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◇◇第二百七十六話◇◇◆:バのつく日の雪エンド

雪エンド



 始まりは唐突、そうだった。

 二月十四日とは何か……そう訊ねられたら世の男性諸君はきっといい顔と無表情、そしてはき捨てるかのように(ちなみに、最後が一番多いはず)こう答える。



バレンタインデー



 日本では女性が男性にチョコレートを送るのが通例となっている。まぁ、ここで薀蓄を垂れても仕方がないし、時間の無駄なので割愛する。

 間山霧之助の場合は忘れていたといっていいだろう。放課後、いつものように教室をでていつものように下足箱の扉を開けると



 上から下まで手紙が入っていたのである。丁寧に、びっちりと。ピンクの便箋が目に飛び込んできたのだ。しかも、気のせいかいい匂いまでしてくる。

「……」

 ともかく、それが何なのかをちゃんと確認する前に靴を取り出すことにする。もちろん、便箋をそこらに捨てることはせずにかばんの中に忍び込ませる。周りに男子生徒がいないかどうかを確認するのはもちろん……だったが、うらやましそう表情をしたゾンビかグールのどちらかが彼をにらみつけているのも事実だった。

 ピンクの便箋のふたを取ると使い古されたスニーカーと一緒に赤色の包装紙でラッピングされている長方形の何かが入っていた。ついでに、ちょっとした芳香剤も入っていてそれがいい匂いの元だろうというのは容易い推理だ。

 それを手にとって迷わずかばんに入れる。ゾンビたちは襲ってくることはしなかったがどうやら悪態をついたり親指を地面に向けておろしたりしている。この行為を霧之助は見ることなく、彼の意識は専ら今日の晩御飯のおかずについてだったりするためにあげた子が可哀想になるかもしれない。

 そして、下足箱をびっくり箱へと変貌させた犯人はゾンビやグールと一緒に彼を見ていたのである。



「……まぁ、予想はしていたけど読んでくれませんね」



 もし、ここで手紙を呼んでくれたのならば責任感で雪は霧之助の前にすぐにでも姿を現すことができた……そう、宮川雪は本日一世一代の大勝負をするために電車に乗ってはるばるここまでやってきたのである。学校が本日インフルエンザのために学級閉鎖を起こしたのがラッキーだった。本当は夜に無理やり押しかけてそのまま泊まり、いろいろ騒いでその後は……という強引且つ、彼女と霧之助の初対面を思い出させるものだったのだがまぁ、霧之助とであって少しは丸くなったといって良いかもしれない。ともかく、理性が勝ったと言っておいていいだろう。

 別学校の制服に双眼鏡を手に持っているところを誰かに見られなくて本当によかったのは間違いない。最近は部外者立ち入り禁止の学校が大半なのだから。



――――――――



「て~って、てれてって~」

 なにやらご機嫌そうに鼻歌を歌いながらスーパーからアパートへと続く道を霧之助は歩いている。そして、その後ろを一人の少女が尾行していた。

 もちろん、雪である。手には双眼鏡、そして背中には登山家が背負っていそうなリュックが背負われていた。

「ん……」

 何かに気が付いたのか後ろを向かれる……が、雪は素早く物陰に隠れる。

「……気のせいか」

 危なかった、そう思うことも何もない。尾行には慣れている。もちろん、霧之助を尾行してここまでこの能力が昇華されたわけではない。自分の姉を守るためである。自分の姉に変な男が付かないように中学時代から後ろを付いてまわったものである。憑いてまわった、といって良いだろう。

 あの時も、姉に変な虫がついたと思ったのだが……まさか、自分がこうやって追いかける羽目になるとは思わなかったのである。

「……」

 男子はいまだに嫌いだが、この人ならば……そう思えた。鈍い鈍いとは思うが、そのおかげで彼女がいないのがほっとする。

「……えいっ」

 きづかれないように、石を投げてみた。運動はあまりやってはいない。だが、結構運動神経はいいほうで今回も見事に後頭部へ投石を成功させた。

「あいたっ……」

 確認はしていないがきっと後頭部を擦っている途中であろう。鈍いのが悪いのである。



――――――――



 霧之助がアパートへと帰り着いたのを確認するとようやく、雪は霧之助に姿をさらすのだった。

「間山さん」

「あ、雪ちゃん」

 後ろから抱き着いてみようと考えたのだがやめる。たまに、そんな衝動に駆られることがあるのだが嫌われてしまったらどうしようという考えが先に来てしまうために実行できないのだ。

