第四十一話◆
第四十一話
期末テストも目前というか、すでに最中という言葉が最適だろう。あまりに点数が馬鹿みたいによかったテストがあったそうで、それが原因でテストの難易度が向上。その結果として他のクラスからは地の底からはいでるおぞましい声が、それとは対照的に僕たちの教室からは歓喜の声が聞こえていたのだった。
「何故だ……何故、またしても猛の読みが当たったんだ!?」
「あぁん?そりゃまぁ、運のよさだろ」
『猛君の期末予報その二』というテキスト(!?)を無償で借り受けて勉強した我がクラスの他力本願な連中たちの所為でクラスの平均点は九十五点オーバー。実力でがんばった僕だったが、クラスの中ではいつものように真ん中より若干上というたがえることのない普通道。九十五点オーバーで真ん中より上ってどんな話だよっ!!
きっと先生たちは中学時代の問題児をかき集めたこのクラスには一切の期待など背負っていなかったはずだ。今頃、職員室では混乱した先生たちがテスト問題の漏洩を疑っているに違いない。
一位があるなら、トップがいるのならもちろん最下位、つまり一番成績が悪かった人もいるもので百合さんがものすごくへこんでいた。
それでも、彼女の点数は九十点を超えており、平均九十三。つまり、それ以上の連中しかわがクラスにはいないのである。ここはどっかの予備校か?
机に突っ伏している百合さんの肩にそっと手を置いた。
「……百合さんそんなに気を落とさないで」
「……あのな、私は生まれて初めてここまで勉強したんだよ……クラスのトップぐらいには食い込めるって確信もした……隣のクラスの連中の平均点、聞いたか?七十台だぞ……最高平均点でも八十九。そう、隣のクラスに私がいたらあがめられていたかもしれないのに!しかもだ、私は一回ダブってるから是が非でも一位を取らないと何を勉強したんですかぁって一切年下のくそがき共から……うがぁぁぁぁ!!」
ああっ、百合さんが勉強のしすぎで頭から煙を出して意味不明なことを言っている!目の下には大量のクマを飼っていらっしゃるし……お肌も元気がないのかかさかさ気味だ。
「で、お前はどうだった?」
「僕?僕は真ん中よりちょっと上?」
「そうか、あれだけすごい点数をとっても尚、頂上にはまだまだだったのか……世の中、きっと不平等を基本にして平等というオブラートに包まれた悪意ある第三者の詭弁が横行しているんだろうな……」
そうだよ、それできっとそいつは笑っているはずだ。このクラスのトップは残念ながら複数いる。というより、僕より点数のいい奴はオール百点。その中の一人でテストブームをでっち上げた黄銅猛はあがめられていた。
「救世主よ!救世主がこのすさんだ世の中に光臨なされたわ!」
「ありがとう、ありがとう!お前がいなかったらこのクラスは闇討ちと辻斬りがブームになっていたに違いない!」
「正義の味方、お前がなるといいんだよ」
「さぁ、この私をあがめなさい!!」
このクラスの行き先がものすごく、不安だ。そして、同時に気になったりもするんだけどね。
「霧之助、この後暇か?」
「ん?暇だよ」
「駅前にできたファミレスに行ってみないか?なんだか珍しいもんがあるってうわさだから」
「うん、かまわないよ」
新興宗教へと変わりつつある僕らのクラス、一年五組。夏休み中に何か猛の求心力が低下するようなイベントがないだろうか?
―――――――
「ああ、そういやあの白衣の飛び級天使のうわさ、聞いたぞ」
奇妙奇天烈摩訶不思議な飲み物である“炭酸緑茶”を飲みながらそんなことを言われた。は、白衣の飛び級天使?まぁ、白衣は着てるけど看護師さんが着ている物じゃなくて理科の先生が着ている白衣だよね?
「何それ?どんなうわさ?白衣の飛び級天使って悠のことだよね?」
ああ、そうだよと百合さんがそういってウェイトレスを呼ぶ。
「すいませーん、口の中が痛い!衝撃、ビックバンエビチリ一つお願いします」
この店のメニューはどれもそんな名前だ。どんなものが運ばれてくるかわからないために炭酸緑茶でも十分良心的な飲み物と思われる。
「で、その白衣の飛び級天使の話って……何?」
首をかしげる僕にようやく百合さんは気がついて話し始めたのだった。
とうとう夏休み前。どんなに暇な夏休みでもちょっとしたことはたくさんあるものです。予告しておきますが、霧之助たちの夏休みに何かものすごいことがおきたりはしません、多分。何か花火とか夏祭りとかスイカ割り、海水浴などあればいいんですけどねぇ〜……あって怖いもの関係でしょう。さて、夏休みもそろそろ終わり。ああ、宿題終わってねぇよというそんな人もいるかと思います。そんな人はおとなしく勉強をしましょう。前回の呼びかけのときは百合さんをもっと出して欲しいといった評価をいただけました。それで百合さんがこれからさき結構な度合いで登場する可能性があるかもしれませんがご了承ください。じゃ、いつものように最後は感想、評価お待ちしておりますという形でしめさせていただきます。二千九年八月二十五日火曜日四時九分、雨月。