第六十八話◆
第六十八話
「こうして、桃太郎一行は金銀財宝を全ておじいさんとおばあさんにあげて幸せに暮らしたのでした。めでたしめでたし」
「よし、カット」
リハーサルも完全に間違うことなく最後まで終わることができた。
明日は文化祭……つまり、本番でもある。
三回ほど行う予定であり、時間と人気があればそれ以上も狙っている。行う側での評価で客観的ではないのだがセットや衣装は(ストーリーは僕から言わせてもらえれば悪い)他のところに負けていないし、この手のもので中には恥ずかしさが露見してしまうこともあるのだが、一切の恥ずかしさなど我がクラスには存在しない。完全に役になりきっているのだ。
今日は早めに帰るようにと促す黄銅猛のもと、クラスメートたちが気合の言葉を出して教室を出て行くという珍事を起こした。その所為で他のクラスが窓から眺めたりするような恥ずかしいこともあったのだが何とかそれ以上変なことをせずにクラスメートたちは帰路についてくれた。
「まったく、猛は最後に何をやらかしてくれてるんだよ」
「安心しろよ。別に法律に触れたことなんて一回もやってねぇから」
「……まぁ、確かにそうだけどね」
そんなことを話しているとケータイがなった。どうやら東結さんからのようだ……珍しい。ん?あれ?いつケータイの番号を教えたのだろうか?記憶が曖昧だ。
「もしもし?」
『明日、文化祭ですね……それで、ひとつお話というか会議をしたいのです』
「会議?」
『……ええ、とても重要なことです。以前結婚前式に乗り込んできたあの体躯のすばらしいご友人もできればつれてきて欲しいのですが?』
「ちょっと待ってください……おい、猛」
かばんを掴んで窓から出ようとしている恥ずかしい友人を引き止める。窓から出ようとしているところでとめたために半分身体を出したまま首だけこっちに向ける。
「何だ?この状態を誰かに見られたら何て言い訳をすればいい?」
「……扉を間違えましたっていってよ……それより、悪いんだけど今日これから僕の家にこれる?」
「別にいいぞ」
「東結さん、大丈夫だそうです……これから帰ってきますから」
わかりましたという言葉を残して彼女は電話を切る。そして、首をかしげる猛にさぁ、行こうか?といおうとして先生が廊下でこっちを見ているのに気がついた。
「黄銅、お前は窓から帰っておるぞ」
「……扉を間違えました」
「……」
―――――――
家に帰った僕を悠子ではなく東結さんが出迎えてくれた。
「お帰りなさい間山霧之助さん……こちらの方の名前は?」
「黄銅猛です」
「そうですか、黄銅猛さんもどうぞ上がってください」
ここ、一応僕の家ですよね?
そんなことをいおうともしたのだが、やめておいた。無駄な火種は蒔かないに限る。
「どうも、で、霧之助……この人は誰だ?」
「この人は東結さん。東先生の妹さんだよ」
「なるほど」
それ以上は何もいわず、おとなしく僕の後をついてくる。悠子の姿が見えないのだがどこかに行ったのだろうか?
東結さんはお茶を僕たちに入れてくれて自分も飲みながら一つため息をついた。
「……あなたたちが演劇をやるという情報をどこからか仕入れたようですね。途中で押し入って台無しにする気ですよ」
「おいおい、霧之助……結局お前何も手を打たなかったのか?」
困った奴だといわんばかりの調子だ。反論しようとしたのだが東結さんが不敵な笑みを猛に見せる。
「……安心してください?あなたもきちんと一枚噛んでいますから」
「と、言いますと?」
「相手は洋一郎を助けていただいたときの三人組です」
「洋一郎のあのときかぁ……そういや、あれから洋一郎が俺のところにわざわざ高級お菓子店の菓子折りを持ってきてくれたぞ」
あれはうまかったなぁとつぶやく猛を無視して東結さんに尋ねる。
「三人だけ……ですか?」
「ええ、あなた方が心配しなくてはいけないのは三人だけ。それ以上増えることはありませんから気にしないでください……そして、わたくしもこの件には一枚噛んでいるため協力を惜しみません」
そういって再びお茶を飲む。猛が首をかしげているが説明をするのは面倒なので後でいいだろう。
「……そこで提案があるのです。兄さんにきいたところあなた方がやるのは桃太郎ですね?」
「ええ、そうです」
そういうと彼女は笑った……いや、嗤った。
「そうですか、それはよい話です。悪さをする鬼共を罰するのにわざわざ桃太郎が出向くことはありません。その家来たちが雑魚はどうにかすればいいでしょう」
「は?」
猛が首をかしげる。僕だって首をかしげた。そして、東結さんは一つの話を、正確には計画を伝えたのだった。
「……」
「この賭けに乗るか乗らないかはあなた方次第です」
「……まぁ、確かに俺も悪い気がしないでもない……因果応報って奴だ。ちょいと調子に乗りすぎたのかもな、俺たちも」
「……そうだね、わかった。その賭けに乗ります」
では、計画通りに……それだけ言って彼女は出て行ったのだった。
「……まぁ、なんだろうな?尻拭いはちゃんと自分でしないと…」
「いけないね、猛」
「ああ、そうだな……しかし、そうしたらあの人を巻き込むことになるだろ?」
どうやら東結さんのことを心配しているようだ。
「気にしないでいいよ、あの人の事は」
「そうか?」
首をかしげる猛を無視して僕は夕飯に取り掛かることにしたのだった。
気がついたらもうちょっとで七十話じゃないですか。え?また十回目でいちいち何かするのかって?いやいや、別にしませんよ。この小説もはや七十話目。様々なことをしてきましたが結果は薄いですね。しかも、特に足りない部分も内容で増やす要素がお色気ぐらいなものなんだなぁと思う所存です、はい。感想、評価ありましたら随時募集していますのでお心変わりが起こった際は最寄の評価、感想ページへ飛んで評価をしていただきたいと思います。九月五日土、八時二十七分雨月。