第二十七話◆
第二十七話
「どうした、霧之助……顔色が悪いぞ」
「……そういう百合さんこそ……今にも死にそうな顔、してるけど」
百合さんは死んだ魚のようににごった目でこちらを見てきている。きっと、僕も同じような顔をしているのだろう。
「……これはな、別に勉強のし過ぎで燃え尽きたってわけじゃない……」
「……じゃあ、何?」
明日から中間テスト。気張ってやる必要なんてないのかもしれないが、できるだけがんばっておきたい(これでがんばると食費が一万円アップするのだ。悠子によりおいしいものを作って上げられる可能性が高まるのである)ため死のうが玉砕しようががんばるしかないのである。
「……明日から始まる中間テストなんて赤子が頭をひねるぐらい簡単だ……だから、中間テストがいかに井の中の蛙だったか教えるための前哨戦だ」
もはや何を言っているのかわかっていないのだろう。百合さんの量のまぶたはそろそろいちゃいちゃしそうでいちゃつきはじめたら引っ付いたままになってしまう可能性が高い。
「……で、そっちは?」
「……ああ、僕は……勉強もそうなんですけど明日から妹が僕のところに来る予定」
そこで百合さんは首をしかめる。
「いもーと?いもーとってお前、雪がお前のところに行くのか?」
「いや、百合さんの妹がくるんじゃなくて、悠子ともう一人、中学三年生の妹が僕の家に来るんだよ」
ぼーっとした顔で数分考えているようである。そして、目を見開いた。
「え?何?霧之助って妹一人じゃなかったの?」
「ええ、まぁ……」
「ぜんぜん話しなかったじゃんか!第二の妹!飛び級してないの?」
元気いっぱいになったようだ……何故、この話題に食いついてくるのかはわからないが。
「……僕だって殆ど会話というか、一回ぐらいしかあったことないんで……」
「あ、そうか、霧之助は再婚したんだな」
「いや、僕がしたってわけじゃ……」
結婚できないくせしてバツイチってどんな状況だろうか……ともかく、今日の百合さんはいろいろとお疲れのようだ。変なちょっかいを出して龍が出てくることなんてざらにあるそういうわけでできるだけ無視する方向で。
―――――――
お昼休み、弁当を出してさぁ食べようと思ったのだが、そこでふと隣の席を見る。隣の席の百合さんが同じように弁当を食べようとしながら、寝ていた。箸を持ち、よだれをたらしながらそのまま机に突っ伏した。
「…ぐがぁっ……」
いびきまでかいているところを見ると相当お疲れのようだったので静かな食事を心がけることにした。他のクラスメートたちもひそひそと話をしているだけでどうやら百合さんのことを気遣っているようだ……まるで、爆弾みたいな扱いを受けている。
そんな時、教室後ろの扉が少しだけ開いて誰かがこちらを見ていた。
「ん?」
そこには百合さんの妹である雪ちゃんが立っており、きょろきょろと誰かを探しているようだ。この中には雪ちゃんに個人的な恨みを抱えている三人の人物たちがいるために急いで駆け寄る。
「どうしたの?」
「え、ああ……あれから間山さんはどうなったのかなって思いましてね」
雪ちゃんの顔を見るとどうやら結末を知っているらしい。
「ご察しの通り、僕を助けてくれる人はいませんでした!」
「あぁ、それは残念ですね。まぁ、がんばってください」
「え?こういうのって最後に助けてくれるんじゃないの!?」
ふふふとわらって雪ちゃんは僕に背中を見せた。軽くあげられた手が惜しむことなく別れを告げていたりする。
「ま、そんな展開誰も期待してませんよ……おとなしくあがいてください」
「……あ、あがかなくても僕は大丈夫だって」
「じゃあ、勝負しましょう」
背中を見せているところを見るとものすごくかっこいい。
「わたしが勝ったら覚悟してください、間山さん」
「え?覚悟って何さ?」
「それで、間山さんが勝ったら一つだけ何でも言うことを聞いてあげます」
なるほど、それはどこかで聞いたような話だな。
「わかった、僕は負けないよ」
「ふふっ、本当にがんばってください……もっとも、ハンデをおっているのは間山さんのほうなんですから」
何がハンデなのだろうかと考える……もしかして、雪ちゃんは言語系が得意だということなのだろうか?首を傾げるも、そのまま雪ちゃんは去っていってしまった。
なんと!第三十話から第四十話部分まで悠の話で持ちきり予定です!勢いで書いてしまったらものすごく、長くなってしまったのです。宮川編が何より長いと感じていた作者ですがそれももう、払拭されました。寝るのも忘れて書いて二日……あれ?意外と少ない?ま、まぁ、殆どの人が夏休みももうわずかということでこちらもものすごい速さで更新したいと思っています。では、第三十話から期待していてください。