「えっと、その大きな荷物は何……登山でもするのかな」

 やはり、背中のリュックサックが気になるのか指を向けられ訊ねられる。夕焼けが目にしみるほど綺麗だ。

「いえ、実は間山さんの家に泊まらせてもらおうとおもってきたんです」

「え……それならそうと早く言ってくれればよかったのに」

「お邪魔……ですか……」

 この言葉を言えば、確実に慌ててそうじゃないといってくれるのは予想できる範疇……だが、もし、もしもの確率で霧之助に彼女がいたとしたらこの申し出は断られるに違いない。

 ちょっと優柔不断なところがあるが、優先順位は間違わないはずだ。

「まぁ、泊まりたいなら泊まって大丈夫だけど……」

「よかった……」

 もちろん、このよかったはいなかったことに関してのよかったではなく、純粋に予想していた答えが返ってきたためのよかっただ。

 比較的整理整頓された部屋に通されたとき、今日がいつの日だったかを訊ねることにした。

「えっと……ああ、そういえばバレンタインデー」

「霧之助さんはチョコをもらいましたか」

 そう訊ねると頷かれる。そりゃそうだろう、一つは確実にもらっているはずだ。送ったのは自分だから知っていて聞いている少し卑怯な質問。

「ああ、もらったよ。下駄箱の中のものはまだ開けてないんだけどね」

 下駄箱の中のもの、ということは他にまだもらったということなのだろう。多分、というか、霧之助にチョコを渡した一人が誰かは大体想像できた。

「里香からはもらってますよね」

「まぁ、一応」

 頭の中で元気そうな友人が片手をあげて雪に笑いかけていた。まさか、最初に霧之助と会ってもらったときにこういった関係になるとは思わなかった。

 だからだろうか……霧之助の次の発言を聞き逃してしまったのだ。


「雪ちゃんはくれないの」



「え……」

「えっと、雪ちゃんはくれないのかな~……って思ってさ。二月十四日に来たってことはもしかしたら……あ、本当にもしかしたらだけどね、くれるかもしれないなって考えて……」

「……」

 さて、どうやって答えようか。少し乾いた唇にそっと舌を触れさせる。素直にもう渡したと告げたいのだが……何故だかそんなに普通は嫌だと告げる自分がいるのである。昔からそうだ、いつも肝心なところで思い悩み、深く悩んだあまりいい結果を残さない。そして、選択した道を最善だったとごまかして二度目の対処法は考えないのである。だから、雪自身に友達は少ない。初対面で相手にあまり良い印象を与えることなく、逆にそれとは違う結果を生む。もちろん、友達が居ないというわけではないし、そっちの確率が多いというだけのことだ。しかし、初対面が悪かった後に友人となったという例もある。それは霧之助と屋上で出会った時もそうだった。

 何度か夢見たことがある、それは絶対に叶わないと知っていながらもあの時に戻ってやり直したいと願ったことがあるのだ。男友達が出来るなんて想像もしなかったし、正直言っていらなかったと思っている。ただ、霧之助という友人は自分にとって必要な、変化に必要なものだといえた。

「もしも~し……」

「え……あ……」

「どうかしたのかな……さっきからぼーっとしているようだけど」

 いつの間にか気がつけば自分はテーブルについて目の前にお茶が出されていた。気がつかないうちに出されていたらしい。

「何考えていたの」

「えっと……最初、出会ったときの事です」

「あ、ああ……あの時ね」

 別にごまかすことなんてしなくていい。

「あの時は本当、どうなるかって思っていたよ」

「そうですよね、すみません」

「謝らないで、今となっては最高の出会いだったから」

 そういって笑う。その表情に嘘の臭いはしなかった。だから、訊ねた。

「ええと、何故、そう思うのですか」

「それは……だって、今こうやって二人で話しているんだからさ。ああ、懐かしかった、あんなことがあった、こんなことがあった、出会いはそこで終わりじゃないよ。それは過去になって忘れない、とても大切な……思い出になっていくんだから。忘れたい、消したい、変えたいこともあるかもしれないけど……もし、それがなかったら今頃僕らは一緒にこうして話していないのかも知れない……そうは思えないかな……」

 同意を求めているというには少し乏しく、また、自分に言い聞かせているとはまた違う雰囲気。ただそれが正しい、自分が信じているものだと信じて疑わないものの瞳をしている。

