第三十話◆
第三十話
「お〜い、大丈夫?」
「……え……あ……」
近くの公園まで背負って運び、顔に水をかけて解放終わり。なよっとした感じの男子高校生で僕らが通っている高校から少し離れている場所の高校の制服を着ている。
ちなみに、目の前の人と同じ服を着ていた連中は今頃ぶるぶる震えながらゴミ箱の中でもだえ苦しんでいるだろう。
そんなかわいそうな連中に襲われて気絶した高校生。彼はうつろな目をしていたが僕らを見てかばんを前に出した。
「許してください!もう、本当にあの子と別れますから!」
「……はぁ?」
「おい、霧之助……こいつ勘違いしてるぞ」
「そうみたいだね……」
おびえている多分同い年の生徒に優しく話しかける……どうせ話しかけるならもう少し年下の人に話しかけたかった。同い年に優しく話しかけるのはなんだか気が引ける。それに、まるで自分がかつ上げをしているような錯覚を感じてしまうのだ。
「あのね、僕らは君を袋していた連中から助けてあげた恩人だけど?」
「お、お礼のお金ですか?お金なら家が裕福なんでたくさんありますから」
そういって慌てて財布を出そうとしている。ううん、どうやらかなり混乱しているようだ。そして、その態度は無性に頭にくる。何?お金はたくさんありますからって……これが格差社会なんだろうな。上の連中はお金を渡せばそれでトラブルが解決しちゃうって思ってるし。
「ま、助けられたんだからいいだろ……」
「ああ、そうだね……」
「あの、お金は要らないんですか?いつもだったらお礼のお金を要求されたりするんですけど」
どれだけたかられてるんだ、この人は。……呆れながらも、ついでにおせっかいか?とも思いながらため息をついて話す。
「あのね、お金が欲しくて君を助けたんじゃないんだよ」
「そうだぞ、俺らはただ運動をしたかっただけだ」
そんなわけがないだろうに……猛は嫌な笑みをうかべている。先ほどぼこぼこにした連中のほうがビジュアル的にはよかったのでどちらかというとこっちがやられるべき存在だろうな。しかし、現実はそう甘くないのである。魔王を倒す人たちが全員イケメンとは限らないのだ。
「そうなんですか?」
こいつ、多分間抜けだ。そんな考えが脳裏をよぎる。いちいち人のことを信用したり自らお金を出そうとしている。これでは後々トラブルに巻き込まれかねない。
「なぁ、猛。この人に僕らのアドレスとか教えてあげておいたほうがいいんじゃない?」
「……あのな、初対面の奴に教えるってどういう考えしてるんだよ。こいつが犯罪者だったら俺らすぐに裏社会で有名人になるぜ?」
呆れたようにそういう。まぁ、そりゃそうだ。
「あ、で、できましたら教えていただけませんか?お金を払うとかじゃなくて、お礼とかしたいんで……そこは、ちゃんとけじめをつけないと」
そういって頭を下げられる。猛も鼻の頭をぽりぽりとかいてしばしの間考えているとしょうがないとうなずいた。
「わかった、教えておくからケータイ貸してくれ。俺が入れてやるから」
「え、ええ、お願いします」
おとといぐらいに出た最新機種をまじまじと眺め(ああ、こいつは金を湯水のようにつかってるんだな)猛はケータイをいじくり始める。
「おいおい、何だこの『様』ってのは?」
「はぁ?」
気になって猛とともにケータイを覗き込む。するとそこには友達と思われる奴の名前の右に『様』とつけられていた。
「え、えっとそれは……その、金がなくなったら渡して欲しいっていわれている学校の友人のものです」
「けっ、金をせがむ奴を友人とはいわねぇよ、馬鹿。今度そんなことをいうやつがいたら俺に電話しろよ」
「す、すみません……」
素直じゃないな、猛も……そんな感じで次に僕は助けた人のケータイをいじる。間山霧之助と入れて番号とアドレスと打ち込む。マ行のところは意外と人が少なかった。そして、返す前にふと、どの程度の人間が彼のことを金づるだと思っているのか知りたくて電話帳をぱっと見ていく。そろそろナ行の最後あたりだ。
そこに見知った名前を見つけた。様とはつけられていない、名前。
「……野々村……悠?」
「ああ、それはぼくの許婚の番号とアドレスです」
困ったようにそんなことを言う。
「……え?」
首を傾げる僕に彼は事の次第を話し始めた。
ついにこの小説も三十話!いやぁ、長かったここまで来るのに長かった……気がします。他の方がどうだか知りませんが人気投票とかやりたいんですよね〜。しかし、現実は厳しく投票してくれる人の数がゼロ、または少ないためにしょぼい結果に終わってしまいそうだし。まぁ、どうでもいいことはこのぐらいにしておきましょう。前書きに書くべきなんでしょうが霧之助はここで東洋一郎という男子高校生と出会います。実はこの男子高校生が野々村悠のお知り合い。そう、許婚なのです!どうせなら主人公に許婚つけろよって突っ込みを入れたい方、それも確かに考えましたが霧之助の家庭にそんなすごいシステムなんてなかったんです。時代が時代ですし。この小説を大正時代にしておけばよかったなぁといまさら思っています。では、今後ともよろしくおねがいします。