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野良アンドロイド?

 CHAPTER 06「野良アンドロイド?」


 やはりAドールだったか。

 しかもAAA(トリプルエー)クラスの。

 少女を見かけた時から感じていた、例えようのない違和感の正体が判った。しかし、少女はAドールであることを示す鑑札を身に付けていなかった。

「ああ、やっぱりそうだったんですね」

 婦人は少女に近寄るとその前にしゃがんで少女と向き合った。

「え、おばさん知らなかったんですか? 私てっきり……」

 マコが驚いて言った。

 俺もこの少女は、婦人が連れてきた家事Aドールだと思っていた。あらゆる家事をこなすために作られたAドールなら、見かけによらず怪力なのも理解でできる。

「私たち、さっき会ったばかりなのよ」婦人は立ち上がり、マコの方を向いて言った。「ひとつ向こうの通りで、荷物を持ってくれるって言うからお願いしたの」

 婦人は俺たちが入ってきた通りを指さして言った。

 何だって?


「あなた、名前はなんて言うの?」

 マコが少女型Aドールに尋ねた。

「アリス・13(サーティーン)

 少女が答えた。

「アリスちゃんか。かわいい名前だね」

「君のオーナーは?」

 俺もアリスに尋ねた。

「オーナーはいません」

「えっ、……」

 オーナー登録のないAドール?

 違法品か?

 AAA(トリプルエー)クラスのAドールなら最低でも一体億単位だ。それがこんなスラム街で迷子になっているなんて、常識では有り得るはずはなかった。

 高価なAドールには当然、GPSとかそれなりのセキュリティーシステムが装備されているはずである。さらに通信機能が備わっていて、オーナーはネットを通じてそれぞれの状態を監視することができる。

 アリスはどうなっているのだろう。

「それじゃ、形式とシリアルナンバーは、それと製造場所」

 俺は再び尋ねた。

「形式は固有名と同じ、シリアルナンバーはありません。製造場所は記録されていません」

 アリスは無表情で答えた。

「なんだと……」

 本当に野良Aドールなのか?

「メモリのどこかに異常があるのかもしれないな……」


「とりあえず事務所に戻ります。車に乗ってください」

 こんなところで立ち話していても埒が開かない。

 俺はみんなを車に乗せると車を発進させた。

 マコはアリスに興味を持ったらしく、ふたりで後部座席に座り、助手席には婦人が座った。

「そう言えば、お名前聞いてなかったですね」俺は婦人に訊ねた。「俺は霧野直人、探偵をやってます。尤も、実際は便利屋みたいなもんですけどね」

「私は岡本綾と申します。今日はいろいろご親切にどうもありがとうございます」

 婦人が答えた。

「私は円城寺眞佐子。マコって呼んでください」マコが後部座席から言った。「私はこの探偵さんにボディーガードをしてもらってるんです」

「そうなんですか」

 岡本婦人が微笑んで言った。 

「ええ、成り行きで……。ところで、なぜこんな場所へ」

 俺は先刻から抱いていた疑問を婦人に尋ねた。

「人を探しているんです」婦人の表情が一瞬、硬くなった。「もうずいぶん前に別れた息子なのですけど、この街にいるという噂を聞きまして……」

「それでいきなりこの街へ? どこか探偵社とかに依頼しなかったんですか?」

「はい、初めは有名な探偵社さんに依頼しようとしたのですが、『24区』の仕事は受けられないって断られたものですから」

 確かに、その探偵社の言い分は尤もだ。

 この『24区』、特にウエストガーデンは日本国内でありながら日本とは違ったルールで動いている。

 しかも内部の様子がほとんど知られていないし、ネットの情報ですら正確ではない。

 それにしても、本人自らこの街のやってくるとは、世間知らずにもほどがある。

「でも、おばさんラッキーですよ。探偵さんの車に拾ってもらえるなんて」

 マコが無邪気に笑った。

「ほんと、そうですね」

 婦人が少し表情を和らげた。

「自分は今、手いっぱいなんで動けませんけど、帰ったら仲間に連絡して、調べてもらうように手配しますよ」

 俺は言った。

「それはご親切に。どうもありがとうございます」

「それが俺の仕事ですから、お金さえいただければ何でもやりますよ」

「ええ、よろしくお願いします」

 婦人は頭を下げた。


「あれ何ですか?」

 事務所まで後2ブロックくらいまで近づいた時、マコが前を指さして言った。

 前方には炎上しているバイクと、それを取り囲む若者たちがいた。


 えんじ色のジャージに白いキャップ。

 若者たちは各々、特殊警棒や鎖、バットなどを手に持っていた。

 よく見ると、バイクの傍らに若い男が二、三人横たわっていた。

「ガーディアンズか」

 俺は呟いた。

「ガーディアンズ? って、何をやってるんですか? あの人たち」

 マコは不安げに訊いた。

「よそから来た、たぶん暴走族だろう、悪い奴らをやっつけてるのさ」

「でも……」

「ガーディアンズって言うのは、この街を取り仕切っているギャングの一種さ。外からやってくるヤクザとか別のギャングや凶悪犯から街を守るってのが連中の仕事だ。この街はなかなか警察が入ってこられないし、SSO、つまりこの街の警備会社のガードマンも数多い訳じゃない」

「正義の味方なんですか?」

「所詮チンピラの集団だよ。この街に流れ込んでくる犯罪者の中には賞金がかかっている奴もいて、連中の小遣い稼ぎになっているんだ。別に、いい人って訳じゃないから、あまり仲良くならないほうがいいぞ」

『24区』特にウエストガーデンにはしばしば、何でもできる無法地帯だと勘違いした犯罪者が入り込んでくる。そういった連中から街の秩序を守っているのが『ガーディアンズ』と呼ばれる若いギャングたちなのである。ただし、街の住民からすれば、連中の存在はこれ以上治安を悪くしないための必要悪、と割り切って黙認されているだけだ。


「殺されちゃったんですか? あの人たち」

 道に倒れている人影を見て、マコが怯えたような声で訊いた。

「さすがに殺しはしないだろう。痛めつけて新木場のヘリポート辺りに放り出すんだろう」

 倒れているふたりの男は苦しそうに息をしていた。

 出血もしているようだった。

「あんまりじろじろ見るんじゃないぞ」

「は、はい……」

 マコは小さな声で答えた。


 車は燃えたバイクとそれを取り囲む男たちの脇をすり抜けるように進んで行った。

 男たちの何人かはこちらに向かって威嚇的な視線を送ってきた。

 連中の一部は後部座席のふたりの美少女に興味を示したようだった。しかし、運転している俺の顔を見ると、慌てて視線を逸らした。


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