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◆◆第二百六十二話◆◆◆:あの日の自分と今の自分

第二百六十二話

 洗濯物を干し終えて戻ってきた悠が次にすることになっているのは(それは悠が決めたものであり、霧之助は何もしなくていいと言っている)掃除である。

「やっぱり、ここでちょっとの間だけでも過ごすんだから掃除は必要よね!うん、必須条件っ!!霧之助に無理を言って住まわせてもらっているんだから……まずは!」

 誰に言うでもなく、彼女はとある部屋の前に立つ。きっと、扉からしてみれば迷惑きわまりのない独り言少女に違いない。

「うん、ここから!」

 そこは霧之助の部屋へと繋がっているちょっと、いや、けっこう古い扉である。それを引くと、比較的清潔感のある部屋が目に入り込んでくる。

「う~ん、昨日はここで寝させてもらえなかったから部屋を見るのって久しぶりなのよね~」

 そんなことをつぶやいて部屋に入り込んで椅子に腰掛ける。机の上には写真立てがおいてあり、写真の中で霧之助ともれなく誰かが一緒に写っていた。勿論、その中には自分がきちんと居たりする。いや、むしろ自分が中心的存在であり、他の連中の写真なんかを飾っておくのはどうだろうか?そう思ってみたりする。

「う~ん、何で霧之助にあんなに女子が付き纏うのかしら?」

 あごに手を置き、考える。中学時代から知っていた。あまりいい噂を聞かなかったが、自分の目にはそう映らなかった。最初に出会ったあの日…もう霧之助は忘れてしまっていることだろう。だが、まだ自分は覚えているのである。死なないかぎり、忘れない大切な出来事。本当に些細なことで、他の人に話したら笑われてしまうことなのかもしれない。でも、あの日からずっと追い続けていたその背中は気がつけば同じ位置に立っており、しかも、今こうやって部屋に勝手に侵入できるほどの仲になっているのである。あの日の自分はまず間違いなく、今の自分の立ち位置を夢見てどれほど恋焦がれていたことだろうか?あの時は一回でいいから話してみたい。話さなくてもいいから近くに居たいと考えたものだ。あれから少し経って知り合えた。……まぁ、最近まで『もしかして、女の子としてみられてないのかも』と思ったのだがそうでもないようである。

「別に、何かあるわけないんだから隣で寝てもいいのになぁ~……『それは絶対駄目!お願い、許して~』とか本当に信じられない!」

 今はこのぐらいの距離がちょうどいいのだろう。どうせ、写真の中の表情を見ると他の人と自分は悲しいが大体同じ場所に立っているようだし。

 そんなことを考えて、今度は机の棚に目を向ける。棚には普通に教科書が入っているだけで他に面白そうなものはない。探しても何も出てくるとは思えなかった。しょうがないので……

「あ、開けてもいいよね?」

 独り言の多い少女である。まぁ、今から彼女がしようとしていることはもしかしたら犯罪行為かもしれない。もし、犯罪行為になってしまうとしたらどの程度の量刑なのだろう?しかし、彼女にとってはそんなことよりも気になることが他にあるのである。

 もし、もしも……もしもこの引き出しの中に交換日記なんかが入っていたら……あまつさえ、相手が自分の知らない女だったら……

 黒々とした感情が芽生えそうな気がしたが、あくまで気のせいということで引き出しを持つ手に力を入れる。

「っせぇのっ!!」

 気合一閃と共に引き出しを引っ張る……と、そこには『Dialy』と書かれている一冊の何かが置かれていた。

「……う、嘘でしょ?」

 これまた誰に言うでもなく彼女は尋ねる。もちろん、その返答はない。埃のかぶっていないそれを右手で持ってみる。真ん中辺りにしおりが挟まっているということはここが最新更新したであろう場所だ。

「……」

 何か、ものすごく覗くのが恐い。勝手に見てしまってそれがばれて、怒られたり、嫌われたりするのも嫌なのだが、見てしまって何かが壊れてしまうのが……最も恐いことだった。

「……すぅ~……はぁ~……」

 日記を大事そうに抱えたまま、深呼吸を始める。その表情はこれから死地へと赴く戦士の顔のようだ。ちょっとあどけなさの残っている顔だが、凛とした表情はきっと覗き行為を行う前だという状況でなければ様々な人から賞賛されるに値される芸術的なものだった。

「ちょ、ちょっとだけ……」

 薄い紙の一枚をそっと人差し指と親指でつまみ、彼女はそれを捲ろうとする……。


意外な話、まさか悠がここで出てくるとは思って見なかった……もはや、作者のレールの上を通っていないこの小説。一年文化祭で記憶を失って終わるという悲劇のエンディングを回避し、二年のクリスマス辺りで死んでしまうという終わり方もスキップ。って、霧之助は浮かばれない終わり方が多い気が……まぁ、実際幸せそうに進んでいるのでこのまま暴走したってかまわないでしょう。さて、霧之助の日記です。ちょっとしたものなのでここではあまり取り扱われていませんね。次回も続いて日記のお話です。ああ、アンケートの件は相変わらず受け付けている最中ですので気が向いたらよろしくお願いします。一月十七日日曜、十一時四十四分雨月。

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