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退屈なクレイジー  作者: チチブカンタ
1/1

#1 「タイクツとクレイジー」①

――「“こんな世界ぶっ壊したい”―いいね、面白い。」


――「君に与えてあげよう、クレイジーな日々を!」


――「私と、契約しようじゃないか!」――



―――――――――――――――――――――――――――――――



――計画は全て予定通り、今年も…完璧だ。


 今日は9月1日、夏休み最後の日だ―。

 時刻は午前零時を少し回ったくらいで、“9月1日”と言っても五分前はまだ八月だった。


――俺、屈田大クツダダイは夏休みの宿題追い込み派。夏休み最後の二日で一気に片付ける。


 ダイは中学二年生。夏休みを謳歌するため、“夏休みの宿題”とはこれまでずっとこうやって向き合ってきた。

 最終日は徹夜で宿題を完遂し、そのまま学校へ…。我ながら実に素晴らしい作戦だった。

 集中力に研ぎ澄まされた室内では、シャーペンのカリカリという音と時計のカチカチという音だけがこだまする。


――「さてさて、始業式まであと8時間。頑張りどころだ。次の問題は…」


 「…っと」

 ふと見やった漢字書き取りの課題。

 宿題の代名詞といった所だが、やる気のない学生からすれば課題というより拷問という他ないと思う。

 逆を言えば、何も考えずに無心で取り組める為にやる気のない学生からすればサービス課題なのかもしれないが…。

 しかし、ここで一心不乱に課題を書きなぐっていたダイの手が止まる。


――「“タイクツ”な日々にうんざりする」


 原因はこの問題文だ。

 “退屈”この二文字が即座に答えで出てきた。

 この夏休みの宿題を取り組む理由はただ一つ、「学校で怒られない」為だ。

 ただそれだけの為に黙々と課題をこなす。そりゃそうだ。別に怒られないのならこんな宿題、すぐにゴミ箱に捨てるだろう。


――「はぁーあ」


 楽な姿勢をとってため息を漏らす。

 「また明日から、学校が始まるな…」

 一度切れた集中をこの一言がダメ押した。

 「小学生に」

 部屋に響く時計の秒針音がより強くなる。

 「あの頃に…戻りたい…」

 カチカチカチカチ――

 「なぁ…」




―――――――――――――――――――――――――――――――



――「ダーイ!」


 ふと目の前がうるさくなった。

 視線をやると、そこには友達が集まっていた。

 「なんだ、お前らか…」

 

――「あれ…?」


 視界がちょっとおぼろげだ。きっと眠ってしまっていたんだろう。

 「また寝ていたの?」「次は体育だぜ!」と声をかけてくれる友達は何故だか懐かしい感じがした。

 そういえば、今目の前にいるみんなは小学校の時の友達だ。それに今自分が座っているのは小学校の椅子。自分がいるのは小学校の教室だ。

 何かを忘れている気がしたが、「早く行こうぜ!」という友達の声かけにうなずいた。

 「まぁいいか…」

 そう思って席を立つ。そして差し伸べられた友達の手を掴もうとしたその時―。




――「おいタイクツ。」


 気付くと肩にはエナメルバックがかかっていた。中学校入学の時に買ってもらったものだ。

 伸ばしていた手からなぞるように全身を見渡すと、中学の制服をまとっていた。

 まだ背丈に合わず、少し緩さの目立つ制服だ。

 次第に「タイクツ」という声が大きくなったのを感じた。


――「ダイ?」


 名前を呼ばれて振り返る。

 「タイクツ」

 「あぁタイクツ」

 もう“タイクツ”としか聞こえなくなった。


――「タイクツ?何がだよ?」


 「“タイクツ”って俺のこと…?」

 「タイクツ君、ちょっといいかな?」

 「なぁタイクツゥ~」

 「あ、タイクツおっは~」

 「ダイで良いじゃん…」

 「おーい?タイクツ?」




―――――――――――――――――――――――――――――――




――「ダイで良いじゃん?」


 また視界が変わる。今度は少し日の差した、自分の部屋のようだった…。

 「首が痛い…」

 「あ」

 椅子に持たれかかっていた姿勢から勢いよく前傾すると、そこには空欄だらけの課題があった。


――「7時!?、まずい、寝ちまった!」


 頭の中が真っ白になった。完全に想定外の事態。

 8時からの今日の始業式、そこに完璧な“夏休みの宿題”を提出することが不可能であることを瞬時に悟る。

 「最悪だ…。何か、何か手は無いか…?」

 未だ空白のページをめくって確認するが、更に絶望感が増していくだけだった。

 「はぁ…あ」


――「退屈だな…まったく」


 何か吹っ切れた感じで椅子に腰掛ける。

 目の前のいろんなことよりも、そんなことよりも、ちらついていたのは。

 「にしても嫌な夢だったな」

 当然、さっきの夢のことだ。

 「俺は、“タイクツ”じゃない」

 「ダイだ。屈田大クツダダイだ。」

 「理不尽な名前で…、理不尽な扱い受けて…。」

 「忘れてたのに夢に出てきた…」

 「クレイジーだ」

 「こんな世界、ぶっこわしてやりたい…」



――「ねぇ」


 「さっきから一人で一体、何を喋っているの?」

 「!」

 突然、少女の声が背後で響く。

 「…!誰だ!」

 ダイが振り向きざま見上げると、少女はうっすら笑みを浮かべてこう言った。





――「私の名前はクレイジー。君にクレイジーな日々を与えに来た。」

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