第三十五話◆
第三十五話
「ねぇ、お兄さん最近何か隠してない?」
「え?」
食事をしているとき悠子にそんなことを言われた。
「隠してるって……何を?」
「ん〜……なんだろ?もしかしたら直接的には私に関係ないことかもしれないけど、学校でも挙動不審みたいだし。怪しい」
「そうかな?」
隠し事……ああ、多分東洋一郎と野々村悠の結婚式だったか儀式だったか知らないけどそのことかもしれない。明日は学校に行かなくちゃいけないし。
悠子にこのことを話していいのだろうかと考えみたのだが、別にかまわないだろう。だけど、いまだに仲が悪いこの二人……名前を出すだけで険悪な雰囲気になるだろうな。
「まぁ、隠し事というか、悠が関係してることだよ」
名前を出すと案の定柳眉が上がって目つきが悪くなる。けどまぁ、それだけでまだ僕の言葉を待っているようだ。
「……知らないかな?来月よくわからないけど許婚と結婚式みたいなのをあげるんだって」
「ああ、なるほどね」
なぜかいつもの少しだけ不機嫌そうな顔へと戻る。首をかしげる僕を悠子はじっと見ていた。
「で、それが何かお兄さんと関係してるの?」
「ん?ああ、その悠の許婚って言う人とこの前偶然出会ってね」
「きっかけはおせっかい……でしょ、絶対」
「ま、まぁ、そうかもね……」
相変わらずしつこい妹の感にあははと笑う。これ以上はなしてしまうとさすがにいろいろとまずいだろうということでそろそろお茶を濁したい。
何を思ったのだろうか、悠子はこっちをじっと見てきて首をかしげた。首をかしげる仕草が新鮮でなんだかドキッとしてしまった。
「……どうせまた多かれ少なかれおせっかいを働く気……なんでしょ?」
「え?」
「ま、お兄さんの好きなようにするといいわ……」
自分の食器を持って立ち上がり、そのまま台所の流しへと静かに置く。呆然としている僕にまるで予言めいたことを悠子は放った。
「……どっちに転んでもお兄さんは大変なことになるわよ」
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休日なら一般人でも入りやすいかなと思ったのだがよくよく考えてみたら玄関を通らねばならず入るための手続きをしなくてはならないのだ。
「大丈夫かな、洋一郎のおじさんって言う人……」
「ああ、確かにあいつのおじって想像するとどうしても似てそうなイメージが……」
まだ見ぬおじを想像しながら屋上であくびを続けざまに出す。そんなことを続けること十分程度、屋上の扉ががちゃりと開いた。
「おう、待たせたな」
「「…………」」
そこには学年主任である東公彦先生が立っていた。ああ、なるほどね。先生だったら屋上に来ても誰も咎めたりはしないだろう。
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「しかしまぁ、あの洋一郎がすごいことを考えるなんて思いもしなかった」
「……僕らも驚いてますよ」
すでに段取りを決め、今では雑談をしている。
「けど、何でお前たち洋一郎を応援しようと思ったんだ?この前あったばかりなんだろう?」
首をかしげている先生に僕は言った。
「洋一郎のためじゃなくて、悠のためなんです」
きょとんとして先生は僕のほうを見ていた。
「ああ、そうか。この学校野々村悠はいるんだったな……しかしまぁ、おかしな話だよな」
「おかしな話?」
「あれ?知らないのか?野々村グループと東グループは前から仲が悪かったんだけどなぁ……不況で手を組むことにしたそうだ。あくまでそれは不況だから。実質はいまだ仲が悪いままだよ……だから、古来から使われていた結婚っていう方法で結びつきを強めようとしているんだよ」
「ふざけた話ですね」
猛がそういう。僕もそう思った。
「じゃあ、二人は当日おれの車に乗って会場に急いで入るように!ああ、顔は隠すなよ?顔を隠して洋一郎を連れて行ったら誘拐だし、下手したらSPとかいる可能性があるから……君らは洋一郎の名前を呼ぶだけでいい」
それと、これを渡しておこうといわれて紙袋を渡される。
「先生、これは?」
「防弾チョッキだ……念のため、な」
何やら話がおかしな方向へと流れている気がしてならない。
このあとがきを見ている人にお願いがあります。別にいつもの感想くれ、評価くれのくれくれコールではありません。以前言いましたがどのキャラも大切にしたいため、あいつの影は臼井影郎ばりの薄さだと感じたら教えて下さい!