◆◆第二百十三話◆◆◆:にらみの達人
第二百十三話
「今回はきちんと結論を決めてきたわ」
そういった相手の顔にもはや迷いの色は見られなかった。ふと、隣の早乙女さんを見るとじろっと相手をにらみつけている。しかし、相手はまったく動じず涼しげな表情を見せていた。五月中旬、確かに日中はちょっとあつかったりするが夜はここまで冷え込まないぐらいの冷気がここら辺りには漂っていた。
「あなたは誰ですか」
短当直入、余計なものをまったく入れない文章スタイルで早乙女さんは相手に疑問をぶつける。だが、相手は相変わらずの何処吹く風。
「……もう、彼女もいるのね?」
「か、彼女……」
ああ、早乙女さんの目からきっとビームがほとばしるぞ!そう思ったのだが、クールフェイスは目だけが怖いだけで特に何もなかったりする。
「……クラスメートです」
「そう、わかったわ。それより、間山霧之助君、ここじゃ何だから近くのファミレスに行かない?」
「え?えーと……」
僕の右手を捕まえようとして相手の左手が伸びてくる。
「……知らない相手にのこのこついていくわけないと思いますけど?」
すぐ隣にいた早乙女さんが僕の右手を上に挙げ、相手の左手は虚空を捕まえた……と、そのとき、左手の薬指にきらりと光る何かを僕の視界が捉える。
「……指輪?」
「結婚指輪……」
二人して相手を見ていると大事そうにその指輪を右手で触って残念そうに僕らに背中を見せた。
「……今回はちゃんと決めてきたつもりだったけど……いいわ、またどうせあなたに会うって私は思ってるから」
「……次、ここに立っていた場合、警察に連絡します」
ちなみに、そういったのは僕じゃなくて隣の早乙女さんなんだけどね。どっちがここに住んでいるのかわからないよ。
「……ふふ、安心して。私はもう二度とここにはやってこないから」
「……」
早乙女さんは相手を思い切りにらみつけていた。ああ、意外とこの人百合さんといい勝負かもしれない。
ともかく、そんな馬鹿なことを考えていると相手は闇に消えてしまっていた。
「じゃ、私は帰るわ」
「え?帰るの?」
「……もちろんよ、だってさっきのあれがいなくなったんだからもう私がここにいてもどうしようもない……違う?」
「うーん、どうだろ?だけどまぁ、一応払ってもらったんだしお茶とかならあるから出せるよ?」
鍵を取り出して玄関を開ける。しばしのあいだこちらを見ていたが早乙女さんは何かを振り切るかのように背中を見せる。
「……また今度招待してもらうわ。今日はなんだか機嫌が悪いから」
「そっか……」
気分が……え?機嫌が悪い?尋ねなおそうと思ったけれども、早乙女さんはさっさと帰っていってしまった。慌てて追いかけて送っていこうかといったけどあんたより弱くないわよといわれてしまって夜の闇に一人、立ちすくむ。
「……やっぱり、送っていってあげたほうがよかったのかな……」
そんなことをつぶやいてみても、誰一人として僕に助言を暮れるような親切な人は何処にもおらず、僕はさっさと自分の王国に退散することにしたのだった。
PLLLLLLLLL……
「お?」
ケータイを取り出して確認するとメールだった。相手は一二三ちゃんでメールの内容を簡潔に説明するならば『明日は風邪で登校できないので部活をしないで帰って欲しい』とのことである。
「……?」
自分がいないから部活をするなって……どういうことなのだろうか?
最近は忙しかったのですが珍しく二日に二回の更新できました。これも読んでくれている人たちのおかげですね。ええ、そりゃもうやる気が出ますから。そういうわけで、感想とかありましたらよろしくお願いします。今後どうなるのかは……さて、いつものようにあててください。当てた方はやっぱりいつものように表彰します。十二月十一日金曜、二十一時四十分雨月。