第五十六話◆
第五十六話
悠子に言わせて見たら愚図愚図な夏休みだっただろうとなんとなく、想像してしまったがとりあえず夏休みが終わってしまった。
ああ、明日から学校かと思うとなんだかほっとする自分が嫌だった。青春を謳歌しようではないかと脳内の誰かがつぶやくがそれにお前はおやじか?という突込みが跳ぶ。多分、夏休み病。長期休みを貰うといっつもこんな感じに頭がおかしくなる。
「お兄さん、なんだかボーっとしてない?」
「……してないよ」
「じゃあ、なんで砂糖と塩のボトルを間違えて握ってるの?」
「……悠子、料理には砂糖も入れるんだよ」
「そんなこと知っているわよ。目玉焼きに砂糖をかけるって言うの?」
言いません、少しだけぼけていたかも。
頭を振ってしっかりするように自分に言い聞かせる。今日は半日だったために昼からは帰ってきた。
「ああ、夏休み終わったんだなぁ」
「何を言ってるのよ、いまさら」
やれやれといった調子で悠子は首をすくめる。まぁ、仕方ないか。
――――――
次の日、夏休み以前と同じ時間帯に学校に着く。下足箱を開けると一通の手紙が……封がすでに切られているが、もしかしたら封をするのを忘れていたのかもしれない。
僕が来る時間帯には殆ど人が来ない。そういうわけでその場で開封して読んでみることにする。
「………あなたのことが大好きです。あなたのことを考えると夜も眠れず、そういった経緯でこのたびは手紙を出させていただきました。初めて会ったとき、これは一目ぼれなんだなぁと思ってたまに廊下などであなたを見かけるたびに胸の鼓動が収まりきれずに保健室に向かいます。今日の夕方、あなたを校舎裏で待っています。失礼だとは思いましたが僕は写真同好会に所属しており、あなたの写真を大切に持っています……」
ちなみに、写真同好会は男子だけしかいなかったりする。女子部員などゼロのはずだ。必然的にこれがどういうことなのか……
「……ふぅ、今日は家に帰るか」
「あはははっ!!やっぱり想像通りの反応!霧之助っ、おはよう!」
ひまわりの花畑に埋めたら多分わからなくなるであろう悠がなんと、掃除箱から出てきたのである。
「びっくりした?」
「そりゃ、するよ。何だってそんなところに隠れてるのさ?」
「驚かすため。そのラブレター、びっくりしたでしょ?」
こんなもの貰った日には徹夜でもしたほうがよさそうである。きっと、おそろしい夢を見るに違いない。
「冗談でこんなものを人の下駄箱の中に入れない!」
「それ、冗談じゃないよ」
「え?」
「大丈夫、霧之助あてじゃなくてあたし宛なんだ、それ」
「ああ、なるほどね……」
それならよかった。こんなものが冗談じゃなかったら僕はどうすればいいのだろうか?その状況に陥ってみないとわからないが陥ったら逃げ場のないフィールドをうろうろせざるおえないだろうな。
「で、悠はどうするの?」
「それは……決まってるよ、あたしは駄目だって言うしかないから」
「そうだよね、写真の憧れの人がいるんだからさ」
「うん……」
はにかむようにこっちを見て笑う。しかし、表情をかたくして悠はラブレターを僕に向ける。
「だからさ、霧之助にお願いしたいことがあるんだ」
「お願いしたいこと?」
「うん、こういうのってはっきりすっぱりNO!NO!!NO!!!駄目なものは駄目、嫌よ嫌よも嫌のうち!って言っておかないと駄目でしょ?」
「まぁ……それが悠の理論なら……」
両腕組んでうんうんうなずいておく。
「だからさ、あたしがちゃんと断れるように手伝って欲しいんだ。これから時間あるでしょ?」
「……大丈夫だよ」
まだ時間はある。そういうわけで悠は僕を屋上へと引っ張っていった。