世の世界とは違うのだろうか。
「いえいえ、大丈夫です。
こちらこそ気を失ってしまい申し訳ありません。
実は今、死んだ鯨を見に行こうと思って歩いていた所なんです。
あなたは何をしていたのですか?」
一応前世の感覚で、話したが、果たしてこの言葉伝わっているのか?
「私はね、ちょっちお仕事頼まれてて、今から行くところだったんだけど
邪魔が入っちゃってね」
「そろそろ来ちゃうかなぁ~」
その女性は奥の砂漠の当たりを恐る恐る覗きながらそう言った。
どうやら言葉は伝わっているらしい。とりあえず、困るまでは言語については大丈夫そうだな。
「あのー、すいませんが、ここはどこですか??」
俺はとりあえずここがどこらへんなのか知りたかった。
そしてあわよくば道案内をして欲しいと思っている。
「ここはね……」
彼女が話し始めた直後、ガタガタと地面が揺れる音が鳴り始めた。
地震か何かかと思ったが、遠くの方からかすかに何かが見える。
「やば! もう来ちゃったか」
こっちに向かって何か大きな物体が走ってきている。
凝視してみると、それは巨大な虫だった。
「何ですか!? あれは!?」
思わず尻餅をついてしまった。
前世でいう所の蜘蛛だろうか。しかし、いくら何でも巨大すぎる。
一軒家、それ以上の大きさはあるぞ。
「あれはね、ここら一体に住んでる神虫なの。荊棘虫っていうやつ。
本当はおとなしいんだけど、私がちょっと刺激しちゃってね」
「殺したくはないんだよね~~」
彼女は顎に手を当て、考え込んでいるように見えた。
やだもう早く現世に帰りたい、と素直に思った。
「仕方ない! なんにもしなきゃ私たちが殺されちゃうもんね!!」
彼女は何か覚悟を決めたように顔を上げ、荊棘虫の前に立った。
「危ないですよ! 逃げた方がいいんじゃ……」
俺が声をかけた次の瞬間、声をかける方を間違えたと思うと同時に、
彼女は関わってはいけない人物だと直感で分かった。
「創生術〝雷針〟」
彼女がそう言った次の瞬間、巨大なあの虫・荊棘虫は丸焦げになってそこに倒れた。
「あっ… あはは…… こりゃすごいや…」
呆然としてしまった。
彼女の魔法だか呪術だか何なのかはわからないが、
あの虫を一撃で倒すなんて普通じゃない。
しかも、神虫とか言ってなかったか?
この世界でいう神の使い的なやつだったらヤバいんじゃないか?
色々なことが頭をよぎったが、そんなことを気にも留めず彼女は話しかけてきた。
「いやー、お騒がせしちゃってごめんねー!
けど、君すごいね! 神虫、しかも荊棘虫に出会ったのに生きてるなんて珍しいよ!!
まぁ、私が殺しちゃたんだけどねー!」
なんて陽気な人なんだろうかと思った。
彼女を見ると、あはははは、とこっちを見ながら笑っている。
「大丈夫です。助けて下さり、ありがとうございました」
「助けたつもりは無いけど、ちゃっかり命の恩人になっちゃたよー
私はミーゼロッテ、よくみんなからはミぜって呼ばれてるよ!
君の名前は?」
〝ミーゼロッテという女性とは関わらないで下さい〟
脳裏に少女の姿が蘇る。あの少女が言っていたことが本当なら、
このミーゼロッテという女性とは関わらない方がいいのだろう。
だが、仮にも彼女は俺を助けてくれた命の恩人でもある。
今は様子を伺うべきか、どうするべきか。
ちょっと待て、俺の名前ってなんだ?
前世の名前なら鈴木悠汰だけど、絶対そんな名前じゃないよな。
前世でミーゼロッテ何て名前のやついなかったし、多分ここ地球じゃないし。
ここは正直に言ってみるか。
「よろしくお願いします。ミぜさん。
僕、実は名前がなくて……」
どうだ。やっぱり名前がないって変なのか!?
「よろしくね!
おぉ、そっかそっか! もしかして君、貧民街出身??」
貧民街!? 何それ、まぁいいやそういうことにしておこう。
「まぁそんなところです」
「そうか。それは本当に申し訳ないことをしちゃったな」
彼女はとても悲しそうな目でこちらを見た。どこか儚げでとても真剣な顔つきに変わった。
なぜそんなに後悔をしたような顔をするのだろう。
やはり女性には触れられたくない部分もあるだろうから、
紳士の俺はそこには触れずに、話を続けることにした。
「あの、先ほどもお尋ねしたのですが、ここはどこなんでしょうか??」
俺はとりあえず、今自分がどこにいるのかが知りたかった。
あと、〝南のサハル砂漠を目指して下さい〟というあの少女の言葉も気にかかる。
「ああ! そうだったね!
ここはランキルヘンという土地だよ。
巨大都市エルローシャとサハルへの分かれ道までの大きな草原地帯のこと。
そういえばさっき君が言ってた鯨も多分、エルローシャ辺りに居ると思われてるんだ。
私は今エルローシャに向かっている所ってわけ!!」
なるほど、地図でいう所のエルローシャとサハルと今いるランキルヘンは三角関係にあるのだろう。
それから、俺とミぜは分かれ道までを共にした。
ここまで読んでくださり、お疲れ様でした。また、同時に、ありがとうございます。
まだ拙い文章で、正直、面白くない部分もあるかもしれませんが、創作を続け、上達していきたいと思っております。
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