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第五十一話◆

第五十一話

 学校の生徒ではない生徒を入れていいのかわからなかったがもう面倒だったのでそのまま図書館へと向かう。

「先ほどは助けていただき、ありがとうございました」

「あ、いや……別に気にしないでください」

「これであの方の残りの夏休み、下手をしましたら二学期全ても養生で済むというものです」

 さらっとおそろしいことを口にして図書室の扉を開ける。そのまま僕も続くがもちろん、百合さんと雪ちゃんの姿はなかった。

 結局、場所を変えても気まずいものは気まずい……先ほどのことを短くまとめるが、あの後彼女は竹刀を何度も何度も、あの男子生徒に叩きつけていた。

 安心して欲しいが、虫も殺せない程度の強さである。そのときに相手に言った台詞が脅しだろうが怖かった。

「……いいですか?今からあの角の車道に貴方を放置しておくとしましょう。大抵の運転手の方は貴方を避けると思いますが、注意力を欠いた運転手……たとえば、私がその角の手前で運転手の方に手を振ったとしましょう。どうなると思われますか?」

 そんなことをこの人は言ったのだ。

「……どうかしましたか?」

「ああ、いや……別に」

 青ざめた顔がばれないようにあいまいに笑う。相手はどう思ったのか少しだけ目を閉じて手を叩く仕草をした。

「……あまり悪い人ではないようですし、わたくしと百合の関係をお教えいたしましょう」

「え?いいんですか?」

 助けていただいたこともありますから……そういって読書スペースへと僕を誘導して座らせる。

「……百合とわたくしが出会ったのは草木も萌える時期のころでした……当時、親に反抗して荒れていたわたくしは一年留年していたためか、習っていた剣道もやめて竹刀を片手に暴れまわっていたのです……気に喰わない方がいらしたらその方をここの地下室へと閉じ込めて闇討ちするということもやっておりました……なかには、わたくしが告白などをすると勘違いをしてくるものもいまして、おもしろかったと感じたこともあります」

 目に浮かぶようだ。おそろしい……もしかしなくても、この人が地下室を悪いことに使っていたということなんだろうな。

「……そして、百合と出会ってからは毎日毎日あの子はわたくしに付きまとったのですよ。わたくしにあらぬうわさがたってしまい、非常に面倒な日々で憂鬱でした」

 ここでどういったうわさなんですか?と尋ねたら気分を損ねられるかもしれないので別のことをたずねてみた。

「あの、どうやって百合さんと会ったんですか?」

「……なんといいましょうか?図書館にいたあの子が間違って地下にやってきてしまった……そんなときにわたくしを見てしまったのです。それで、これまで改心したよい子で通っていたのですがあの子が口外してしまったために教師方からの信頼は失墜。挙句の果てに百合がわたくしに好意を抱いており、すでに一線を越しているなどといういかがわしいうわさを立てられてしまったのです。百合には悪いのですがわたくしも女ですので、男性の方が女性よりも好きなのです」

 でしょうね、僕も異性が好きです。頬をぽっと朱に染めながらそんな色づいた頬に手を当てていた。

「そしてあの日、百合はわたくしをここに呼び出して告白をしたのです……確か、内容は『私のお姉さまになってほしい』だったと記憶しています。ですが、わたくしはそれを拒みました」

 そういって一つため息をつく。

「どうかしたんですか?」

「……その後、あの子は本棚を倒したりと暴れて、そのまま地下室へと向かいました。そして火を放ったのです。なんとか消したのですが蔵書が一部が燃えてしまうという被害が出ました」

「……」

「まぁ、責任の一端はわたくしにもあるため、後日再び放火したという事実を作り上げてその蔵書を燃やした犯人をわたくしにしたのです」

 これで全部話し終えましたとそれだけ告げた。そして、僕のほうを見て静かに笑う。

「何か質問がおありのようですね」

「ええ、まぁ……実は百合さんから聞いていた話と少しだけ違うんです。百合さんはあなたと会ったのは屋上だといっていましたし、告白した場所も屋上だといっていました……」

「ああ、そのことですか」

 少しだけ目を付してから僕を見る。

「……間山霧之助さん、貴方はわたくしを最初、どこで見かけましたか?」

「えっと……」

 頭に浮かぶのはスーパーの帰りだった。

「この前のスーパーの帰りです」

「……ですが、わたくしは貴方をそれ以前、申したとおり東家、野々村家の結婚前式にて拝見させていただいております。片方が見たとしても、もう片方がそれを知っているとは限りません」

 つまり、百合さんが始めて東結さんを見たのは屋上だが、東結さんが百合さんの事を認識したのは図書館地下ということになる。

「じゃあ、告白のことは?」

「……それは多分、嘘でしょう」

「嘘?」

 立ち上がって両腕を広げ、くるりと回る。それが何を意味するのかよくわからなかった。

「……過去のこと、忘れようとしていること、当時ひどく緊張しているときに何をしていたか……そして、どうせこれ以上この話についてその相手に話すことなどないだろうと考えると人は曖昧なことをいってしまうものなのですよ、間山霧之助さん。そして、そんな話をするとき人は無意味に相手がしっかりと聞けないような状況へと運ぼうとします」

 なんだかものすごく難しいことをいわれている気がしてならない。

「しっかりと聞けないような状況?」

「そうです。たとえば……わたくしが三日間、寝ずに剣道の練習に打ち込んだとしましょう……そのすぐ後に試合をしました。相手は普段のわたくしと同程度の実力を所持し、なおかつ万全な状態……さて、わたくしは勝てますか?」

「いや……勝てないでしょう」

「つまり、そのとき貴方はそのような状況に追い込まれていたかもしれません。しっかりと、万全に彼女の話を聞ける状況でしたか?」

 彼女から話を聞いたとき、自分がどんな状況だった思い出した。

「……所詮、言葉など曖昧なものに違いありませんから」

 それだけ言って彼女はため息をついて首を二、三度ふったのだった。


前回の後書きで何かをいっていた気がしますが忘れてしまいました。時期に思い出すかも知れません。ま、そういうわけで今回もまた違う話をさせていただくことにしましょう。さて、校庭の草をひっこぬくなど高校でもあるのかよっと突っ込んだ方が、いるかもしれませんがあるところはあります。図書館がバカみたいに広いところも高校によってはあると思われますし、下手したら本当に地下室なんてあったりします。じゃ、今回はここでやめておきます。感想、評価などがありましたらどうぞよろしくお願いします。八月二十八日金八時四十六分、雨月。

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