第五十九話◆
第五十九話
ジーコ、ジーコ、ジーコ……
時計なんてなかった昔はこうやってせみの鳴き声で時間帯を知ったのかもしれない。ま、実際はどうだか知らないけどね。
とりあえず、名前は知らないが夕方よくないていると思うせみの鳴き声が聞こえて今の時間帯が夕方であると僕は知った。まぁ、知ったというよりいつもの感覚で夕方かなと考えた程度だ。若干めまいがする頭を起こしてみると予想通り夕焼けが窓から保健室へと入ってきていた。
ふと、あたりを見渡すと文庫本を開いて読んでいた悠子が視線だけをこちらに向ける。無表情だが悠子は大体無表情だ。
「……」
無言でそんな悠子を見ていると沈黙がいやになったのか、はたまた家にさっさと帰りたいのかわからないがしゃべり始める。
「気がついた?」
「悠子……」
「熱中症で倒れたあの馬鹿を運んできて倒れるなんて……」
面白そうにこっちを見て笑っている。しかし、不思議といやな気にならなかったのは何でだろう?
「お兄さんが倒れる……それじゃ、あまり意味ないわね」
「……確かにそうかも。まぁ、悠をつれてこられただけでもよしとするよ……ところで、悠は?」
隣のベッドに寝かされたはずの悠の姿はなく、綺麗にシーツ類はたたまれて置かれている。
「さぁ?私が知るわけ無いじゃない。私がここにきたときはお兄さんしかいなかったから」
そりゃそうだ。別に同じクラスというわけでもない。仲がいいというわけでもないのだから。
「悠子、わざわざ看ててくれてありがとう」
「……仕方ないじゃない、倒れたって聞いたときは驚いたけど実物見て驚き損だったわ。よだれたらして寝てるんだもの」
首をすくめてそんなことを言われたがまぁ、この際いいとしよう。ついでに、よだれあとをぬぐっておくとしよう。
「あのさ、ちょっと行かなきゃいけない場所があるんだ」
「……また、おせっかい?」
わかったように悠子はそういう。いや、実際にわかっているのだろう。お互いのことなら、僕でさえ悠子が何を考えていそうなのかわかるときがある……一緒に住んでいるとそういったことがあるんだなぁ。
「いや、ちょっと違う」
「そっか、それなら行ってくれば。私は先に帰ってるから」
文庫本を閉じて立ち上がる。開いた窓から風が吹き、彼女の髪がふわりとなびく。そんな悠子の姿をぼさっと魅入ってしまった。
「……お兄さん?」
悠子の不思議そうな顔で現実へと引き戻される。あれが幻想というものだろうか?
「え?あ、うん。ばいばい」
「さよなら……」
それだけ残して保健室を出て行く。僕も行かなくてはいけない。
この行為は覗きに値するのではありませんか?総理、お答えください!といわれた場合は沈黙を築くしかない。
デバガメだといいたいのなら言えばいい。僕の小さいころの夢はスパイだ。覗いて何ぼ、盗み聞きしてなんぼの世界のはず!
帰りますという置手紙をおいて僕も保健室を後にする。
次回で六十話!そういうわけで恒例となりました今後の展開を予報していきます。あくまで予報ですので外れても怒らないでください。当初予定では夏休みの最後に霧之助が告白をするという感じに仕上げたかったのですが皆様のおかげでどんどんとすすんでいっております。どこまで進めるのかわかりませんが、霧之助が二年に上がる手前まで踏ん張って行きたいと思います。皆様の応援、どうぞよろしくお願いします!そして、不発に終わった宮川編その二に続く宮川編。霧之助たちの高校では運動会が行われておらず他のものに力を入れております。そこで、一発当てて今度こそ特別編の感想をいただけたらいいなぁと思う次第であります。では、次回もお暇なときに!