◆◆第二百十七話◆◆◆:五月連休の風邪 ~その日、彼の部屋には嵐がやってきた~
第二百十七話
ゴールデンウィーク。五月の大型連休である。ここに一人、携帯電話を手にして悶々としている一人の少女がいた。
悶々……というのはもう間違いである。今は携帯電話になにやら叫んでいた。
「ちょっと!遊べないってどういうことよ!!!」
『いや、ね……ちょっと風邪にげほげほ……かかっちゃってさ』
「こっち戻ってきてるんでしょ?」
『戻ってきてないよ。今部屋で安静にしてる』
「……悠子とか由美子は……そっちに行ってないわよね?」
『行ってないよ。来たとしてもうつったら大変だろうから……げほげほ……じゃ、そろそろ切るね』
「ああっ!!ちょっと待って霧之助!」
『……ご、ごほっ……何?』
「か、風邪……早く治ると良いわね?風邪に負けないようにあたしが応援してあげてるからね!」
『……ありがとう』
ぷつりと電話が切れて何もすることがなかったりする。
野々村悠はひとつ、ため息をついた。
「ぁぁぁあ~暇だな~」
せっかくのゴールデンウィーク。一緒に遊びたい相手がいたのだがどうも風邪のようで遊べないようだ。
近くだったら看病できたんだけどな……そう思って首を振る。
「ううん、距離なんて関係ない!!絶対にあいつらより先に行ってあげるから!」
旅行用のかばんを手にとって必要なものをさっさと詰め込む。
――――――――
「そういうわけで、来ちゃったわ」
「……来ちゃったわって相変わらず行動力すごいね~……風邪だって言ったのに。うつっちゃったらどうするの?」
「そのときは……霧之助が看病してよ」
それ本末転倒じゃないかな?そう思ったのだが来ちゃったからにはしょうがない。
「で、悠子と由美子、他多数は?来たりしてない?来る予定とかない?」
「けほ……悠子も由美子も父親と一緒に旅行しに行ったよ」
「霧之助置き去りで?」
「う~ん、ちょっと違うかな。僕はもとから行かないっていうか……本当の家族水入らずって言うのを僕が提案したんだよ」
「そっか……」
「ま、二人は僕が風邪引いて寝込んでいるって知らないからね」
「えーと、それなら……」
なにやらメモ帳を引っ張り出してきてぺらぺらめくっている。
「何それ?」
「あんたは気にしなくていいわ……ええと、後は宮川姉妹、高畑里香、東結、名古時羽……は?来る予定なんてないわよね?」
「ま、まぁ……みんなから連絡はあったけど遊びとか用事があるらしいって」
「ふ~ん……って、あんたまだ連絡取ってるの?」
「え?そりゃ一週間に一回ぐらいは連絡あるし」
「……ええっ!?久しぶりにあたしは電話したのに!」
「何怒ってるの?」
一人でもだえ苦しんでいる姿は面白いが何か悪いものでも拾って喰ったのかと風邪の身でありながら心配してしまう。
「あんたの所為よ!あんたがちゃんとあたしに電話を……ああ、だから今朝は話中だったのね?」
ぐいぐいと胸ぐらをしめられるわけだが……理不尽だ。何故、僕はこんな状況に陥っているのだろう?
「悠、何そんなに怒ってるの?」
「それよりこれ、持っててよ」
しっかりと握らされたそれはぼくが以前、彼女に返したはずの鍵(正確に言うならば悠子に渡してそれを悠に渡してもらった)で、蒼いリボンを施されていた。
「え?もう……それ返したはずだけど?」
「それでも、御守りとして持っててよ!絶対、絶対大事にしてね?約束……してよ?」
一気にまくし立てられて右手の小指が僕をさしていた。
「え?」
「指きりげんまん!嘘ついたら……鍵を押し込んであげる!」
「……相変わらず悠は元気だね」
「あたしはいっつも元気だわ」
「ゆ~びきりげんまん……げほっ」
「嘘ついたら針千本の~ますっ!!」
「指切った!」
ちょっときついがこの程度でいいだろう……
「ごめんね、せっかく遊びに来てくれたのに風邪引いちゃって……」
「別にいいわよ、それよりちょっと目を瞑って眠ったほうがいいわ」
「……うん」
お言葉に甘えて僕は静かに目を閉じることにしたのだった。
―――――――
「……ん?」
夕方ぐらいだろうか?夕日が窓の外に見える。そして横には悠が眠っていた。いや、もちろん同じ布団に寝ているというわけではなく床に眠ってるだけなんだけどね。
風邪を引いてはいけないと思い、悠の上に毛布をのせる。
「……おやすみ」
それだけつぶやいて僕は再び眠りについた。
ええ、いきなりですが特別編ですよ。もはや存在が消えかかっていた悠が復活。時系列的にはちょっと前の話になっていることに気がついた方もいるでしょう。最初に断っておくべきでしたね、すいません。さぁて、次回からはまた学校生活の話です。中間テストが終わった後は第三部のメインヒロインにがんばってもらうことにしましょう!感想、評価、メッセージ!努力、根性、ソーセージ(意味不明)も待っていますので!!それではまた次回!十二月十四日月曜、八時四十八分雨月。