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悪魔なカノジョ  作者: 佐久良
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5.綻び

 智樹の予定が合わず、恭子と二人で飲んでいる時、ふいに「澪ちゃんと付き合ってどのくらいだっけ?」と恭子が尋ねた。


「三ケ月、ちょっとかな」


 恭子と二人で飲むときは決まって、恭子の家だった。比較的酒に弱い智樹と違って、俺と恭子は量を飲める人間だった。そのため、外の店で飲むとかなりの金額になってしまう。ならば缶ビールやボトルワインといった酒類とつまみを買って家で飲んだ方が安上がりだという考えに行き着き、いつからか恭子の家で飲むようになった。


 恭子の母は早くに亡くなっており、恭子は夜勤のある父親と二人暮らしだ。妹が一人いるが、県外の大学に進んでいるため、家を出ている。恭子の父とは顔を合わせることも何度もあったし、時間が合えば一緒に酒を飲むこともあった。今日は夜勤らしく、家には俺と恭子の二人だけだった。


「不満とかないの?」


 恭子がつまみとして買ったジャーキーに手を伸ばす。


「不満っていうか……」


 言葉を渋る俺に「誰にも言わないし、私に愚痴ったところで澪ちゃんにバレるわけじゃないんだから」と笑っている。俺は汗をかいた缶ビールを煽りながら頭の中で言葉を巡らせる。


「……合わないんだよな、いろいろ」


 元々頭の良かった澪は偏差値の高い大学に通い、大学院への進学を目指している。高校しか出ていない俺の頭では、到底理解が追いつかない勉強をしている。会話の中にチラホラと出てくる専門用語や授業の話に、適当な相槌は打てても意見や感想は返せない。


 周囲に異性の友人が多いことも気になる。俺と付き合っていることだって、俺が伝えるよりも先に智樹に伝えていた。男を含めた飲み会だって多い。異性の友人なんて恭子くらいしかおらず、職場の異性といえば既婚で十歳以上年の離れた女性しかいない俺とは、真逆の交友関係といえる。


 そして、俺は澪がタバコ嫌いだと知ってからは一切、タバコを吸わなくなった。いや、吸えなくなった。澪の前で吸わなければいいと安易に考えていたが、吸い終わってから澪に会ったときに「タバコ吸うんだね」と言われてからは、それ自体をやめた。


「無理して付き合ってるって感じなんだね」


 ポロポロと愚痴をこぼす俺に、恭子がひとこと言葉を返した。


「いや、別に無理というか……」


 そう答えつつも恭子の発した「無理して」という言葉が俺の中で引っ掛かる。


「疲れない?」


 恭子がさらに言葉を続ける。

 俺がこれまで必死に見て見ぬふりをしてきたものを、恭子はいとも簡単に拾い上げる。


「無理して、背伸びして付き合ったって良いことないよ? ナオがしんどい思いするだけだよ」


 誰かに言われたかった言葉をかけられて、俺の手はいつの間にか缶ビールから離れていた。その手に触れるか触れないかの距離に恭子の手が置かれている。


「私だったらナオにそんな思いさせないんだけどな」


 予想外の言葉に、俺は驚いて恭子を見た。


「だって悪魔みたいじゃん、澪って。見た目が可愛いから小悪魔的に言われてるけど、彼氏であるナオに無理させて、ワガママ言って――それってただの悪魔だよ」


 恭子は俺の右手に自分の左手を重ねた。


「二番目でもいいよ、私」


 目の前にいる恭子から目が離せない。決して綺麗なわけでも可愛いわけでもない。だけど、目を離すことができない。

 初めて恭子が一人の「女の子」として俺の目に映った。さっきまでは、ただの女友達と飲んでいるだけだったのに、いつしかその状況は女の子の部屋で二人きりで飲んでいるという甘美なものに変わっている。

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