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◇◇第二百七十三話◇◇◆:平日の由美子エンド

由美子エンディング



 テーブルに突っ伏して、一人の人間がテレビから聞こえてくる知り合いの声を聞いていた。

『本当に勿体無いなぁ、由美子ちゃんモデルやめちゃうの?』

『はい!私、もう満足しましたから!』

 元気そうに答える知り合いの声を右から左に聞き流す。

「ふぁあ……眠い」

「ちょっと!ちゃんと見てよ!!せっかく録画してたのに!」

 テレビに映っているはずの少女が隣で叫んでいる。それまで映像を適当に見ていた一人の人間、間山霧之助は申し訳なさそうに頭をかいていた。

「ごめんごめん、ついつい心の声が出ちゃってさ……でも、これ本当に見てて眠いんだよ……」

「もぅ!ちょっとはちゃんと見てくれてもいいんじゃない?」

 場所はとあるアパート。由美子と霧之助、そして悠子で住んでいる……だが、悠子は海外の大学へと進学してしまったためにその姿はここには無い。部屋は二週間に一度霧之助の手によって掃除がなされているので清潔だが、由美子の部屋は自身が掃除を行っているためにあまり綺麗ではない。

「……で、来週に卒業式が迫ったんだったよね?」

 出来るだけこの話題を逸らしたい霧之助は別の話を振ることにした。もちろん、彼はこの間にも二手、三手先のことを考えているのである。由美子にしつこく食い下がられるとご機嫌を損ねて更に後で後悔することをすでに知っているための対応なのだ。まぁ、二三日前に怒らせてしまったために夜通し、布団の中に入ってまでぶつぶつ言っていたのが答えただけなのだが……

「ん?まぁ、卒業だけどね……」

「それで、進路はどうしたんだっけ?僕聞いてないからわからないや」

 更にここで別の話題を振ることによって当初の話を徹底的に消し去る作戦である。



――――――――



「全砲門開放!」

「全砲門開放っ!!」

「敵、沈黙を続けるまで……ってえっ!!」

「一斉射撃開始!各機、目標が沈黙した後も攻撃の手を緩めるなっ!!」



――――――――



 そんな感じである。

「えっと進路はね……言わなかったっけ?私、先生目指すことにしたんだ」

「へぇ、先生って教師のこと?何で?」

 話を逸らしつつ、いまだに続いているテレビのリモコンを手探りで探し始める。消してしまえばとりあえずこの場をしのぐことが出来るはずだと考えているのである。いわば、止めを刺そうとしているのだ。



――――――――



「目標、沈黙しました!」

「よし、各機にはそのまま攻撃を続行!我々はこれより戦線を離脱するぞ!」

「了解っ!!」

「きっちり十秒後に弾幕を張れ!



