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第九十四話◆

第九十四話

「よぉ、てっきり正月のうちに太って動けなくなったと思ったけどそうでもなかったな?」

「そっちこそ鏡餅の食いすぎで病院行きだとてっきり思っていたがそうじゃねぇな?」

 悪友同士が新年明けてめでたいというのに残念ながら罵り合ってなんとまぁ、嘆かわしいことだろうか?

「よぉ、霧之助……なんだかげんきねぇな?」

「ん、ああ、おはよう」

「本当、元気ない…どうかしたのか?」

 猛と百合ちゃんにそんなことを言われたのだがはて、そんなに元気ない感じだろうか?

「そんなに元気ないかな?」

「ああ、しょげてる感じが身体中からむらむら出されてる」

 百合ちゃんに言われても説得力がない。猛はしばらくの間考えていたような感じだったがぽんと手を叩いた。

「ああ、きっと休みが終わっちまったからか?」

 にやっとした調子でそんなことを言う。いや、こいつが言いたいことは休みのことなんかじゃないようだ……なんとなくだが、付き合いが長いから別に言いたいことがあるというのはわかる。

「そうかなぁ?」

「安心しろ、じきになれるから」

「そうだね、うん、なれるよね」

 自分に言い聞かせて今年最初の授業で使用する教科書を引っ張り出す。どうもこうも、勉強してればいつもの調子が出てくるに違いない。



――――――――



「ただいまぁ……って誰もいないかぁ」

 お帰りなぁんて普通のことだと思っていたがどうもそうではないらしいというのに気がついたのは悠子がいなくなってからだ。帰ってきても真っ暗で鬱屈とした感じを僕に与える。はて?ここはこんなに暗いイメージがあるような場所だっただろうかと首を傾げなければいけない始末だ。

 ともかく、これから先は本当の意味で一人暮らし。悠子が戻ってくるまででいいから一緒にすまないかと母さんと父さんに尋ねられたが首を振っておいた。別に、別に悠子が一緒にいなくても一人暮らしの一つや二つ、できない僕ではないはずだから。

 いつものように料理を作ってみたのだが……

「……いっけねぇ、二人分つくっちゃったよ」

 いつものくせが抜けていない、やれやれ困ったことだと思いながら僕は東結さん宅へと向かったのだった。

「すいません、もう戻ってきてますよね?」

「はい、何でしょうか?」

 出てきた東結さんはにっこりと笑って出てきてくれた。

「実は二人分余計に作ってしまって……よかったらもらってくれませんか?」

「二人分?悠子さんがいらっしゃるでしょう?」

「いえ、その、外国に留学をしてまして……」

 ああ、そういえばそういっていましたねぇとだけつぶやいて東結さんはうなずいてくれた。

「わかりました、寂しいでしょうから一緒に食事を採りましょう」



――――――――



 東結さんと食事をしていると目が怖い。行儀がなっていないと断罪される恐れがあってこんなときでさえ彼女の近くには竹刀とお玉が常時スタンバっている。もし、僕が何か粗相を起こしてしまえばお玉で真っ二つにされかねない。

「あの、味のほうはどうですか?」

「満点です。魚の奥の奥にまで味が染み渡っています……いつ嫁に出してもよい出来栄えですね」

「は、はぁ、ありがとうございます」

 にっこりとそんなことを言われても僕が嫁に行くことなんてありえない。そもそも、僕は男だし!

 そんな僕の顔をまじまじと眺めて一つだけ東結さんはため息をついたのだった。

「どうやら妹さんがいないということだけで落ち込んでいるようですね?」

「え?そんな……落ち込んではいませんよ?」

「顔に書いていますよ?」

「……」

 まぁ、正直に言ったら寂しいものだ。会った当初は愚図だ何だといわれていたし、絶対に頭の上がらない妹だ。それでも、悠子と一緒に生活をしていて楽しかった。

「待っていればいいじゃないですか、貴方とあの悠子さんは兄妹なのですからね?」

「そう、ですよね……」

「ええ、そうです。仲のよい兄妹に見えていましたからね」

 うらやましいものですと東結さんはそういったのだった。

「貴方がしっかりしていないと悠子さんが帰ってきたときに笑われてしまいますよ?」

 確かにそれはあるだろう。ほとほと呆れたような視線をして悠子は再び僕のことを愚図だ何だといってくるはずである。

「ありがとうございます」

「いえいえ、ご相伴にあずかった手前ですから。それに貴方が元気がなければご飯もおいしくないというものですよ」

 ふふふと笑うその人がなんとなーく、怖いがまぁ、おいておくとしよう。



―――――――――



「お、なんだ?しっかりした顔に戻ってるじゃねぇか?」

「猛、僕はもともとこんな顔だよ」

 晴れやかな気持ちで学校に投稿してきたのは久しぶりかもしれないなぁと思いながら自分の席へとお尻を落とす。

 隣人さんはこっちをみてなんだかうなずいている。

「どうしたの?」

「元気そうで何よりだ、うんうん」

 それだけ言うと机に突っ伏した。

「霧之助のシスコン」

「……は?」

 がばっと顔を上げてくっつくんじゃないかというぐらいの近さで顔を近づけさせる。うぅ、ち、近い……

「本当は間山悠子が家にいなくて寂しかったのが元気がなかった証拠!違うくわぁ!?」

 ここで認めたらシスコン……と呼ばれてしまう!う、嘘をつくしかない!

「違うよっ!!」

「じゃああれか?野々村悠がいなくなったからか!?このロリコンがぁっ!?」

 って、そういわれても悠とは一歳しか歳違ってないし!

「あの白衣か?眼鏡か?上目遣いのあれが霧之助の気を引くのかぁっ!?」

 ぐぐぐと胸ぐらつかまれてあげられる。ああ、なんだか意識が新たな自分の場所へと消化していく感覚を覚えて………

 そんな感覚がぱっとなくなり、すっと現実へと引き戻された。今、僕の手を握ってくれていたのは白骨した天使だったような……鎌もってるなんて死神のコスプレかな?

「まぁ、今回は元気になったから許すけどね」

「うん、僕は元気だヨ?」

 猛が一つため息をついた。

「百合さん、こいつ酸素が足りなくて頭が回ってないよ」

 ああ、ほら、猛の隣に舌打ちしてる死神みたいな天使さんが……


悠子が帰ってきたとき、さて、霧之助はどういった感じになっているのでしょうか?まぁ、それもまた遠い未来のことになりそうですけどね。道半ばで挫折するなんてよくあることですから。言い訳はこのぐらいにしておきましょう。悠子、悠がいなくなり霧之助の高校一年生の期間もあとちょっととなりました。第九十九話まで彼の一年生の生活は続き、百話はまったくの別物の話に仕上がっております。そして、百一話目から霧之助の二年生がスタートする予定です。つまり、雨月に残された時間はもう短いもので本編よりも後書きで感想をいただくという前代未聞の行いをやってのけなければいけないのですよ。ああ、サブタイトルのほうの〜不幸不幸も幸の内〜って霧之助が悠子たちにあったときなんですよ。悠子のときも不幸、百合のときも不幸、悠のときも(身体的に)不幸で雪のときも(法律的にぎりぎり)不幸でしたから。けど、気がついたら幸せに……そんな感じで。嫌なことは忘れたいですが、そうそう忘れることはできません。主人公がハッピーエンドになるよりもバッドエンドで終わってしまうほうが見ている人たちの心にはよく残るものです。だから、あの話題のゲームの続編で最後主人公が逝っちまった結果、ファンの間で論争が起こったそうですし……さて、感想評価ありましたらお願いします。九月十七日木、八時十二分雨月。

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