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◆◇第二百八十一話◇◆◆:黄銅猛の私事エンド

猛エンド



 人生というものは山あり谷あり、峠あり。一本道ではないのである。

 そしてまた、友情も同じであった。

「うぉりゃっ」

「……」

 豪腕が炸裂し、それを少し細身の少年が避ける。そんな攻防がずっと続いていた。細身の少年が懐に入るも、腕をクロスして衿をつかまれるのを防ぐのである。

 すばやく離れ、お互い笑う。

「おいおい、お前やっぱりあのころと変わりねぇなぁ……親父さんをぶちのめしたいって言って漫画みたいにずっと特訓なんてしていたもんなぁ

「ああ、そうだね……ま、それが無駄じゃなくてよかったって思ってるけど……後ね、今の親父をぶっ倒すなんて考えもしないねっ」

 素早く走り、わき腹へと拳を突き立てる……

「相変わらず、かったいな……」

「その程度じゃ、骨も折れねぇよ」



―――――――



 それから十分後、二人は、いや、三人はラーメンを食べていた。

「結局、引き分けかぁ」

「そうだなぁ」

「……猛君、怪我してないよね」

 そういって二メートル近くある少年を見やる少女。

 美女と野獣だなぁ、そう霧之助は思うのであった。毎度毎度、この二人の取り合わせを見るのは失礼ながら好奇と言って良いだろう。

「で、お二人さんは幸せ絶頂期って見て良いんですかねぇ」

 いやらしい微笑を湛えながら霧之助がお冷を飲み干す。彼はすでに食べ終わっていた。

「見てて寂しくなるから……じゃ、先に帰る」

「ああ、またな」

「また、今度……」

 肩をすくめて出て行く霧之助に手を振ることもなく、見送ることもなく黄銅猛はため息をつくのであった。

「どうかしたの……」

 もちろん、そのため息を彼女である矢田瑠璃が聞き漏らすはずがない。猛の懐には都会の裏路地で買った超高性能の盗聴器がつけられているのである。

「いや、ちょっとな……お前が何で俺なんかを彼氏にしたがったのか俺にはいまだにわからねぇんだよ」

 ほとほと困り果てたといった調子でそういう。手荷物お冷がウイスキーのグラスならば恋について悩んでいる中年男性に見えなくもなかった。

「最初は……一目ぼれ。だけど、調べていくにつれて戻るに戻れなくなったって言うか……私、貴方のためだったら何でもするって言える」

 その整った顔に嘘という文字が書かれていることはなかった。その顔を少し、眺めた後に頷く。

「そうだな、瑠璃が嘘なんてつくわけないか」

「逆に……猛君が浮気するほうが心配」

「おいおい、浮気って……」

 卒業はしたがまだ婚姻届は役所にいってないぞと猛は突っ込むがスルーされてしまった。

「……私、いつでも見守っているから」

「瑠璃の場合は監視だろうけどな」

 くくく……そんな声を出しながら懐につけられていた盗聴器を台の上におく。

「あ」

「俺が気がつかないわけないだろ。ま、そこまで気にしてもらえるっていうのなら男冥利に尽きるってもんだよ……じゃ、そろそろ出るか」

 再び盗聴器を懐にしまった後に瑠璃の肩を軽く叩く。

「安心しろよ、俺が女に近づいたら向こうが逃げるからよ」

 そういって安心安全の牛肉ですよとついでに言うなら盗聴器が作成者の顔写真といったところか……

「うん、わかってる。猛君が浮気なんてしないことを……」

「そうそう、わかってもらえりゃいいんだ」

 仲よさそうにラーメン屋を後にする二人。

 ずるずるずる~……

「……私もあんな風にお兄さんと……」

 ぐるぐるメガネを湯気で真っ白に染めながら一人の少女がラーメンをすすっているのであった。



―――――――――



「んじゃあ、あれだな。今度の休みに二人で遊園地にでも行くか」

「うんっ、行こうっ」

 なんてことはない、帰り道。しかし、二人にとってはとても大切な道であった。

「瑠璃の家はこっちだったな」

「うん……えっと、ちょっと寄っていかないかな……お母さんにも紹介したいし」

「え、あ……いや、今日はスーツじゃないし、菓子折りも持ってきてねぇよ。それに、仏滅だし」

 いや、そんなことを気にする必要はないだろうとここに親友がいたら突っ込んでいただろうが……二人の恋が放つ愛フィールドによって退散してしまっているのだ。必然的に誰も突っ込むものは存在しない。

「そうだよね、しっかり好印象を与えないと式の日取りとか決まらないもんね」

「そうだな……瑠璃、俺はお前のことが大好きだっ……」

 そういった直後……

「ぶほっ、げほげほっ……」

 そんなむせた声が聞こえてきた。もちろん、二人がそんなことで冷めるわけでもない。

「私もっ」

 ひしっと抱き合い、腕を組んで歩き出す。

「……はぁ……あ、あれが恋人ぉ……私もいつか霧之助とああなれたら……」

 口元をぬぐいながら自販機の陰から覗き込む、宮川百合の姿がそこにはあった。



――――――――――



「じゃ、気をつけて帰れよ」

「大丈夫、もう家の目の前だから」

「そっか……」

「猛君のほうこそね」

「大丈夫だ、お前からもらった御守りがあるからな」

 にこっと笑うその顔ににやっとした顔。

「あ、これ……学業の御守りだった」

「大丈夫だろ……じゃ、またな」

 目の前の大きな背中に瑠璃は声をかける。

「た、猛君っ」

「ん……どうした」

「あ、あの……キスしてよっ」

「……ここでか」

「うんっ



――――――――――



 どさっという音をたててビスケットがアスファルトに足をつける。

「……」

 慌ててそれを回収し、近くの電柱に身を隠す。

「……」

 どうやら、ばれていないようでほっとする野々村悠であった。あれは間違いなく、恋人の甘いひと時ではないか……悪いと思いつつ、それを覗き見ようとしたが……やめる。

「き、霧之助に悪いもんね。見られて気持ちいいってわけでもないだろうし」

 けど、いつか自分も……そんな思いを胸に馳せて白衣を翻し、悠は急いでそこから立ち去る。



――――――――――



「じゃあな」

「うんっ、また明日」

 こうして、黄銅猛のいつもの日常は終わりを迎えるのであった。


恐ろしき男かな、猛。そういうわけで、猛エンドです。いかがだったでしょうか。今回は一切のカリスマ性を見せることもなく終わってしまいましたがこれはこれで充分よかったと思っている所存ですね、はい。あ~後書きにかくネタが……ないです。そういうわけで、雨月が絵の勉強を開始しました。そして、結果下記途中なのが『没念神』なる絵。当初は霧之助などを書いてみる予定でしたが何故か、ゲームに出てきそうなラスボスっぽい存在に。人の頭がいっぱいでそれを植物のつるが結んでいる……マネキンのような頭には札が貼られておりどれもこれも『没』という字が……没となった小説の鎮魂もかねてます。見せたらどんな反応するんだろ……画像の転載方法なんてわからないしなぁ……ともかく、次は……以前の百合エンドを改定したものです。一月三十一日日曜、九時五十一分雨月。ああ、今日で一月もおわりなんだなぁ。

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