第三十八話◆
第三十八話
「いいか、お前たち二人は洋一郎を呼べ。そうしたら中にいる美月と洋一郎が走ってこっちに来るはずだ」
八人乗りの車の中で最終的な計画をまとめる。外には数人警備の人がいたりもしたが東先生が関係者のため問題なかった。
『……では、そろそろ未来の夫婦に登場してもらいましょうか!』
そんな言葉が無骨なイヤホンから聞こえてくる。式場には盗聴器が仕掛けられており、それを聞いてタイミングを計っていたのだ。
「霧之助、俺らもいろんな悪いことしてきたけどよ、人の恋路を邪魔するのは初めてだな」
「ん〜……どうだろ?この場合邪魔しているのはあっちだよ」
「……それもそうか」
そんなやり取りが少しだけ続き、手だけで先生が合図する。いまさら気がついたのだがこんなことをしたらいろいろと問題が生じるのではないのだろうか?停学、いや退学かも……
そんな感情が出てきたがさっさと消す。
「……じゃ、行ってきます」
「ああ、行ってこい!」
――――――――――
「洋一郎!こっちこい!!」
猛が入り口付近でそういい、まるで別人に見えたタキシードの男、東洋一郎がこっちへと駆けてくる。そして、端のほうにいた美月ちゃんもこっちへと駆けてきていた。よし、これで万全だ!後は逃げるだけ……そう思った。だが……
ウェディング姿の悠が悲しそうな顔をしてこっちを見ていた。
「おい、霧之助!」
猛がさっさと行くぞといったようだがそれより大切なことがあると思った。
「ああっ、わかってるよっ……先に行ってて!すぐ行くから!」
先に行かせて僕は腹にめいっぱいの空気を吸った。
「野々村悠!お前もこっちにこいっ!!」
びっくりしたような顔をしたが、それも数秒。彼女も駆け出してこちらへと向かっていた。途中、どうやらはきなれていなかったハイヒールの所為でこけそうになる。そんな悠を抱きかかえて逃げようとするも、間に合わなかったようだ。
「そんなことさせんぞ!」
一度も見たことの無いおっさんが僕たち二人の前に立ちはだかる。徐々に混乱も終結へと向かっているようで僕らは取り囲まれており、目の前まで迫っていた扉も閉まった。
所詮、子どもの計画か?いや、途中まではよかった……計画を破綻さんさせたのは僕の身勝手な行動だ。
「野々村っ、お前も何とか言ってやれ!」
「おう!」
そういって悠のお父さんが出てきて、僕らの前に立ちはだかるおっさんを押し退けた。
「行け」
「え?」
「早く行け!」
すごまれて慌ててそのまま走り出す。部下と思われる二人が頭を下げていたので走りながらだったが僕も一応頭を下げることにした。
会場の外にはいまだ東先生の車があり、後ろからは怒声が聞こえてきている。
「最初からこんなこと反対だったんだよ!そっちが頭を下げてこなかったらてめぇんとこのくそがきに誰が悠をやるかってんだよ!」
「んだとぉ?頭を下げてきたのはそっちだろうがよ!こっちだってよ!お前のとこのぎゃーぎゃーうるせぇ娘なんて願い下げだ、コラ!」
そして乱闘が始まったのだろうか?戦闘種族ではないかと勘違いするような戦いがきっと繰り広げられているのだろう。
「すいません、遅くなりました」
「いいよいいよ、結果がよければそれで大丈夫だから」
助手席に猛、一番後ろの席では美月ちゃんと洋一郎がいちゃいちゃしている。僕と悠もさっさと座る。
「先生、これからどこへ?」
「おれの別荘だ」
車は急発進。空はどこまでも蒼く、澄み切っている。
ついに霧之助たちによる東洋一郎の式をぶち壊す計画が発動しました。そして、途中霧之助による独自判断も入ったことにより頓挫するかと思われた計画も何とか遂行され、東洋一郎と美月の愛の逃避行が始まります。そろそろ四十話に突破しそうであり、これも読んでくれる方々がいるおかげなのだなぁと実感します。次回の後書きで時間があれば今後の予定を書くつもりです。