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第九十八話◆

第九十八話

 高校生活一年目がそろそろ終わりを迎える、というより終わりまっしぐらの三月中旬。まだちょいと寒いので寒がりの猫はコタツまっしぐらだろう……話はそれたけど今学期ももう今日で終わりだ。

「いやぁ、てっきりお前は落第すると思ってたぜ?」

「それは残念だったな、大体、百点たたき出した俺がダブるわけねぇだろ?」

 そんな話がクラスの所々から聞こえてくる。まず、このクラスにダブった生徒などいないはずだ。どいつもこいつも成績優良者なのだから困ったことである。

「霧之助、何ボーっとしてるんだ?」

「ん?ああ、百合ちゃんか……」

 百合ちゃんの長い髪がさらさらと開け放たれた窓から入ってくる風で広がる。まだ三月の風は寒く、僕は身震いをした。

「ここがクラス持ち上がりでよかったなぁって思ってるんだ」

「そりゃそうだな、確かに私もそれはよかったと思ってるよ」

 僕の隣に立って感慨深げに言う。そんな百合ちゃんの姿は様になっていた。ちょっとしたモデルに見えなくもない。ブレザー姿(年季が入っているのだろうか?ほころびがところどころにあるようだ)がなんとも似合ってる……

「……今年は生き残れたな」

「はぁ?」

「去年は無念だったが今年は二年に上がれる……これも霧之助のおかげかもな」

「何でさ?」

「なんとなく……だよ。大体、お前が話しかけていなかったら私は今頃一人ぼっちだったろうし」

「そっかな?」

「そうだ、何かおごっちゃるぞ?」

 遠慮しておこう。百合ちゃんに貸しを作るのはあまりよくない気がしてならない。さぁ!この前おごってやっただろう?今日は竹刀の試し打ちになってくれ♪なぁんてことになりかねない。

「姉さんたちはまだ帰ってなかったの?」

「あ、雪ちゃん……」

 そこには雪ちゃんが立っており僕らと同じように帰り支度を終えていた。

「そういえば、今年もいろいろあったねぇ」

「今年じゃなくて今年度だな」

「……そういえば、今年度もいろいろあったねぇ」

 わざわざ言い直した僕を雪ちゃんは笑っている。そして、懐かしそうに窓のほうをみやった。

「そうですね、間山さんとは確かにいろいろとありました」

「そうだな、言われて振り返ってみればいろいろあったな」

「そう……だねぇ」

 大体、百合ちゃんと雪ちゃんとの出会いなんて両方とも過激すぎた。一歩間違えれば停学の恐れがある。そんなもの(女子トイレへの侵入行為、屋上での覆いかぶさり)は実に危険なことだ。やっちゃいけない、好奇心は時として人を狂わせ、さらには人生さえも暗転へと導くのである。



 でもまぁ、ばれなきゃ罰せられないさ♪



「迷惑しかかけてないな」

「……そうね」

 どよーんとした感じに宮川姉妹が肩を落とす。そんな二人にふと思う。

「いいよ、もう気にしてないからさ。あの時は不幸だったけど………今は幸せだから」

 二人ともきょとんと僕を見ていた。あれ?何かおかしなことでも言ったのだろうか?

「し、幸せなんていってくれるのか……迷惑ばっかりかけた私たちが何かできることは…」

「姉さん、間山さんに何かおごってあげましょう」

「そうだな!それがいい」

 百合ちゃんと雪ちゃんが僕を引っ張って例のファミレスへと連行。



――――――



「お帰りなさい、霧之助さん」

「……ただいま、結さん」

 家の鍵があけられており、そして中には結さんがコタツに入っていた。もちろん、彼女がこの家の中にいることはおかしい。鍵なんて渡した覚えなんてないのだから。

「実は霧之助さんのお母様がいらっしゃっていたのです」

「え?そうなんですか?」

「ええ、そうなんですよ……由美子ちゃんは入学式のときにやってくるといっておいて欲しいと伝言を頼まれました」

「そうなんですか、ありがとうございます」

「いえ、お気になさらずに……」

 すっと立ち上がって玄関のほうへと向かう。相変わらず颯爽としている人だ。以前、洋一郎がなにやら変なことを言っていたようだが結さんはもとからこんな感じなのでは?

「あれ?帰るんですか?」

「ええ、霧之助さんには悪いのですが今日は用事がありますので……ですから、夕飯は結構ですよ」

 ちなみに今日は結さんが作ってくれるはずだった日だがまぁ、用事があるのなら仕方がない。余談だが、結さんは普通に和食が上手である。冗談とか抜きで。しかし、どうやら洋食が苦手らしく、ハンバーグが大体外は黒くて固く、中は赤みがまぶしいなんてことはざらにあるそうだ。

「わかりました」

「では、また明日……お邪魔いたしました」

 そういって帰っていった。明日からは春休みか……何か起こるかなぁと思ったが、無事平穏に何事もなければいいなぁと心の隅で思っていた。


今回の後書きは次に持ち越しです。

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