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◇◇第二百七十七話◇◇◆:名古ちゃんエンド

時羽エンド



 基本的に卒業式が行われる場所は体育館である。そして、大体の体育館には二回が存在しており、間山霧之助が通っていた高校にもそれがきちんとある。もちろん、そんなに人が行き来できるような広さはないし、以前二階が堕ちたということもあって定員は百人と決められてもいた。

 名古時羽は二階から今日卒業する自分の先輩を探している最中だった。少し頭がさびしくなってきた校長が祝辞を述べている間に探すことにする。暇だが、自分でここまでやってきたのだ。友達とは来ていないし、知り合いももちろんいない。

「っと……いたいた」

 見えるのは後姿のみだったがすぐにわかった。頭がこくり、こくりと動いているところを見ると船をこいで夢の世界に向かっている途中らしい。

「で、皆様は……」

 唐突に声を大きくしたところでぴくっと身体が動いた。しばしの間動きが止まり、ぼーっとなったところでまたも、こくりこくり……

 こういった話ならばきちんと聞きそうな感じなのだが、どうやら先日はちゃんと寝ていないらしい。電話をして明日卒業式を見に行くといった時間が十時半ぐらいだから……その後に充分寝れたはずである。

 少し冷えている感じのする体育館では寝れそうにないかもしれないが……それでも、霧之助は最後までこっくりこっくりと船をこぎ続けたのであった。



―――――――――



「眠いね」

「お疲れ様です、先輩」

 卒業式が終わり、当然のように校門へと向かって歩き出す二人組、霧之助と時羽であった。

 そんな二人の前に男子のクラスメートが現れる。

「おいおい、間山ぁ、その可愛い子ちゃんは何処の誰だい」

「ん……」

 眠たそうに眉をこすり、後輩とだけ告げる。

「卒業式に隠しだまを用意しやがったな……ちくしょー羨ましいぜバッキャロー」

 そういって何処かに走り去ってしまう。

「何だ……どうしたんだろ」

 不思議そうに後ろを振り返りながらも、時羽は頬を朱に染めていた。

「か、可愛いだって……」

「何か言ったかな」

「先輩、聞きましたか……あたしの事可愛いって言ってましたよっ」

「何をいまさら……」

 まるで興味がなさそうにまた校門へと歩き出した。

「ちょ、ちょっと先輩っ」

「前から可愛かったでしょ」

「え……」

「あ~、眠い……ほら、せっかく来てくれているんだから何処か行こうか……って、どうかしたの」

「え、あ、いやいや、あたしは元気ですよ」

「まぁ、いいけどさ」

 何故、固まっているのかさっぱりだったがとりあえず歩くことにする霧之助であった。



――――――――



 とりあえずやってきたのはバッティングセンターであった。

「で、何でバッティングセンターに来たのかな……」

「えっと、男の子はバッティングセンターが好きだと聞きましたから」

「あのねぇ、名古ちゃん、それは一部の人の嗜好であって僕の嗜好とは……」

 ちょっと違うよといおうとしたが、時羽は聞く耳持たず、ヘルメットとバットを装備してバッターボックスへと立つのだった。

 液晶に写される投手をきりりとにらみ、時羽は高らかに言うのだった。

「さぁ、きてくださいっ」

「…………はぁ」

 こうなってしまってはもうやめるまで待つしかない。元から一つのことに情熱を注ぎすぎる節があると考えてはいたのだが……まさか、バッティングセンターにつれてこられるとは思わなかった。



カキーン、カキーン、カッキーン……テレテレッテレ~



「……すげぇ、ホームランまで打っちゃったよ」

 あの細い身体の何処に力が宿っているのかはわからなかったが情けなく出てくる姿はなかった。まるで、獲物を狙う猛禽類のそれである。

「もうちょっとインドアな子かと思ったけど違うのかな……」

 よくはわからないが、生き生きとしている。そして、更にもう一回のホームラン音を響かせるのだった。



――――――――――



「すげぇ、またストライク……」

 パコーンという音をたてながら時羽は戻ってくるのであった。

「どうですか、先輩っ」

「いや、普通に驚くしかないね」

 霧之助のスコアは平凡というよりそれ以下であり、Gが結構続いている。時羽のスコアはスペアとストライクがずっと続いているのだ。

「う~ん、これは先輩として格好悪いところは見せられないな」

「先輩、がんばってください」

 玉を持ち、すべるようにしてボールを運んでいき……



ガタン



「ありゃ、またガーターか」

「先輩、ガーター好きですねぇ」

「まぁ、嗜好のほうもね」

「え……本当ですかっ」

「嘘嘘、冗談だよ」



―――――――――



「名古ちゃん、君はいつから超人になったんだい」

「何のことですか」

 ゲームセンターにあったエアホッケーで対戦しながら霧之助はそう尋ねるのであった。周りの客はギャラリーになることもなく素通りしていく。それはそうだ、一方的に名古時羽が勝利を収めているために見ていても特に面白くないからである。これががんシューティングだったらきっと、ギャラリーが積もっていただろう。

「別に、あたしは超人でも何でもありませんよ。ちょっとしたコレクターですっ」

 そういって強烈な一撃が叩き込まれる。壁に反射し、霧之助のガードをかいくぐって穴の中へと滑り落ちた。

「……や、やるね、だけど次はこうも……いかないからねっ」

 目つきが変わり、真剣そのもの。

「いいですよ、先輩。受けてたちますから」

 しかし、目つきが変わろうと結果は変わらなかった。その後、一度だけ時羽の陣地へと押し入った霧之助であったが結果を見れば惨敗だったのである。



―――――――――



 食玩がおいてあるスーパーは大体何処にでもある。子どもをひきつけるものだろう……成人を迎えていないもの達が子どもに入るのならば、この二人も子どもである。

「うん、やっぱり名古ちゃんにはその姿がぴったりだよ」

「なにぼーっとしているんですか、先輩。ちゃんと見ていてくださいよ……いいですか、今からこの、一番を当てて見せますからね」

 やっぱり、こっちのほうが似合ってるな。そう思う霧之助の前で子ども達を押し退けて神妙にしている。そして、押し退けられた子ども達はそんな時羽をじっと見ているのである。