―――――――――


 そんな感じである。

「いや、先生だけど教師じゃないよ……って、お兄ちゃんなんでテレビを消そうとしてるの?」

 もう少しでその手に掴むことができたリモコンだったが、それはあっさりと由美子に取り上げられてしまう。

「まったく、話まで逸らそうとして……そんなに私と話すのが嫌?」

「え?あ、あははははは……」

 まさか、気がついていたとは思わなかった……そう霧之助は思った。

「それでさぁ、ちょっと前々から聞きたかったことがあるんだけど?」

 少し非難がましい目を霧之助へと向ける。こういうときはあまりいいことがおきなかったりするのだ。何を言われるのだろうか……



―――――――――



「か、艦長!目標、健在です!」

「な、何!?あれを喰らってか?どれほど装甲が堅いんだ?化け物め!」

「こちらのレーダーに干渉したようです。更に一号機、二号機ともに通信が途絶えました!」

「くっ、このままでは……」

「熱源反応あり!敵攻撃来ますっ!!」

「止むおえん!防御装置を作動させ、全員対ショック体勢をとっておけ!」

「二秒後、来ます!」



―――――――――



 一度、深呼吸をして由美子は口を開いた。

「……問題です」

「え?」

「だから、問題です。答えてください。間違えたら……もう、お兄ちゃんなんていいません」

 拗ねたように口を尖らせて何故か敬語。いつもと違う由美子に霧之助は戸惑うのだった。

「え?ええっ!?」

 いや、そんなことよりもお兄ちゃんと呼んでくれないの?という方向で動揺していたのだった。


――――――――――



「……馬鹿な!?ショックが一切なかっただと?」

「いえ、しかし……被害はあります。着弾予想地点が損傷を受けています!」

「………くそ、敵の特殊弾か……」

「か、艦長!そんなことよりもあのミサイルの中に人の熱源が感知されました!敵の部隊がこの艦に侵入してきています!」

「何!?そんなことが……予備パイロットや艦内の兵士を迎撃に当たらせろ!」

「了解しました!各員、艦内に侵入者が……」



――――――――――



 上から下まで蜂の巣をつついた状態である。

「……ちょっと、お兄ちゃん?大丈夫?」

「え?あ、大丈夫。ちょっと侵入者が……」

「はぁ?」

「いや、なんでもないよ?大丈夫。お兄ちゃんは大丈夫です」

 本当に大丈夫なのだろうか?そう訝しげに由美子は自分の兄である霧之助を見るのだった。

「……大丈夫なら問題出すけど……本当に大丈夫?」

「大丈夫だって!で、何?次のうち、一番頷きやすい職業は何?一、製造業。二、運送業。三、販売業……さぁ、どれだ?」

「えっとねぇ……じゃなくて!私が問題出すほう!」



――――――――――



「艦長、やはりミサイル攻撃はさっぱり効いていません」

「くぅ、苦し紛れにうってみたが駄目だったか……」



――――――――――



「じゃ、いくわよ?」

「何処に……あ痛っ!!ぶたなくてもいいじゃん……」

「じゃあ、真面目にやってよっ!!……もう、お姉ちゃんが相手だったら茶化さないのに……」

「何か言った?」

「何も言ってませんっ!!……こほん、じゃあ、問題です……お、お兄ちゃんは……おねえちゃんと暮らしていた時期がありましたね?」

「うん、あったね」

「それで、私と一緒に住んでいた時期もありました……」

「今もそうだね?」

「それで……どっちが楽しかったですか?」



――――――――



「おかしいな?」

「ええ、なにやら相手から通信が来ていますが言語が異なるためか我々は理解が出来ません」

「……暗号通信か?解読には時間がかかりそうだな?」

「私ではさっぱりです」

「私もだ」



――――――――


 意図は不明であるが霧之助はとりあえず考えることにした。あれ?これって問題でもなんでもなくないか?そう考えたがいずれ問題が出てくるのだろうと思ってそっちのほうは考えないようにしておく。

「正直に答えてよ?嘘とか……嘘とかつかないでね?」

 心配そうに霧之助を見ている由美子。

「……嘘つかないでって……そうだなぁ、由美子と住んでると結局僕が由美子の部屋とか掃除しないといけないから大変だし。由美子、家事全般任せられないからな……大変だね」

「うぐっ……じゃ、じゃあ、やっぱりお姉ちゃん?」

「ん~……それも微妙。悠子はすっごく細かい注文が多いからね。やれ、シャンプーとリンスは僕と違うのがいいとか……は、由美子も一緒かぁ……えっと、お肉は絶対安いの使わないでとか、一週間に一回は絶対に買い物に付き合ってほしいとか……まぁ、どっちも一緒に住むと苦労するからねぇ……一緒だね。うん」

