第七十九話◆
第七十九話
停学のときからとられていたケータイも十一月に入ってようやくかえってきた。あれから久しぶりに起動させるケータイ……さて、メールはどれだけ来ているだろうか?
「……新着メール、五百七十二件?」
すさまじい量。きっと、着信のほうも電源をつけていたらストーカーばりの着信数になっていたに違いない。
―――――――
「霧之助、実は相談があるんだ」
「何さ?」
百合ちゃんと猛、そして僕で昼休み弁当をつついていた。百合ちゃんは一心不乱に弁当をつついており、話を聞いていないように見て取れる。
「最近、誰かにつけられてる」
「……は?」
ひそひそとそんなことをいってパンをかじる。言われている意味が少しだけわからなかった。
「何故?」
「それがわかりゃ苦労はしない……なかなか姿を現してくれない奴のようでな……ほら、今日なんか下駄箱のなかに果たし状が入っていた」
手渡されたそれはかわいらしい便箋でピンク色をしていた。ハートマークのシールで封をされているという一度は貰ってみたい代物だ。
「中見ていいの?」
「ああ、見ないと話が続かないからな」
手紙の内容は次の通り。
今日の16:40図書館で待ってます。
「きっと図書館でけりをつけようと思ったんだろうな。逃げられないと悟ったんだ」
うんうんとなんだかうなずく猛が哀れそうになって来た。
「これ、ラブレターじゃないの?」
「おいおい、こんなおっさんに誰がラブレターなんて送るんだよ?悪戯のほうがまだかわいいぞ……俺は前から決めてんだ。俺なんかに話しかけてくる女子は利益目的だけだ」
悲しいことに男なんて顔が命だ。顔があれだったらがっくりなのだ。無論、その気持ちは僕もわからないでもない。このクラスの男子どもは全員イケメンばっかりだからな。頭は悪いが(黄銅猛という起爆剤をはずしてだが)人気は高い。彼女がいる連中を全て校庭につるしてやろうかと思っているぐらいだ。
だが、百合ちゃんがそんな猛の肩に手を置いた。
「……人ってのは見た目じゃないぞ」
「ふっ、百合さんは幸せなことを言ってくれる……だが、現実は厳しくつらく、希望を見るなら最低限度の絶望を乗り越えろ!民衆よ、私は帰ってきた!」
どこにだよっ!そんな突込みを入れる前にこいつがなんだか逃げている気がしてならなかった。
「はいはい、わかったから……今日は僕と百合ちゃんが付き添ってその相手を見物させてもらうよ」
「……霧之助、お前なんだかやたらニコニコしてないか?」
「べっつに♪」
「……心配だな、お前はおせっかいだし」
百合ちゃんと猛がいやそうな顔をしている。おいおい、僕は友達のことを考えているだけじゃないか♪何をそんなにいやそうな顔をしているんだい?
「まぁ、いいや……じゃ、お願いします百合さん」
「ああ、任せておけ」
胸をドンと叩く百合ちゃんの隣で僕も胸を叩いておいた。
―――――――
「霧之助ってこういうのがすきなのか?」
「こういうのとは?」
「……呼び出されて告白されるの」
さて、どうだろうか?
「うーん、どうだろ?告白されたことなんてこれまで皆無だから」
「そっか……」
それだけ言って百合ちゃんは黙っている。猛が腕を組んで相手を待っており、僕は百合ちゃんの隣で背中を本棚に預けている。
「お、来たようだよ」
「……そうか」
本棚に隠れるようにして見張る。すると活発そうなイメージの女子生徒がやってきた。腕章を見るとどうやら同じ一年のようだ。ものすごくかわいい子だった。
顔を真っ赤に染めて猛になにやら話している。これ以上近づいてしまったら相手に気が疲れてしまう可能性が大きいが、話が聞こえない。
近づくべきか、近づかないほうがいいのだろうか…
「まぁ、話なんて後で聞けばいいか」
百合ちゃんとおとなしく隣で見ていた。猛は相変わらず厳しい表情。相手は顔を真っ赤に染めて一生懸命はなしている途中。
「……さて、猛はどう出るんだろ?」
「…まだまだ見てないとわからないな」
「何してるのよ、お兄さん」
無機質な声が聞こえて振り返るとそこには悠子が本を抱えて立っていた。ぐるぐる眼鏡に指を添えてこちらを物珍しそうに見ている。
「えっと……そうだね、うん、見守り?」
僕と百合ちゃんを何度か見た後、奥のほうで話している二人を確認した。
「なるほど、お兄さん……今すぐそんなことやめて」
「え?」
腕を掴まれてそのまま猛たちの横を通過していく。一瞬だけど猛と目が合ったが苦笑いしかできなかった。その後、百合ちゃんが続く。
気がついてみれば八十話に迫ってきています。この小説を投稿してから約一ヶ月。様々なことがありました。ふと、誤字脱字の再確認のためにもう一度読み返していると悠子がものすごく悪い子だったと判明。そしてどことなく霧之助も今のとは調子が違ってました。まぁ、変化しちゃったものは仕方ありません。これからもよろしくお願いしたいと思います。九月十一日……忘れてました、感想、評価ありましたらよろしくお願いします。九月十一日金、八時四十二分雨月。