第八十二話◆
第八十二話
指定された場所は近所のファミレスだった。きっと気軽に入れるように配慮してくれたのだろうが……残念ながら僕はめったにファミレスには行かないのである。外食なんて年に二回ぐらいか?
鋭い瞳がぎらぎら輝く悠子、そして僕の父となった男が席に座っている。ウェイターに案内なんてしてもらわずそのまま座った……相手の前に。
「……こんばんは」
「きてくれたのか……おや、ゆ~ちゃ……悠子も来たのか?」
「ついてきてもらいました……妹ですから」
少し変な会話だが相手には伝わったらしい。ああとうなずいて悠子が僕の隣に座った。
「今日呼んだのは一緒に食事をしよう……本当にそれだけですか?」
ついつい敬語になってしまう。悠子がちらりとこちらを見たのだが変えるなんてちょっとできそうになかった。
「ああ、そう思ってる」
にこりと笑うが違和感を覚えて仕方がなかった。
「ほら、君は俺と一緒に暮らしていても話したとしても挨拶ぐらいじゃないか?」
停学中、実家となったほうへと住んでいたのは知ってのことだろうがそのときの事は本当にもう、憂鬱以外の何物でもなかった。
朝の挨拶、夜の挨拶だけ。お休みなんて言葉は多分使っちゃいない。
「それで、何が言いたいんですか?」
「……なんだか君には花ちゃんとの結婚を認めてもらえていない気がするんだ」
そうなのだろうか?相手は僕のことを言っているのだが僕自身はそのことがわからない。
「……わかりません……あなたのことを認めていないかもしれません……最初は妹ができた事だって嫌でした」
「………」
隣の悠子が視線をそらしてメニューを見ている。
「……だけど、今は、妹がいることが嬉しいと思っています。心の奥底じゃあなたのことを拒絶しているかもしれません。ですが、それはただ単に過ごした時間が短いだけだと思うんですよ」
僕は立ち上がって相手に頭を下げた。
「すいません、今日はこれぐらいが限界です……できたら今度また誘ってください」
―――――――――
「ごめんね、悠子」
「気にしないで」
すっかり暗くなった道を二人で帰る。隣に悠子がいるのは確かなこと、間違いないこと。そして悠子は僕の妹だ。
「……実感がわかないんだと思う……あの人とはあんまり会わないから」
「お兄さんにはがんばってもらわないと……今はあってくれるだけで十分だから」
軽く笑ってさらに付け足した。
「だけどね、いつか家族写真を撮ってみたい」
「がんばるよ」
十一月半ばはやはり寒く、風が少しだけ吹くだけで身を縮めてしまう。悠子なんてマフラーも何もしていない。
「悠子、悠子の誕生日っていつ?」
妹のことなのにそんなことも知らなかった。
「私の誕生日?私の誕生日は一月十日」
「そっか……覚えておくよ」
両手に息を当てながら暖める。そんなに寒いのなら手袋をしてくればよかったのに。
「ありがと、お兄さんの誕生日は?」
「僕の誕生日は十一月十一日」
「へぇ、そうなんだ」
「うん、そうなんだ」
そんないつでもできる話。首に巻いていたマフラーをはずして悠子に渡した。
「風邪ひくからマフラーしなよ」
「……ありがと」
そろそろ雪、降るかもしれない。
最近ふと思います、もしも悠子とではなく由美子と霧之助が一緒に住んでいたらどうなっていただろうかと……双子といえど全て全て同じじゃないのは当然ですし、ここの考えだってあります。いや、それ以前に状況によってかわっちゃうこともあるのです。つまり、そういったことをしようとすると再び一から考え直さなければいけないということなのですよ。そんな勇気、雨月にはなかったりします。まぁ、ご勘弁を。ああ、そうそう……実は一年生である霧之助の話は殆ど書き終えました。ラスト、なんと悠子と悠が………なことになっちゃいます。では、次回もご覧ください。感想、評価お待ちしております。九月十二日土、八時二十二分雨月。