「い、一緒って……」

 何かいいたそうだったが何かを押さえ込んで笑顔になった。

「……じゃ、じゃあ、お兄ちゃんは今、お姉ちゃんがいないけど……寂しい?」



――――――――



「何だ?今度は?」

「これまた理解不能の通信です」

「相手は何を伝えようとしているのだ?」

「さっぱりです。艦内に侵入した敵の部隊も反応が消えたままでどの部隊とも交戦していません」



――――――――



「そりゃあ、寂しいよ」

「そっか、そうだよね……」

 肩を落とし、椅子に座りなおす。顔を上げずにがっかりとした様子だった。

「けどね、由美子がいないともっと寂しいかな?」

「え?」

「悠子はしっかりと立ってるから。まぁ、由美子はまだ高校生だからしっかりと見ておかないと……って言ったらちょっとシスコンかな?だけど、やっぱり由美子がいなくなったら寂しいな」

「お、お兄ちゃん……」

「って、何泣いてるの?」

「な、泣いてないよ?こ、これは……嘘泣き」

「嘘泣き?」

 何故、嘘泣きをする必要があるのかさっぱりわからなかった。霧之助は首をかしげながら由美子をじっと見ている。

「そ、そんなに見ないでよぉっ!!」

 目を真っ赤にはらしているところを見るとこれが嘘泣きとは思えない。由美子は大根役者であるからだ。しかし、霧之助は嘘に付き合ってあげることにする。

「そっか、嘘泣きだけど一応……」

 立ち上がり、由美子を抱きしめるようにして頭をなでる。

「よしよし、泣かないで」

「な、な……泣いてなんていないんだから……」

 顔を胸にうずめ、嗚咽を繰り返す。そんな由美子を霧之助はずっと抱きしめておいて上げるのだった……



―――――――



「あのね、お兄ちゃん……」

「ん?もう、お兄ちゃんって言わない」

「え?嘘?何で?」

「……今日から、あなたって呼ぶことにしたの」

「あなた……って他人行儀じゃん!?何で?僕何か悪いことを……」

 騒ぐ霧之助の唇が由美子によってふさがれる。

「ちょっと、静かにしてよ」

「……ってえええええっ!?」

「わ、もうっ!!うるさいな!」

「ゆ、由美子、何してるの!?いや、何したの?」

「……わからなかった?それならもう一度……」

「んっ……ってしなくていいって!」

「私がしちゃ、迷惑?」

「迷惑じゃないけど……由美子はそれで……」

「だから、あなた。他人行儀なんかじゃないよ、あなた♪」

「……」



―――――――



「艦長、完全敗北ですね」

「ああ、艦が爆破されるとは思わなかった…そして、生きてることがすばらしいな」

「そうですね……」

「見ろ、敵さんが我々を歓迎してくれているぞ」

「歓迎されてますね、やはり模擬戦でも何でもあの国には勝てません」

「私もそう思う」



――――――――



「ところでさ、あの問題の答えって何?」

 買い物籠を隣で持っている霧之助へと由美子は尋ねる。

「問題?え?何のこと?」

「だ~か~らっ、一番頷きやすい職業は?の答え!」

「あ~あれね」

 ニンジンを手に取りながらどうでもよさげに霧之助は答えるのだった。

「二番」

「え?二番って言うと……運送業?何で?」

「うん、そうだからね」

「……へ、変なのって!一瞬で考えたんだよ?すごくない?」

「すごくない」

 霧之助をばしばし叩いている由美子と霧之助。その姿は仲むつまじいカップル、もしくは夫婦に見えたと言ったのはスーパーのお菓子売り場にいたマニアの意見である。


あくまでこれはプロトタイプです。完成版がいずれ出るかもしれません……ああ、それとこれで由美子の人気がうなぎのぼりになればいいですな……ということで由美子エンドです。いかがだったでしょうか?笑いました?苦笑でも大丈夫です。笑が入っていれば笑っていることに入りますから。感想なんかお待ちしておりますのでお時間があるときよろしくお願いしたいと思います。次回更新までは決定事項なのですがそれ以降は……どうでしょうね?雨月の首を握っているのは読者の皆様です。雨月の首は鬼の首よりとりやすいですよ?もはや、後書きで何も挽回できそうにない雨月ですが、ご意見、ご要望にはこたえたいと思っています。一月二十四日日曜、二十一時二十三分雨月。

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