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◆◆第二百十五話◆◆◆:夏帆は変な子

第二百十五話

 昔の僕だったらあの男に関係する人を見つけたらきっと噛み付いていただろう。

 しかし、今の僕はあのころの僕ではない。乙姫霧之助ではなく、間山霧之助だ。

「……ごめん、まだよくわからないから詳しく話してくれないかな?」

「………」

 相手の反応を試しているのかどうかわからないが……何かを値踏みするかのように僕を見ている。その目は相変わらずどこまでも深く、大きな瞳だった。

「お願い」

「………わかった」

 話をまとめているのだろう。首を何回かかしげた後に口を開いた。

「……あの人がわたしのお父さんになったのは三年ぐらい前」

 まぁ、そうだろう。母さんが離婚したのも大体そのぐらいだろうし……よくよく考えてみたら僕と悠子、由美子って三年ぐらい兄妹やってたんだなぁ。

「……約一年前、幼稚園児を助けた拍子に頭を打って意識不明」

「……事故ったのか……」

「車に撥ねられた」

 どうでもよさげな感じだが表情のほうは寂しそうだった。

「それで……?」

「……半年前に目を覚ました。全部、記憶がなかったけど」

「……記憶喪失?」

「……記憶喪失というのは……」

「いや、意味は知ってるから」

 なるほど、だからさっき『知っている喜一郎はいない』っていったのか。そりゃ、記憶がなくなっていたら誰が誰だか覚えていないんだろうけど……

「記憶喪失って言っても全部を忘れているわけじゃないんだよね?少しは覚えてるでしょ」

「……一般常識は大丈夫。トイレの仕方もちゃんと覚えていたから」

「……そっか、それで?」

 そうなのだ。僕に何故、こんなことを話すのかわからない。いや、本当はわかっているのかもしれないけどわかりたくはなかった。

「………お母さんは早く記憶を取り戻してほしくて努力していた」

「………」

「……お父さんと一緒に行った場所を全部まわったし、職場の人たちに来てもらったりもした。小学校、高校、大学の恩師にも来てもらった……ショック療法も試そうとした……」

「ショック療法?」

「……事件時と同じようにしたけど医者に止められた」

 そりゃそうだよ。次それをやったら確実に死んでしまうだろう。きっと日ごろの行いがよかったから助かったのだろうな………日ごろの行いがよかった、か…。

「打てる手は全部打った」

「そっか、それで医者は何といってるの?」

「医者は……いつか記憶を取り戻すかもしれないといっていた」

「そっか、それならいいじゃん」

 僕はさっさと参考書を片付けることにした。立ち上がって帰ろうとしたが夏帆はそれを許してくれず僕の腕を両手で掴んでいた。

「は・な・し・てよっ!!」

「……嫌だ」

「もう全部話したでしょ?」

「……まだ、まだ最後の手段がある」

 図書館外までやってきてようやく僕は動きを止めることにした。このまま廊下を歩けば今年の注目度ナンバーワンに輝いてしまうからだ。

「……それで、最後の手段って何?」

「……あなたとお父さんを会わせる」

「……さいなら」

 再び歩き出そうとしたが今度はひっつかれてしまった。こんな状態で廊下をうろうろしたら今年ぴったりんこナンバーワンの彼氏彼女ともてはやされて様々な誤解の嵐がこの学校を渦巻くに違いない。

「……そこまでして助けたい?」

「……うん」

「そこまで価値がある?」

「……それ以上に」

「たとえ、君の心と身体が傷つけられたとしても……助けたい?」

「……それを貴方が望むなら」

「……負けたよ、やれやれ……僕がそんなことするわけないだろ」

「…………お父さんにそっくり」

「何か言った?」

「……何も」

 はぁ……つくづく自分が馬鹿でお人よしだということがよくわかった。しかし、行くといった限りは行かないといけないのだがまだ決心が固まっていない。

「……今度の日曜日でいい?」

「……わかった」

「……もし、それまでに記憶が戻ったら僕は行かないから」

「…………わかってる」

 その後はよくわからないがなし崩し的にアパートまでついてこられてしまった。


次回いよいよ霧之助の父親……登場?思いのほか長くなってしまった気がする……ま、まぁ、気を取り直して後書きをはじめましょう。次回で『霧之助の父親編』は終了です。え?そんなの知らなかった?まぁ、作者自体も書き終えてようやくそんな題名にしようと決めましたから。次回、できましたら感想をいただけるとうれしいかと思います。それではまた次回!お時間があればお会いしましょう!十二月十二日土曜、二十時四十七分雨月。

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