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◇◇第二百七十八話◇◇◆:桜の部屋エンド

桜エンド



「うっわぁ、でっかいなぁ……」

 間山霧之助は友人の家の門の前でそんな感嘆の声をあげるのだった。

「別に、そうでもないわよ」

 一般的な家よりも敷地面積は大きいに違いない。平均的な敷地面積の四倍程度の大きさに家が建っているのだから日本の箱庭レベルというわけでもないだろう。

 ただただ、自分が住んでいるアパートと比べながらため息を漏らすのだった。断っておくが、霧之助、悠子、由美子の両親が住んでいる場所は充分豪華なマンションである。貧乏性が身にしみているのはあくまで霧之助一人だけだ。

 そんな貧乏性の高校生は洋風の造りをしている門をそっとなで、ため息を漏らすのだった。

「う~ん、まさかここまでお嬢様だとは思わなかった」

「お嬢様だって……はは、言いすぎよ」

「じゃあ、お姫様かな……」

「やめなさいよぉっ」

 そんなことを言ってみると実に嬉しそうに叩かれてしまった。この手の冗談にのってくるタイプだとは知らなかったために、今日ここに来ただけでもよかったのかもしれない。

 家に来て欲しいといわれたときは本当に何かそら恐ろしいことが起こってしまうのではないかと不安になってしまったがどうやら、そうでもないらしい。

「さ、こっちよ」

 門を自ら開けて桜が先頭に立つ。

「う、うん」

 なにやら無言のプレッシャーを感じる気がしてならなかったがそれでも霧之助は前に進むしかないのである。



――――――――



 大きな扉が開き、其処が大きな玄関となっていた。スリッパがすでに準備されており小柄なおばさんが頭を下げる。

「まぁ、その方がいつもお嬢様が話していらっしゃるご学友の方ですね」

「お嬢様……」

 改めて、ぜんぜん違う次元の人間なんだなぁとため息をつくのであった。

「た、田中さん……そんなことよりパパとママは何処に……」

「あ、お二人とも応接間でお待ちですよ」

 どうぞこちらへと案内される。下手に広い廊下は音を出して歩くのには何故だか忍びなくて静かに後をつけるようにして応接間へとやってくる。

「ただいま、パパ、ママ」

「お帰り、桜」

「お帰りなさい」

 上品そうな初老の男性と女性。実に高貴なオーラを纏っていた。僕はどうだろうかと霧之助は自分の手を見るが、しみったれたオーラしか出ていなかったりする。

「霧之助、其処に座って良いわよ」

 そういって指し示された場所は早乙女パパの前だった。

「え、あ、いや……その、桜……」

「桜ぁ……」

 早乙女パパが驚いた様子で霧之助を見ている。どうやら、呼び捨てにしたのが問題だったらしいと霧之助は思い当たるのだった。

「あ、えっと、早乙女さん」

「もう、何他人行儀になってるの……ほら、座りなさいよ」

 腕をつかまれ、そのまま強引に隣に座らされてしまった。

「紹介するわ、この二人が私のパパとママよ」

「……パパです」

「ママです」

「ど、どうも……」

 何故、紹介されたのかさっぱり理解できなかった。部屋を見渡してみると西洋の鎧が一式置かれており、その手には剣が握られていた。

「……」

 きっと、下手なことをいったらあれで切りつけられるんだろうなぁと考え込む霧之助。

「霧之助、顔色が悪いようだけど……どうかしたのかしら」

「え……あ、いや、大丈夫、大丈夫だよ」

 本当に心配してくれているようだが、今は心配して欲しくなかった。目の前の早乙女パパが若干、眉を面白くないといった風にまげていたからだ。

「あなた、いけませんよ」

「ぅ、ああ、わかってる……桜が珍しく友達を連れてくるといったときはてっきり女の子かと思ったが男の子とは思わなかった」

「そうですねぇ、生まれて初めてのことなんですから」

 ほのぼのといった調子でそう告げる。

「ちょ、ちょっとママ……」

「ほほほ、あら、まずかったかしら……けど、いい機会だからお部屋に通してあげなさいな」

「ま、ママっ……」

 そういったのは桜ではなく早乙女パパだったりする。

「私達がいるとお二人の邪魔をしてしまうわ。馬に蹴られて死にたくはないもの、退散しましょう……霧之助さん、といったかしら……」

「はい、間山霧之助です」

「ゆっくりしていらして……お夕飯も一緒にどうかしら」

「ええと……」

「うん、多分食べていくと思うから田中さんもう一人分作っておいてね」

「かしこまりました」

「それじゃあ、私達は外出するわ」

 そういって早乙女ママは早乙女パパを連れて行ってしまった。

「……」

 なんとなく、どっちが上か見せ付けられたような出来事だなぁ、霧之助はそう思うのだった。



―――――――



 桜の部屋へと入る前にちょっとだけ霧之助は足を止めるのであった。

「どうかしたの」

 足を止めた霧之助を振り返り、桜は首をかしげるのだった。

「えっと、本当に入っていいのかな……」

「はぁ……それってどういう意味よ。私が入っていいっていっているんだから……さ、ほら、行くわよ」

 結局、霧之助に目の前の扉を開けるか、立ち去るかという選択肢は与えられず、選ばれた選択肢は『桜に連行される』というものであった。いつもの様子を縮図にしたものといっていいかもしれない。

 扉が開け放たれ、霧之助はとりあえずため息をついた。

「うわぁ、広いけど……」

 あまり何かがあるという部屋ではない。派手ではないカーテンに茶色の掛け布団に白い枕が置かれているベッド、余分なものが置かれていない机、背丈の低いタンスの上には写真立てが一つだけ伏せておかれていた。

