◆◆第二百六十話◆◆◆:勉強合宿前日の出来事
第二百六十話
悠子は悠子、僕は僕。悠子が何か非常に難しい問題を解いたとしよう、しかしそれを僕が解けるという保証は何処にもなく、その問題を解くことが出来る可能性は非常に低いであろう。そりゃそうだ。悠子は飛び級をするぐらいの頭脳を持ち合わせているのだから平々凡々である僕が簡単に解けるはずがない。
悠子に解けない問題はない……ということもない。現に、今だって進路で悩んでいるのだからちょうどいい証明だ。
「あのさ、悠子は……どんな未来を思い描くかな?」
「……だから、進路がわからないから……」
「いや、そうじゃなくて、自分の未来だよ。どこに行こうとかじゃなくて、楽しいことがいっぱい起きたらいいのになぁ~とかその程度」
悠子の進路を僕がどうこう言える立場ではないし、言いたくない。やはり、悠子には悠子なりの道を自分で見つけて欲しかった。僕だってああだこうだ親から言われるのはいやだし、いつかそれを言い訳にして投げ出してしまう可能性がある。
「……私は……幸せな人生を送りたい」
「そっか、よかった……悠子がそう考えていてくれて」
「そう考えていてくれてって……どういう意味かしら?」
別にこれといって意味はありませんよ、悠子さん♪
「ごめんね、僕が言えることは今はこれだけ。それを参考にして進路をやっぱり、自分で決めて欲しいんだ」
ジト目で少しの間僕をにらんでいたあきらめたかのように一つため息をついた。
「わかった」
それだけ行って帰ると僕に告げたが、ああ、そういえばといった顔をして悠子はこんなことを言ってきた。
「あ、あのさぁ……そういえば前々からお兄さんに聞いておきたいことがあったんだけど?」
「ん?何?」
「お兄さんの女性の好みってどういうの?」
―――――――――
悠子は夕方には帰ってしまった。まぁ、元気な姿を見ることが出来ただけでもよしとしよう。それに、進路のことについては結局はぐらかすというか何と言うか……変なアドバイスになってしまったがそれでも悠子は何かを見つけたまなざしで帰ってくれた。さすが、頭がいい僕の妹のことはある……なぁんて、言ってみただけである。
さぁ、これで心置きなく勉強合宿へと向かうことが出来ると思ったのだが、人生という道は起伏の激しい道のようでお風呂上りにケータイが鳴り出した……。
「?」
誰からであろうかと思ったのだが、切れてしまう。さっさと着信履歴を確認しようとしたところでチャイムが鳴り響いた。
「は~い!!」
まさか悠子が忘れ物をしたのに気がついたのだろうと思ったのだが(衣服類は全て持っていったはずだが洗濯機の奥底にパンツを忘れていっているのを発見した)チャイムの押し方が非常に乱暴だった。そして、三度のチャイムで僕が扉を開けないのを見ると今度はドンドンドン!!と扉を叩き始める。
「霧之助っ!!いるんでしょ?」
「……悠?」
悠子に続いて悠までがやってくるとは思わなかった……。
――――――――
「ごめんっ!!一週間ぐらいここに居させて?ね、お願いっ」
両手を合わせて頭を下げている。頭を下げた後も片目を瞑っていた。
「……いや、それはいいけど……僕、明日から勉強合宿があっていないけど?この前言っていたよね?」
「うん、知ってる。それでいいから、ここを貸して欲しいの」
そしてまたお願いのポーズ。困ったなぁ……
「この通り!何でも言うこと聞くからさっ!!」
悠に何かお願いとかしていたら両親が黙っていないだろうなぁ……いや、いい人なんだけど恐いからなぁ……
「まぁ、いいよ。うん、自由に使って」
「……本当?嘘じゃないよね?」
ぱっと顔が輝く。相変わらず、悠は自由奔放である。きっと世界が崩壊したとしても悠はしぶとく生き残っていそうだな。
次回からは霧之助が勉強合宿の間にお留守番することになった悠のお話です。勉強合宿中、ちょっとした事件が霧之助のアパートで起こってしまう……かもしれません。さて、センター試験を受けた方、いらっしゃいますか?お疲れ様でした。あのつらさは受けてみればわかりますが……とりあえず、雨月にとっては苦痛でしたね。さて、それではまた次回。一月十六日土曜、二十時九分雨月。