◆◆第二百四十二話◆◆◆:リーチに届く図書館での一時
第二百四十二話
「……」
「……」
二人とも黙って図書館で勉強しているために静かだが、なんだか早乙女さんからの視線を感じる。
「……」
ちらり、ちらりとこっちを見てくる気がしてならないのだ。しかし、こっちから見ようとするとぱっと自分の教科書に視線を落とすのだ。
「?」
「……」
じーっと見ているとゆっくりと早乙女さんの顔が上がっていく。あ、なんだか……危ないかな?そう思っているとそのとおりだった。
さっさと、顔を下げればよかった。
「……こっち、見ないでよっ!」
「……」
僕の顔面には今、辞書が張り付いている。辞書って結構痛いんだね……いや、辞書って確かにぶつけられたら痛そうだけどさ、ぶつけられたことなんてなかったんだよ。まさか、まさかぶつけられるなんて思ってなかったからさ。
「……ごめん」
「そっ……わかればよろしい」
若干、頬が朱に染まっているようだ……
「ああ、なるほどね」
「!?……な、なにがなるほどね……よっ!!」
「風邪でしょ?この前はインフルエンジャ……」
僕の顔面に再び、辞書がテイクオフっ!!あの、辞書の使い方、間違ってますよ?
「……ば~かっ!!」
「……あいたたた……」
相変わらず早乙女さんは恐い、恐くて独創的で、そんな姿がとっても綺麗だ……なぁんてね。冗談でもそんなこと言ったら確実に早乙女さんに怒られちゃうな。
「……」
「な、何よ?」
でもまぁ、たまには……いいのかもしれない。恥ずかしいからそんなこといえないけど。
「……あのさ、早乙女さん」
「……さっきから何よっ!」
「僕さ、早乙女さんみたいな人になりたいな」
「……え?」
「って、無理かな……自主性もって、一人で立てるそんな人……いつか、それでもなってみたいよ」
信念を持って前を向いている人だけがなれるものなのかもしれない。
「……たぶん、間山じゃ私のようにはなれないわ」
「……そうだよね」
お世辞なんか言われるよりもはっきりいわれたほうがいい。それはまぁ、悲しいけどね。
「……だから、他の人が支えてくれると思う」
「え?」
「……私は何も一人で立っているわけじゃない。友達だっているし……間山とかね」
「……」
「だから何も一人で立とうとしなくていいと私は思うわ。困ったときは友達……その、私に相談してくれればいいから」
そういってにこっと微笑む。その表情はとても印象的で、綺麗というよりは……可愛かった。
「うん、そのときは……よろしくね」
「任せなさいよ」
早乙女さんはそういって再び勉強に戻った。そして僕も、同じように勉強に戻ることにしたのだった。