「で、でも、今よりいい関係になっていたかも……しれないんですよ」

 お茶を口に含むこともなく、そういう。まるで言い訳をしている子どものように見えるだろう。

「ま、そうかもしれないけどさ……それはあくまで確率だよね。成功する自分をイメージして、挑む。必要なことだし、前向きに考えることはとても大切なこと……だけどね」

 肯定した後、顔つきが変わる。

「……それは時と場合によっては本当に小さな見落としを生むかもしれないんだよ。この程度なら大丈夫だろう、問題ない。成功すればそれは本当に最高の出来事になる。それでも、失敗する人はしちゃうんだ。だから、対策するし、覚悟もいる……気休めって言ったらなんだか言葉が悪くなっちゃうかもしれないけどそれは必要なことだよ。自分は成功するって『イメージ』それと同時に自分は失敗するけどうまく対応できるって『イメージ』が大切なんだよ。そうすれば失敗したとしても一回じゃ取り乱さないで僕は大丈夫……だから僕はあの出会いが雪ちゃんと僕をつないでくれたとても大切な出来事だって思ってる……あ、ごめん、なんだか僕一人で喋っちゃって……あれ、雪ちゃんどうかしたの」

「……」

 訊ねられるが、答えられない。なんだか、これまで悩んでいたのが馬鹿らしくなったのだ。霧之助は霧之助であの出会いが最高のもので何事にも変えられないものだと考えていてくれたのが嬉しくもあった。

 それならば、ここで、そう、今ここで言えるかもしれない。

 いや、言うことができる。

 いろいろと考えて何かをするのは大好きだ。

 それに今日はバレンタインデー。どこかの神様か何かが力を貸してくれるかもしれない。

「あの、間山さん……」

「あ、ごめん……その前に前々から言っておきたいことがあったんだ」

 話の腰を折られたが、大丈夫だ。今の自分は冷静で居ることができる。

「なんだかさ、その苗字にさん付けってかなり他人行儀だなぁって思っちゃって」

「あ、ああ……呼び方ですか」

「うん、それで変えて欲しいかな、そう思ってさ」

「……いいですよ。間山君がいいですか」

「いや、もっと親しいんじゃないかなって」

 それならば……

「霧之助君でどうでしょうか」

「うん、それがいいや。僕も雪ちゃんって呼んでるし」

「そうですね、今後……そうさせてもらいます」

 さてと、そう一応前置きをおかせてもらった。

「誰かに手紙を書く……それこそ、お正月に年賀状を書く程度しかありませんでした」

「え……」

 不思議そうな顔をされる。それはそうだ、これでわかればこれまでの苦労は無駄であり、霧之助は鈍いというわけではなくなる。

 手紙を下足箱付近で見てくれなくてよかった、今はそう思えた。義務感ではなく、自分の意思で伝えることが出来る。

「しかし、久しぶりに書いてみるとこれが思うように筆が進みすぎてしまって、何枚も、何枚も……それこそ、寝ていなければずっと書き続けていたのではないか、そう思えます」

「そうなんだ……」

 きっと、今ここでどういうことかわかりますか、そんな問いをかけても首をかしげて誤魔化すぐらいだろう。まだわかっては居ないが、話を終わらせないために曖昧にしているのだろう、この少年は。

「後ろを振り返って何度も何度も、後悔をしてきました。だけど、わたしにはもう後悔はありません」

「……何のかな」

 わからないことが嫌になったのだろう。訊ねられた。

「しっかりと聞いていてください」

「うん、それは勿論だよ」

 笑うその表情がこれからきっと驚愕へと変わるだろう。宮川雪はどんな結果になってもそれは揺るがない未来だと確信した。



「わたしは……霧之助君が大好きです」



 雪は思った。ああ、わたしには未来を見通す力がちょっとでもあるのだなぁ、と。目の前の親友が恋人になるという奇跡も起こったのだから、今日ほど嬉しい日は近年まれに見る出来事だ。


どうも、雨月です。今回のエンディングはどうだったでしょうかぁ、と一応訊ねておきます。ええ、いつか埋もれていくかもしれませんがそれでも歩いた足跡は残しておきたいので、投稿しています。悪いこと、悪いことを考えていると書く小説も酷いものへと変貌します。ええ、そりゃもう酷いものですよ?子ども泣きますから。裸で霧之助が商店街を失踪し、警察とリアル鬼ごっこを繰り広げ、雪を監禁。ケチャまみれにするぞと脅して……なんだろうか、これは……そういわざるおえないものへと変貌します。これぞ奇跡のBADENDですよ。さて、今回は雪が主役となりましたねぇ。そろそろ、切っちゃう頃合ですかね。ずるいとか卑怯とか言うのは構いませんが一度積み上げた積み木を壊してまた一から積み上げるなんて雨月の精神力が持ちません。そういうわけで、新しいやつをやったとしても続いてしまうのはご勘弁を。越えたい山は一瞬でも良いので超えたいものなので、そうさせていただきます。さて、次回は誰のエンディングにしましょうか……残り枠は後三つってところですかね。一月二十八日木曜、二十二時五十分雨月。

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