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悪魔なカノジョ  作者: 佐久良
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4.恋人同士

「俺さ、中学の時、好きだったんだ――萩野のこと」


 彼女が立ち止まる。俺も立ち止まり、少し見下ろすかたちで彼女を見つめる。


 彼女は見上げるように俺を見ている。自然と上目使いになる彼女に触れてみたいと思った。手を伸ばせば触れられる距離にいても、俺は触れることができる理由を持っていない。


「それは、中学の頃の過去の話?」


 口紅を塗った形の良いふっくらとした唇が動く。今、彼女が俺にどんな言葉を望んでいるのかが分かるほどには恋愛経験を積んだつもりだし、大人になったつもりだ。


「今日久々に会って、もっと話してみたいと思った。付き合って欲しいって思ったし、今も好きだって思った」


 俺が一気にそう言うと、彼女ははにかむように笑った。赤く染まった頬を酒のせいではないのだろうと、自分に都合よく解釈してしまう。


「私も久しぶりに会ってもっと今のナオちゃんのこと知りたいと思った。カノジョになりたいって思ったよ」


 俺は恥ずかしさをごまかすように「だから、その呼び方やめて」と笑いながら、少し冷たくなった彼女の手を握った。一瞬驚いた彼女だったけれど、すぐに俺の手を握り返して微笑み、再び歩き始めた。風は冷たいけれど、繋いだ手はくすぐったくなるほど温かかった。


 付き合い始めた俺たちは、マメに連絡を取り合った。仕事中、休憩に入る度にタバコを吸いながらスマホをいじるようになった俺を仲間たちが「カノジョでもできたか?」とからかうのは当然の流れと言えた。


 俺は「まあ、そんなところです……」とにやけそうな口元を隠して告げた。


 次に智樹と会ったときに、澪と付き合い始めたことを報告した。その席には智樹が呼んだらしく、俺と同じ仕事終わりの恭子も来ていた。智樹は澪から付き合い始めた報告をされたらしく「良かったじゃん」と笑っていた。俺が伝えるより先に澪から聞いていたことに違和感を覚えたが、お祝い代わりにとその日の飲食代を出してもらったことで、その違和感は忘れることにした。


「澪ちゃんって、ナオがずっと好きだった子だよね?」


「別に『ずっと』ってわけじゃないけど」


 智樹にも恭子にも似たようなことを言われると、本当にずっと澪のことを好きだったような気がしてくる。中学を卒業してからも心のどこかに澪がいたような気がした。


 そんな言葉を口にすると、あの頃付き合っていた彼女たちに申し訳ないし、自分が未練がましい男だと自覚してしまうので黙っておいた。


 澪と付き合い始めて一ヶ月も経たないうちに、カップルにとっての一大イベントであるクリスマスがやってきた。しかし、今年はイブもクリスマスも平日だった。社会人の俺も学生の澪もお互いに仕事と学業があるので、一週間前の土曜日に前倒しのクリスマスデートをすることになった。


 問題はクリスマスプレゼントだった。澪の好みを把握できるほどの時間を過ごしていない俺は、プレゼントの要望を本人に聞くことにした。

 澪は女性に人気のアクセサリーブランドのネックレスが欲しいと俺に伝えてきた。ハイブランドとは言わないが、二つ返事ですぐに買えるような金額ではなかった。


「イブに会えないのは我慢するから……お願い!」


 電話越しにそんなお願いをされ、俺は「分かった」と苦笑いした。惚れた弱みというやつだろうか。そんなワガママに似たお願いすらも可愛いとさえ思った。


 身に着けたネックレスが男除けの代わりにでもなればいいという思いもあった。澪は理系の学部に通っていることもあって、大学では同性よりも異性の友人が多いと話していた。アルバイトもしていて、そのなかにはもちろん男がいる。澪に好意を抱いている男がいてもおかしくはない。彼氏からもらったアクセサリーを身に着けてもらうことで、そういう男たちを牽制できる気がした。何より、俺自身が安心できるような気がしたのだ。


 澪と付き合うようになってからも、それまでと変わらず、智樹と恭子と三人で飲みに行くことがあった。同じ中学だったこともあり、澪も恭子のことを知っていたし、智樹の幼なじみということもあって、ヤキモチを妬かれることもなかった。一方で澪も、大学のサークルやアルバイト先の友人たちと出掛けることもあった。そのなかには男もいるようだったが、俺は特にその話題に触れなかった。澪の交友関係に口を出して、束縛していると思われたりヤキモチを妬くような器の小さい男に思われたりしたくなかったのだ。

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