第四十話◆
第四十話
「悠?」
ものすごく近づいて手を振る。するとようやくはっとなったか急いで僕から離れてため息をついた。
「ば、馬鹿ね……そんなことしたら今度こそ撃ち殺されちゃうわよ!……あ〜もう!駄目!霧之助、覚悟して!ここで写真の中の人が誰だったか先に教えてあげる!それで、何もかも終わり!だから、今度邪魔しに来たらのろってあげるから!」
まだ幼いのに泣きながらそんなことを口にする悠。どれだけあの家のことを大切に思っているのかわかる言葉だった。
「悠は……それでいいの?」
「うん!仕方ないじゃん!は、恥ずかしいんだから!こ、こっちきて!」
「わかった」
少しだけ悲しかったが悠が決めたのなら仕方ない。僕は悠に近づいて耳を口に近づける。今にも死にそうに顔を真っ赤にしながら彼女の唇が僕の耳へとさらに近づく。
「あの写真の中には……」
ぷるるる〜……
「うわあっ!!」
耳、キーン!悠に大声を出されたために右の耳が一時だが聞こえなかった。悠が驚いて変な声を出した原因となったケータイ。それは僕のケータイで、ディスプレイには間山悠子と表示されていた。悠子は本当に悠のことが嫌いなんだなぁとなんとなく、納得してしまった。
「あ〜もしもし?どうしたの?」
『私だ、霧之助君』
「……悠のお父さんですよね?」
『そうだ……君のおかげで胸の奥につっかえていた反吐の出るような感覚が失われたよ。感謝する。あの連中のことは前々から嫌いだったからな。親父の考えが共存だろうがなんだろうが、もはや今の会社は私のものだ。それに、考えを改めたのか親父もそんなものわすれたわという始末だしな。まぁ、それで許婚の話はもちろん破綻だ……それと、悠もそこにいるんだろう?』
「ええ、代わりますか?」
不思議そうな顔の悠にケータイを手渡そうとしたが再び声が聞こえてくる。
『いや、いい。ともかく、後は悠のお眼鏡にかかった奴が幸せ者になるって事だ。要するに、許婚とか最早やり口が古い。血だけを重んじる能無しどもを私たちの家系に加えるわけには行かないからな』
「つまり、それは悠が自分で相手を見つけていいって事ですか?」
『ああ、そうなるな……まぁ、あんなじゃじゃ馬を嫁にする相手だ。きっとすごい奴だろうからな……それと、すぐに帰ってくるように。東グループと今後一切話すことを認めないと悠に伝えておいてくれ』
「わかりました」
何故悠子のケータイからかけてきたのかはわからなかったがともかく、悠にさっさと伝えたほうがいいだろう。
「悠、あのね……詳しいことは君のお父さんから聞いて欲しいんだけど僕はあの写真の中の人を知らなくてもいいんだよ」
「え?何で?」
僕は不思議がる悠を残してコテージを出た。そして、つりをしている東先生へと近づいた。
「あの、東先生……本当に申し訳ないんですけどすぐに僕と猛、悠だけでいいから帰してくれませんか?ちょっと事情が変わりまして……」
――――――――
その後、何とか家に帰り着いたのは深夜だった。悠子がおきていてお茶を入れてくれた。
「んあぁっ!!疲れたっ!!」
「……本当、物好きね、お兄さんは……あなたのおせっかいぶりは脱帽に値するわ」
「そう?普通じゃない?」
「普通じゃない」
やれやれ、困ったものだこのあほなお兄さんは……そんなことを言ってテレビをつける。
『今入ったニュースですが、業務提携を結んでいた東グループと野々村グループが先ほど正式に袂を別ったことを……』
「……お兄さん、お兄さんのおせっかいの所為で経済が動いたわよ」
「……はは……そうだね」
これは夢だということにしよう。明日からは気合を入れて勉強をしないと期末試験、悲惨な結果を残してしまう。
ついに四十話!まぁ、なにがついなのか何なのかわからないんですけどね。野々村編、これにて終了です!感想なんかありましたらお願いします!