◆◆第二百十八話◆◆◆:始まる体育祭
第二百十八話
なんやかんやあったが結果は上々。僕は見事に長い長い戦いの果てに勝利の女神をこの手に掴んだ。
「……今回は私のまけよ」
「まぁ、十点差だったから」
「結果から見たらあなたの勝ちよ」
まるで過程だったら負けてないといっているようだ。いや、確かに過程だったら負けていたに違いない。
「ともかく、何か一つだけ言うことを聞いてあげるわ」
「それなら野球拳を!」
そういったのは僕ではない。脇から出てきた鬱陶しいクラスメートを押し退ける。
「じゃあ、今回の勝負はなかったことにしてよ」
「え?」
「「「ええっ?それはもったいない!!」」」
クラス中の男子がそんなことを言う。しかし、別にどうでもよかったことだし次もこうやってがんばれるのならば楽しくていいなと思っただけだ。
「ま、間山がそれでいいって言うのならそれでいいわ」
「……うん、また、今度がんばろうね」
差し出した右手をじっとみながらもその手をちゃんと掴んでくれた。
「……後悔させてあげるわ!」
ああ、青春だな~。
―――――――
その日の放課後、僕は高畑さんに連れられて会議室にやってきていた。残念ながら僕の分の席だけがなかったために必然的に高畑さんの後ろに立つことになる。
会議室には生徒会全員と体育祭実行委員、それと監督の先生が顔を合わせている。
「それでは、今日からがんばってみんなでいい体育祭を作っていきましょう」
生徒会長のそんなよくありそうな、何処でも聞けそうな、それこそ町内会の運動会みたいな挨拶で体育祭の下準備が始まったというわけである。その後、僕は三十分の間ただ単に突っ立っているだけで他に何もすることはなかったりする。一人だけ突っ立っている僕をじろじろと見てくる人もいたのだがいい加減、見られることに慣れてきた……いや、ね?そりゃやっぱりみられないほうがましなんだけどね。それに、なんだかみられることに慣れてきたっていったら変な誤解をする人もいるかもしれないけどそれはそれ、これはこれだから。
―――――――
「ふ~、終わった終わった」
かばんを持ってきていたために教室に戻ることなく校門へと向かう。
「お疲れ」
「うん、お疲れ。ごめんね、今日からもう活動始まるのかって思ってたけど違ってたよ」
「そうみたいだね」
「じゃ、いつものところに行こうか」
僕の返事を聞くことなく、里香は僕の腕を引っ張って早足で校門へと向かい始めたのだった。
「あのさ、準体育祭実行委員って何をするんだっけ?」
「ん~?言わなかったっけ?」
「いや、言ったけどおさらいしておきたくてね」
「体育祭実行委員の補助、手伝い。用事があるときだけあたしが呼ぶから安心して」
「………」
いつか、いつか私用で呼ばれるなんてことにならないだろうか?あそこのお醤油とってとか自転車で迎えに来てとかそんな……
「あれ?なんだか不満そうな顔だね~?まぁ、暇はさせないから安心してよっ!あたしたちの担当は資材とかを運ぶのが主な仕事だからね」
「ち、力仕事ですか……」
「若いんだからガッツがあれば何でもやり遂げられるよっ!!」
何処からその元気があふれ出てくるのだろうか?ちょっと分けて欲しい……けど、分けてもらった瞬間から栄養ドリンクを点滴で打ったような感じになるんだろうな。
「きっと、里香の身体にはドリンク剤が流れてるんだろうな……」
「ん?何か言った?」
「いや、何も」
きっと、聞かれていたらとび蹴りの一つはプレゼントされていたのかもしれない。
その後、喫茶店で少しの間話をして今後の活動について教えられた。明日から簡単なことをはじめるらしい。まずはグラウンドの清掃だそうだ。
中学、高校によっては運動会だったりしますね。雨月は陸上競技が苦手なため、水泳も競技にいれるべきだと思っていたりします。ま、無理だということは百も承知ですけど。今、色々思いだしましたが雨月の体育祭、運動会は悲惨な出来事が多かったです。雨で昼から中止が二年連続、弁当時間に突風吹いて弁当ジャリジャリにテント転倒……やってらんねーぜ!と言いたかったのですが、特に競技には出てなかったので文句も出なかったりします。運動会とか基本的に運動が出来る連中の行事であって出来ない連中は競技のお荷物でしかありません。かけっこなんかで最後のぽっちゃりした子はまるで見世物みたいで他人事ながらああはなりたくないな、そう思って考えました。競技は運動出来る奴に任せて応援を運動出来ない人に任せればいいはず!そうすれば誰も傷つかず平和に楽しめるはずです。ま、あくまで机上の空論ですけどね。十二月十五日火曜、八時五十六分雨月。