第四話◆
第四話
僕は今日の放課後、妹の背中に靴跡をつけてしまいました………そして、逃げ出してしまったのです。ああ、何とはじ知らずな兄なんでしょうか?
家に帰ってきた僕を見ても特に何も言わずに自室へとこもり、一生懸命作ってあげた料理も食べてくれようとはしていません……もしかして顔が見られちゃったのかな?とも思ったのですがそうではないようでほっとしています。
何で敬語になってるんだ!?
戦々恐々としながらどきどきどきどきとしていると割り振られていた(妹によって、しかもやつが一番広い部屋)から出てきてテーブルの上におかれているハンバーグへと手を伸ばす。
「私、肉きらいなんだけど?」
二十分後、全てを平らげた悠子がそんなことをのたまった。どうでもいいけど頬にソースがついてますよ、飛び級さん。
「……そうですか、それは失礼しました」
「何、その態度?気持ち悪っ」
ひでぇ、今、確実に僕の心はこいつのナイフでめったざしにされてしまった……信じられないことを言うような妹だ。
「ま、頭悪いやつは頭いいやつに対してこびへつらってればいいのよ」
うわぁ、人ってここまで酷く慣れるんだなぁともはや罵倒されることにも反感を覚えもしない自分が少し悲しかったりする。まぁ、あれだ、人はいずれ慣れてしまう生物だ。僕も人間だからなれてしまったのだろう。
「じゃ、私はシャワー浴びてくるから」
「お湯、沸かしてるよ。僕まだ入ってないし」
「そう、それならお湯ぬいておくから」
「何で?」
「私の後にお兄さんに入られるのは気持ち悪いから」
おいおい、思春期の娘か、お前は。よく父親が入った後には風呂に入りたくないとか後には父親入らせたくないとか聞く話だけどさぁ、酷い話しだよぁ。というか、いつから僕は悠子の父になったのだ?教えて欲しいものだ。
脱衣所へと消えていった悠子を見送ることもなく、食器を洗うことにする。悠子が家事を分担せずにすべて僕に押し付けたのにはさすがにムカッときたのだがもしかしてあの妹は家事をしないのではなくできないのではないのだろうかと考えている。まぁ、まだ一週間もたっていないのだから真相は闇の中だ。だからいずれ楽しませてやろうと思う。
―――――――――
目覚ましよりも早い時間おきて朝食へと取り掛かる。
卵料理は簡単なものだが毎日毎朝卵というのも飽きが来るだろうなぁと考えながらスクランブルエッグを作る。途中、パンをトースターの中に二枚押し込み、悠子希望の蜂蜜とバターを載せてスイッチを入れる。ウインナーかソーセージか迷ったのだが結局ソーセージを切りフライパンで軽くいため、完成と同時にトースターがチン!という子気味よい音を奏でてくれた。
妹の部屋を感慨深げでもなく、普通に開けて(当初はどきどきとかするのかなぁと思っていたのだが一切なかった)きちんと寝相よく眠っている悠子の肩をゆする。
「ほら、朝だよ。おきて」
「……後、五分……」
「わかった、また五分後に来るから」
「…………Zzzzz」
扉を閉めて自室へと戻る。
さっさと学生服に袖を通してかばんを持って一人の食卓につく。
二人で朝食をとると思っていたのだが悠子が朝は弱いということを知ったのでいちいち起こさなくてはならなかった。
あんな性格なのにものすごくファンシーなぬいぐるみなんかが部屋にちりばめられておりこの冷酷そうなやつも女の子なんだなぁと感心させられた。あのおっさん(猛)から言われたことも一理あるとは思うので譲歩はしておくがそうそううまく今日からこの人が妹よとか言われても信じられないし、まず身体が受け付けない。
まぁ、時間が何とかしてくれるさとこの場はお茶を濁しておくことにして僕はなり始めたケータイに手を伸ばす。
「もしもし?」
『あ、俺だよ俺』
「猛、何か用か?」
『お前の妹って確か名前は間山悠子ちゃんだったよな?』
「そうだけど?」
『飛び級なんだよな?』
「ああ、例外中の例外っていってたぞ」
そう伝えると猛は不思議なことをしゃべり始めた。