第九十二話◆
第九十二話
静かに話をしたいとき人は何処を選ぶのだろうか?家族が待っている家はちょっと駄目だろう………そういうわけでやってきたのはこの寒い中当然誰もいない公園だった。
風が吹くだけで散らかっていた落ち葉は綺麗な動きを見せて統一感のある動きを行う。
そんなさなか、悠子は鉄製の冷たいブランコへと腰を下ろした。僕はそんな悠子をブランコ一つ分の距離をおいてみている。
「ちょっと前から言われたことなの……」
そう前置きして話を始めた。今日は最近の中でも寒さが厳しいかもしれない。
「……校長先生と教頭先生があたしとあの子……野々村悠ね。海外の高校に留学の誘いが来てるっていってきたの……もう殆ど決まっちゃってることなんだけど」
「……いつから行くの?」
妹が留学なんてめったにないことかもしれない。いや、まずありえないに違いない。そして、それはものすごく喜んでいいことなのだろう。だが、心の奥底じゃそんなこと望んでいない僕がいたりするのだ。
「……一月の半ばぐらいかな?まぁ、留学の話だって急じゃない。入学するときにきっと来る、あとはいつ来るぐらいかって言われてたし……それに父さん母さん両方とも、もう知ってる話だから」
軽くブランコをこぎながら息を吐く。その白い息が霧散して僕のほうへと視線が移っていた。きっと、あの二人も喜んでいることに違いない。
「知らないのは僕だけだったってことか……」
「ううん、由美子にも話してない」
「そっか……」
「あのさ……」
悠子がブランコから立ち上がって僕に手を差し伸べた。その意味がまったくわからないでいると悠子は口を開いた。
「一緒に……来る?」
「……え?」
理解できないでぼさっと突っ立っていると悠子は目をそらさず言葉を続ける。
「編入試験を受ければ受かるかもしれない……ものすごく望みは薄いけどさ。ほら、もしかしたらって可能性があるかもしれないし」
心遣いには感謝しておこう……だが、それは無理なことだ。大体、英語は苦手だし。行く先が英語圏でなかったらさらに絶望的だ。また一から習わなくてはいけないから。
「ごめん、僕はいけないよ」
「そう、よね……ついてこれないわよね」
それだけ言ってまたブランコに座る。
「ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ……お兄さんが来てくれるってそんなありえないこと考えてた」
「ごめんね」
「いい、お兄さんが悪いわけじゃないから……家族の写真でも見ながら日々を過ごす」
立ち上がって僕に背を向ける。そうか、だから家族の写真が欲しいなんてことを言っていたのか……寂しいのだろう。
「留学といっても一年ぐらいだろうし、夏休みとか休みのときは絶対に帰ってくるからね?」
「うん、待ってるよ」
「じゃ、私は先に帰ってるから……悠に電話でもしてあげて」
「え?」
「あの子、私と同じ場所に住むルームメイトなのよ」
「そっか、けんかしないかちょっと不安」
「大丈夫、それなりに仲良くやるから安心して……じゃあね」
なんとなくだが悠子がいなくなってからケータイを取り出す。悠の番号を押し、呼び出し音を待つことにした。
風が冷たかった。
重大なミスに気がついてしまいました。九十四話目が区切りだといっていましたがなんと、次回で区切られていることに気がついてしまったのです。えーらいこっちゃえらいこっちゃ!そういうわけで、次回ハッピーエンドは何処ですか?は一端の区切りをもって話は閉幕です。もちろん、これで終わりというわけではありません。霧之助にはまだまだがんばってもらわないといけませんからね。感想、評価その他ありましたらご連絡ください。ああ、あと見事展開を予想して当てちゃった方が出ましたのでどうすべきか悩んでいます。九月十六日水、七時四十四分雨月。