 今回、彼女は自分のためではなく、近くにいる男の子のためにしていることなのだ。何度も何度も、様々な箱を手に持ち、重さを量っているかのように見える。

「あ~そうだね、中身がわからないものもあるからね……ちょっと待ってて」

 偶然にそんな状況になって彼女は今、真剣なのである。先ほどまでの身体を動かす時よりもとても真摯で、惹かせるそんな表情をしているのだ。

「よし、これ」

「……本当かな」

「大丈夫大丈夫、あたしを信用して……さ、いきますよ、先輩」

「え……僕も」

 そのまま、三人でレジへと向かう。

「すいません、これください」

「はい」

 アルバイトの子へと食玩を渡す。子ども達がぞろぞろとついてきていることに驚いて何故か、霧之助を見ていた。

 レジを子どもの一群が抜け、円陣を組むかのような陣形となった。前置きも何もなく、

「あ、出た」

 狙っていたものが出たようで、子ども達は狂喜乱舞していた……もちろん、その中に時羽の姿があったことは言うまでもない。

「……」

 相変わらずだなぁ、そんな考えが霧之助の頭の中で形成されるのであった。



――――――――



 結局、他の子ども達にもせがまれて何とかやってのけた時羽だったが、疲れたのかそのまま近くの公園へと向かいベンチへと座るのだった。

「あ~やっぱり疲れますね」

「え、そうなの」

「ええ、もちろんです。精神ポイント的なものがごっそり持っていかれますよ」

「大変なんだね」

 そういって霧之助も同じようにベンチへと座る。まだ、眠気は完全に取れていないどころか運動までしたために拍車がかかっている。

「……」

「……」

 沈黙が続き、先に音をたてたのは霧之助であった。

「え……」

 霧之助が名古時羽のひざの上で眠ってしまったことに驚いたのは彼女自身であっただろう。



―――――――



 沈み行く夕焼けを一人で見ながら名古時羽は自分の先輩の頭に左手を置いていた。日常の延長線にある非日常。日常では起こらないかもしれないけど、可能性はなくはない、非日常。つまりは、転校してしまった上級生とこうやって話すことはもうないのかもしれないと思っていたことが、自分が動くことによって手に入れたものだということ。

「………」

「うぁ……」

 膝枕の上で何故だか悶えている。顔色が悪いところを見るとどうやらうなされているらしい。人のひざの上に倒れたと思えば今度はうなされる……好き勝手もいいところだ。

「……」

 ぼーっとした様子で身体を起き上がらせる。じーっと時羽のほうを見ていたが、虚ろな瞳に色がともされていった。

「あ、おはよう」

「……ぼけてますか、先輩」

 しばしの間小首をかしげ、数秒後に頷いた。

「うん、ちょっと寝ぼけているかも……っと、さて、晩御飯の準備でもしましょうかねぇ……どうする、僕の家で食べていく……よね」

 何故か不安そうな面持ち。どうかしたのだろうか……

「ええ、もちろん食べていきます」

「そっか、そりゃよかったよ……じゃ、行こうか」

 何故だか、手を差し伸べられた。その手につかまり、立ち上がる。

「先輩が手を差し伸べてくれるなんて珍しいですね」

「そうかな……まぁ、なんというかね、あまり良い夢見なかったから」

 そういって夕焼けに照らされている顔を見る。不思議と、その表情は朱に染まっていた。首辺りまで真っ赤ということはよからぬ夢を見たのだろう。

「先輩っ」

「ん……何かな」

「好きですっ」

「…………え、何かな……ごめん、聞き取れなかったよ」

 まぁ、聞こえなかったのなら良いだろう。この後、晩御飯を食べているときに爆弾発言してやろう、そう、名古時羽は心に決めるのであった。



 その後、この爆弾発言によって名古時羽は霧之助が口に含んだお茶を真正面から浴びることになるとは夢にも思わなかったりする。


当初の予定では人の借金を背負って各地を放浪していた霧之助と時羽が偶然出会うというそんな話でした。しかしまぁ、それを完全に忘れて書いてしまい、結局は卒業式の話に。忘れっぽいのもたまに傷ですね。今後は気をつけておかないと……今、やるべきことは同時進行で進めている小説のほうです。いや、すでに投稿されていますよ……満月の騎士についてです。絶対に、対処しないとどうしようもないわけですが困ったことにアイディアがさっぱり浮かばないのですよ。ともかく、今はこちらを最優先で考えたほうがよさそうですし、途中で穴を開けると相当大変そうなので……さて、次回は誰のエンディングを書くべきなんでしょうか……あ、それとここに書き記しておきますが霧之助は最終的に保健室の先生になっています。教師とはまた違った職業なんですけどね。正式には養護教諭ってやつです。一つ、雨月が勉強するためにも含めて書いたお話がありますので(面白いとはまた別の話になってしまいます)いつか投稿しようかな、そう思っています。では、感想などありましたらよろしくお願いいたします。ああ、そういえばもう一月も終わってしまいますね。恵方巻きの準備をしないと……一月二十九日金曜十一時二十四分雨月。

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