◆◆第二百七十話◆◆◆:スナイパー悠の腕前
第二百七十話
僕の隣にいる少女は、ご機嫌である。
「う~ん、あたしってすごい?」
「……まぁ、すごいと思うよ?」
浴衣に某スナイパーが持っていそうな狙撃銃を携えている。くすくすという声が聞こえてくるがそんなことを気にする子でもない。
「よし、じゃあ射的に行ってみよう!」
「……お~」
―――――――
「……え?あれ当てたの?すごいね~?」
射的の店番をしていた若い女性がそんなことを言う。
「はははは……そうですね。レーザーポインターまでつけられているなんて知らなかったなぁ」
どっかのスナイパー張りに鋭い視線をスコープに当てている。銃口にはコルクがはめられており、いつでもトリガーを引けば発射される。
「……」
浴衣姿に狙撃銃を携えるその姿は珍しいのかギャラリーたちが彼女を見ていた。しかし、そんなことも眼中に入らないのか彼女はしっかりと前だけを見据えている。
鋭く、そしてとても綺麗な瞳に、月光に照らされる姿。
彼女が感じる視線は唯一つ、後ろで見ている連れ人のみ。
「どれでも、当てたものはお持ち帰りだからね?がんばって!」
「……」
入射角に何処に当たれば思い通りのものを手に入れられるか考える……少し重たい銃の所為で狙いがうまくつけられない。
あとは……タイミングだけである。銃口下からは紅い軌跡を描きながら一つの線が狙い定めた場所をしっかりと示した。
「……ってえっ!!」
一気にトリガーを握る指に力をこめて……
「いたっ!!」
後ろで見守っている連れ人の声があがったのだった。
「え?あ、あ~……なるほど!」
若い店番の女性は手をぽんと叩いてベルを鳴らす。それに釣られてか、ギャラリーたちもぱちぱちと手を叩いていた。
「大当たり~!審査員?特別賞を手に入れました~!彼氏さん一人お持ち帰りですっ!!」
「ふっ、あたしにかかればざっとこんなものよ♪」
「……よいこのみんなは……兆弾で人を狙っちゃ駄目だよ?」
―――――――――
右手はしっかりと僕の手を握っているが左手には銃がきちんと握られている。
「えっと、次はどこに行こうか?」
「……もういいよ」
「え?」
隣からそんな声が聞こえてきた。
「どうして?まだ何も食べてないよ?それに特に何も見てないし……まだ悠は楽しんでないよね?」
「そうだけど、あたしは十分楽しんだよ」
「……そう?」
「うん、そう」
しっかりと目を見据えてみたが、嘘はついていないようだ。その目は相変わらず強い光を湛えていた。周りからはいまだに楽しそうな声が聞こえてくる。
「そっか……じゃあ、帰ろうか?」
「……うんって言いたいところなんだけどね。ちょっと話したい事があるの」
「?」
ふと見えたその表情はなにやら思いつめたような表情でその話したい事が生半可な気持ちで聞いていいものではないし、どう答えればいいか絶対に悩んでしまう何か……そんな気がしてならなかった。
進路は多分、スナイパーですよ。ええ、間違いありません。さて、遂に次回で終わりを向かえる予定です。出来ればすぐにでも投稿したいものですが……色々とあるんですよ。さて、以前あった悠編エンドへ綺麗に繋がります。一月二十二日金曜、二十二時三十分雨月。