第三十二話◆
第三十二話
「ちょっとあなたたち!よってたかって何をいじめてるのっ!!」
「美月!」
「「美月?」」
僕と猛は首をかしげ、洋一郎は美月と呼んだ子に近づいていき、そして現れた美月という少女はその洋一郎を後ろに隠した。
「お金が欲しいの?それならバイトでもしなさい!」
「え、えーと、これはどういった展開で?」
「さぁな……ともかく、この子が俺たちのことを誤解してるのは目に見えてわかってる」
「逃げるわよ、洋ちゃん!」
「え、ちょっと……」
待って!ともいえずに美月と呼ばれた子は洋一郎をひっつかんでものすごい速さで消えてしまった。あまりの唐突さにぼーっと見ていることしかできなかった。
「おいおい霧之助、どうするんだよ?俺、あいつのケータイには番号とかアドレスとか入れたけどあいつの番号しらねぇぞ。あっちからかかってくるのを待つしかないんじゃないのか?」
「……猛、聞き忘れてた?あの子、多分僕らのアドレスとか消すよ」
「何でだよ?」
そんなことを聞いた猛だったがため息をついた。
「………そういや、『俺らのアドレスを消しやがる邪魔なお前の女』ってのがいた気がする……万事休すだな。まぁ、人生なるようにしかならねぇんだよ」
それだけいって猛は立ち上がる。
「んじゃま、帰るか」
「……そうだね」
「ま、気にするなよ。何もまだ終わったわけじゃねぇからな」
もちろん、このまま終わらす気なんてない。僕の手には洋一郎が一回だけしか使用していないハンカチが残されていた。あのボンボンが落としていった高価なものだ。猫糞するきはさらさらない。
―――――――
「ねぇねぇ、珍しくない?」
「何が?」
「霧之助がデートに誘ってくれるの」
「ん〜別にデートじゃないんだけどね。ほら、ものすごく前に遊ぶって約束をしてそれ結局中止になったからさ」
「ああ、懐かしいね」
そういって笑う悠にさて、どうやって切り出したものかと思う。目の前のパフェが全て食べ終える前に話をつけようと自分でデッドラインを決めてみた。
「あのさ、悠に聞きたいことがあってね」
「ん?何?」
実においしそうにチョコレートパフェをぱくついている(口の周りを汚しているのに気がついているのかいないのか……)悠に一つ間を開けて話しかける。
「……ええと、東洋一郎って知ってる?」
「……」
たずねると硬直化し、固まっている間に口の周りのチョコレートを取ってやる。パフェを二口食べる程度の時間を開けてようやく口を動かし始めた。
「し、知ってるよ」
「そう、ちょっとお願いしたいことがあるんだけどいいかな?」
「何を?」
「電話番号と住所教えてくれないかな?実はさ、ハンカチ拾っちゃって」
そういって取り出して悠に見せる。それをじっと見てからぎこちな〜く、首を縦に動かした。
「う、うん、それって洋一郎がいつも使ってる奴だよ。彼女から貰った物だって言ってた」
「ああ、そうなんだ」
「けどさ、何で私が洋一郎の知り合いだって思ったの?」
「ん〜そのとき洋一郎が悠のこといろいろ言ってたから」
「そ、そうなんだ……」
ものすごく元気をなくしてだんまり。たまにちらちらとこちらを見てきており、パフェをさっきからずっとスプーンでかき混ぜていた。
「……ど、どんなこと聞いた?」
「教える代わりに電話番号と住所、教えてよ」
「……」
じっとにらみ合いが続いたが、先に悠が折れた。自宅、携帯の電話番号と住所を教えてもらったので教えることにした。
「……東洋一郎の許婚って聞いたよ、僕は」
「………そ、そっか、聞いちゃったんだ」
「うん、それでね……」
僕は一つだけ思ったことを口にした。あの家、つまり野々村家に行った時のことだ。