「じゃ、ちょっと紅茶を持ってくるから座って待ってなさいよ」

「う、うん」

 まさか、部屋の中にまで呼ばれるとは思っていなかったので緊張してしまう。一切の邪魔なものを排除してしまうそんな空気を持ったこの部屋では何処に座っても場違いな気がして結局霧之助はタンス付近に立ち尽くすのであった。

「う~ん……」

 そして、霧之助の目にとまったのはやはり伏せられた写真立てであった。偶然倒れているものなのか……いや、それはありえないだろう。完ぺき主義者の桜が倒れてしまっているものを戻さないほうがおかしいのである。つまりは、この写真立ての中に霧之助に見せたくないものが入っているということである。

 そんな推理を彼はするのであった。

「ちょっとだけならいいかなぁ」

 緑のフレームを掴んだまではよかったが微妙な顔になる。

「やっぱり、やめたほうが良いかなぁ、怒られるだろうし、趣味悪いもんなぁ」

 優柔不断な考えでぶつくさ言っていると扉が開く。霧之助は自分の足に足を引っ掛けて転んでしまうのだった。

「……何してるのよ」

 そんな霧之助を見て桜は呆れたようにため息をつく。とりあえずお盆をタンスの上においた後に……いまだ立ち上がっていなかった霧之助へと手を差し伸べた。

「ほら、立ちなさいよ」

「え……あ、うん」

 なにかを見つけたらしい。その何かを持ったまま霧之助は桜の手に自分の手を重ね、立ち上がる。

「どうかしたの……」

「あ、これ、落ちていたんだけど……懐かしいね」

「それはっ……」

 桜の手に渡されていたもの、体育祭のものであった。その写真には真剣そのものといった二人の表情があらわになっており、桜は凛とした表情で霧之助もいつもよりましな顔つきになっていた。

「けど、意外だったよ。桜が僕と写ってる写真を頼んでいたなんて」

「そ、それは……わ、私達は友達よ、だから買ったの……何か悪いところでもあるのかしら」

 ジト目でにらまれてしまったために首をすくめる。

「いいや、ありません」

「そうよね、あるわけないわよね……」

 机の引き出しから取り出した写真立てへと入れて、机の上に飾る。

「あ、飾るんだ」

「飾る、見る以外に写真にどんな使い方があるのよ」

「丑三つ時に藁人形に……」

「使って欲しいのかしら」

「え、あ、いや……やめてほしいかな」

「そうでしょう、私も傷をつけるのは嫌だから……ほら、座りなさいよ」

 そう急かされるも座る場所など何処にもない。

「えっと、どこに座ればいいんでしょうか」

「そこにベッドがあるじゃない、ついでにサイドテーブルにこれを置いておいてね」

 手渡されたお盆を持って頷く。再び桜は部屋から出て行ってしまった。今度は呆然と立ち尽くすことなく、指示されたとおりにベッドの近くに置いてあったサイドテーブルの上にお盆をおいてベッドに腰掛ける。

「……」

 何もないといったら失礼だが本当に余計なものがない部屋だ。以前、テレビのような何かがあったのかはわからないが絨毯の上には四つの穴があるがそれも痕跡だけ。今は殆ど何もないようだ。

 今度は霧之助が何かに興味を抱く前に桜が帰ってくる。その手にはモンブランにフォークが添えられているものが二つ、握られていた。



―――――――



 すでに蒼空が夜空へと変貌してしまった時間。門の前まで桜はやってきていた。

「もう、帰るんだ……」

「そりゃまぁ、ちょっと遅くなりすぎたからね……じゃあ、また明日学校で」

「また今度、来なさいよっ」

 軽く右手を上げて終わらせることなく、いつまでも手を振って去っていく。途中、後ろ向きのままで歩いていたために電柱にぶつかって痛がっている。ついつい、その光景を見ていると笑ってしまった。

「……また、今度でいいかな」

 そういって桜は自分の家へと戻るのだった……。












――――――――



「あれ……携帯電話忘れているじゃない」

 ベッドの上に無造作におかれている自分のものではない携帯電話を拾い上げる。

「……」

 ちょっとした好奇心を覚えて開く。悪いと思いつつ、メール受信欄を見て……驚いた。どれもこれも女の子のものばかり。

「……えいっ」

 それらを全て消去。

 それと同時に部屋の扉が開いて桜は肩をびくっとさせる。

「お嬢様、霧之助さんがお見えになりましたよ…なんでも、携帯電話を忘れたとか」

「あ、こ、これね……わかった、私が行くわ」

 そういって階段を下りる。ほっとしたような表情をした霧之助が待っていた。

「よかったぁ、思い出して……」

「ほ、ほら、さっさと帰りなさいよ」

「わかったって……じゃ、また明日」

「ちゃんと、朝迎えに行くからねっ」

「うん、待ってるよ」

 そういって今度こそ霧之助は姿を消したのだった。

「……ふん、彼女がいるのに女の子とメールするのが悪いんだからね」

 それだけ残して桜は自室へと戻る。そして、写真立てをぼーっと眺めるのであった。


登場時期が短い割には結構人気があると思われる早乙女桜エンド。読者の意表をつけるような終わりを目指していますがそれならもう、めちゃくちゃやりたいんですけど意表のつきすぎは問題ありすぎですね。このメンバーで魔法学園物をやったらどうなるのかそれなりに興味がありますが……どうでしょうねぇ、疲れますかね……疲れますね。というわけで、残りは一二三、里香、夏帆だったかな……三人ぐらいに、いや、まだ、三人いますね。先は長いようです。まぁ、里香のエンディングは決まっていますとも。そういうわけで、次回は多分里香エンド。作者が肩透かしを食らった人物でもあります。一月三十日土曜、九時三十七分雨月。

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