第二十九話◆
第二十九話
あれから一週間が過ぎ、特に誰かが期待してそうな事件なんて一切起こらなかった。なんだかいろいろとそれではまずい気がするのだがあまり事件だらけだったとしても新鮮味がかけたりするのかもしれない。時には波風立たずに何もないというのもいいだろう。
由美子ちゃんともあれから話す機会なんて一切なく、僕らがいない間由美子ちゃんが家にいて僕らが帰ってきたときにはすでに仕事に行っている等、そんな感じだった。
そして、テスト結果は予想よりかなりよかったのだが……
「……嘘だよね、嘘って言ってよ」
「本当ですよ、間山さん。わたし、全科目百点ですから」
にこっと笑ってそんな酷いことを言う。ちなみに僕は全部九十点台だ。ものすごくがんばったほうなのだが所詮はその程度だった……いや、自分の成績には自信があったけどそれより上がいるっていうのは悲しいが認めるしかない。ま、まぁ、どうせ国語とか苦手だし……
「往生際が悪いですよ、間山さん」
「……ぐぅ……それで、僕は何をすればいいの?」
まさか百合さんから離れてとか言い出さないよねぇ?そんなことを思ったが、どうやら違うようで何かの紙を取り出した。
「……これ、何?」
「読めばわかりますよ」
「……わたくし、間山霧之助は今日以降、宮川雪のぱしりになることを誓います。絶対にこの約束は守ります……あのね、一つだよ、一つ」
「ええ、だからここの書類にサインをしていただくだけでいいんです。名前を書くだけ、簡単ですよね?」
にこっと笑ってそんなことを言う。ああ、何て酷い子なんだろうか?悪徳商法だよ、絶対。
「か、書くわけないじゃん!」
「え〜でも賭けは賭けですよ。書いてください」
右手にペンを持たされ、引っ張られる。この子の腕の力は尋常ではないのを知っているが、実際やってみてどれだけ強いかわかった。少しだけ腕力には自信があったのだが、なるほどこれは束にならないとかなわない気がする。
「じゃ、じゃあどんなことをさせるのか教えてよ!」
「別に。今までどおりでいいですよ。頼み辛いお願いをするときだけ使います」
「……本当に?」
「ええ、本当です」
わたし、百パーセント真実でできてますという顔をする雪ちゃん……ま、まぁ、賭けは賭けだし、ここはだまされたと思って名前を書いておこう。
「そうそう、素直が一番ですよ、間山さん」
「……釈然としないような」
その紙を大事そうに(そらそうだろうな。人一人ぱしりにできるんだから)戻して僕に背を向けた。
「じゃ、わたしはこれで失礼します」
「ん、ん〜ばいばい」
殆ど残っていなかった生徒たちが帰宅していくのと同じようにして雪ちゃんの姿は消えていってしまった。どうやらこの後部活があるようで(テニス部だそうだ)一緒には帰れないとのこと。やれやれ、仕方ないなと思っているとおっさんが一人寄ってきた。
「霧之助、久しぶりに一緒にかえらねぇ?」
「あ〜別にかまわないよ、猛」
猛と一緒に帰るなんて中学以来である。
しかしまぁ、中間テストも終わって気が抜けていたのだろう……ものすごく大変なことに僕たちは巻き込まれるのである。
――――――――
「おぅ、猛……あれ見てみなよ」
「あぁ?……おい、ありゃケンカの最中じゃねぇのか?」
ケンカ?いやいや、あれはケンカなんじゃないだろう。
「おいおい、違うだろ!ありゃどう見てもかつあげだよ……行こう、猛」
三人の男子生徒が一人の男子生徒を取り囲んでおり、僕らが近づく前に一発みぞおちに拳を打ち込む。取り囲んでいる連中は崩れ落ちた男子生徒を見ながらへらへら笑っている。
「霧之助、あれ見ていると中学時代を思い出すな」
「……ああ、そうだね」
おい、お前らやめろ!そんな優しい言葉を僕たちはかけない。
後半戦からついに書き始めて公開した野々村悠編スタート!ああ、思いつきでこんな話にしなければよかったなぁと考えたものの、引き返せないところまできていました。パソコン止まること四回、データが中途半端に壊れるのも三回ほどありました……のろわれていたりして。ま、まぁ、問題は中身ですね。目標としては皆さんの暇つぶし程度になってくれればいいでしょう。じゃあ、まぁ、前回同様野々村悠編が終わったら感想とかいただけないかなぁと信じている作者雨月でした。