第七十四話◆
第七十四話
帰りのスーパーにて、宮川雪ちゃんに出会った〜……
「や、雪ちゃん♪」
「間山さん……生きてたんですか!?」
「死んでないからね?」
「いえ、姉がまったく元気がなかったのでてっきり死んでしまったのかと……ケータイに連絡しても音沙汰無しですし……」
「うん、まだケータイ返してもらってないからわからないんだよ」
そう伝えると合点がいったとばかりに手を叩いていた。
「そうですか……」
「で、雪ちゃんはここで何をしているの?」
「今晩の夕飯を買いにきたんですよ。普段は別の場所で買っているんですけど今日は友達の家に寄っていたのでこちらのほうが近かっただけです」
ああ、なるほどねぇ……始めてくるスーパーには期待が持てるものだ。野菜が安いのか、魚、もしくは肉が安いのか……チェックしたくなる気もわかる。
所詮、節約とは自分の手腕が問われる厳格な生活の根本的部分なのだ。素人が簡単に手を出しても失敗に終わってしまう。ここは先人の踏みしめた一歩を踏襲し、それに自分なりの変更点を加えていって自分が理想とする節約ライフを堪能するのが生き様なのだ。つなげっぱなしはもってのほか、冷蔵庫の冷気を漏らさないように独自工夫をするのは初歩的な初歩だ。
「……あの、悦に入っているところをすみません……」
「え?何?」
「……今晩、私の家に来ませんか?停学解禁お祝いぐらいならしてあげますよ?」
「う〜ん……」
どうするべきだろうか?ちょうど悠子は今日母さんと竜太さん(母さんの再婚相手、悠子、由美子ちゃんの実の父にあたる)と一緒に食事しにいくといっていたので裕子のことを心配なんてしなくたってかまわない。
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」
「わかりました、それじゃあこれから向かいましょう?」
雪ちゃんに促され、スーパーを出る。まぁ、そういうわけで急遽僕は悠紀ちゃんの住んでいるマンションへと向かうことになったのだった。
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「ただいま〜雪」
「あ、お帰り姉さん」
「お帰り、百合ちゃん」
「ああ、ただいま霧之助……」
ほうけたように僕を見る百合さ……ちゃん。
「……何で霧之助がここにいるんだ?」
「いや、帰りにちょっと雪ちゃんに会ってね」
「そうなの、だからつれて帰ってきちゃった」
「おいおい、路上でほいほい拾ってきちゃ駄目だろ、雪?霧之助はマンションじゃ飼えないんだ」
「……は?」
「いいじゃない、姉さん。大家さんにばれなければ大丈夫よ。夜に吠えないように口にはガムテープ、暴れないようにロープで縛っておきましょう」
「ああ、そうだな……逃げ出したら大変だから首輪をしておかないと」
「……」
何?何なの?この茶番は……にこにこしながらそんなことを言っているこの二人、ひでぇ、僕をペットか何かと間違えてるよ。
しょげた目を百合ちゃんに向けると一つため息をつかれた。
「……そんな目をするなよ」
「……だってさ……」
「あ〜やめろ。もっといじるぞ?……で、本当は何でここにいるんだ雪?」
「停学が終わったからそのお祝いに呼んだのよ」
そういうと百合ちゃんは天を仰いだ……正確には天井だが。
「……あ〜それ、私も考えてたわ〜……」
「今そう思ったでしょ?」
「三ヵ月後ぐらいにやるサプライズパーティーで」
「それ、もう意味ないよね?」
「……ほら、クリスマスパーティーと一緒に」
「「……」」
僕と雪ちゃんが硬直していると百合ちゃんはにやっと笑った。
「安心しろ、霧之助……私も本当は今日やろうって思っててた……だからさ、ほれ、ここにビールの缶に入ったジュースを買ってきた♪」
「……え?」
そ、それ絶対アルコール入ってるんじゃない?というより、ジュースじゃなくてそのまんまじゃないの?
若干の不安が残りながらも雪ちゃんのほうを見ると彼女は首をすくめたのだった。
――――――――
「ぐがぁ……」
このいびきは百合ちゃんのものだ……麦ジュースを一缶飲んで夢の世界のチケットを買ったらしい。つついてもゆすってもさすっても僕のひざの上から頭をどかしてくれなかった。
「……ごめんねぇ〜……間山ちゃ〜ん♪」
「………あはははは……」
そして、雪ちゃんは人が変わった。肩に手を回されてもうちょっと顔を左に動かせば彼女に触れれるほどの距離しかない。
「ねぇ〜さんはぁ、酒なんてぇ、飲めない体質で……うぃっく……飲めないんじゃなくて、すぐによっちゃってもう、べらんべらんのへべれけ〜になっちゃうのよぉ♪」
「そ、そうなんですか……」
なぜか敬語になってしまいかねないこの状況。きっと、僕がサラリーマンになったら絡まれるのだろう。たちの悪い上司だ。
「……けどぉ、私はぁ、じぇ〜んじぇん、酔っ払うことのない体質なんだよ〜……あははは〜すごくない?」
「……す、すごいですね」
「ほれほれ〜あ〜しの飲みかけをかっくらっちゃってぇ!」
「いただきます」
飲みかけの黄金炭酸飲料をそのまま飲んでいると、雪ちゃんはケータイを取り出した。
「……まぁ〜あれだ、あ〜しが間山ちゃ〜んのことをだっれよりもしんぱ〜いしてたのは伝わってないわけだぁ……だからさぁ、ふりゃいんぐをぉ、行いたいとおもいまぁす♪」
「フライング?」
ケータイのカメラ機能を作動させて僕と二人で写りこむようにしたようだ。
「ほれほれぇ、ポーズをとってぇ♪」
「じゃ、じゃあ……ピース?」
ちゅ……
ぱしゃりと音がして一瞬だけ僕は硬直してしまった。頬に何かが当たったような気がして、隣の雪ちゃんを見る。
「そぉんな驚いた顔をしな〜い……♪お休み〜……」
寝ている百合ちゃんを実力で排除し(床に頭を叩きつけて、んがっ!と言った)そこに自分の頭を乗せる。
「今日はあ〜しがもてなしたんだから……ね〜さんには……わるいけど、あ〜しが甘えさせ貰うね〜……」
そのまま目をつぶり、動かなくなった。
「……」
ぼーっとしていたら眠くなってしまった。そのまま僕はまぶたを閉じて横になる。勝てぬ睡魔が僕を襲い、静かに夢の世界へと引きずり込んだ。
この小説を読んでくれている方へ、読んでくれて本当にありがとうございました。高校一年生、間山霧之助の話の終わり方が決まりました。九月八日火、八時十分雨月。