◆◆第二百十一話◆◆◆:帰宅前の邂逅
第二百十一話
一二三ちゃんがいなくなったために帰りは一人……かと思いきや、偶然下駄箱のところで里香に出会った。僕の姿を確認すると手を振ってくれる……うん、やっぱり友達っていいなぁ。
「おろ?今帰るところ?」
「うん。里香も?」
「そうだよ。友達と一緒に勉強してたらこんな時間になっちゃった」
基本的に早めの下校が促されていたわけだが、こうやって学校に残って勉強する物好きもいるだなぁ(勉学部に入っている方が物好きだ、と言うのはなし)と思っていると靴を取り出してから里香は続ける。
「なにぼけっとしてるの?帰ろうよ」
「え?ああ、そうだね」
春からそろそろ初夏になるという中途半端な季節だったがちょっとやっぱり暑かった。最近の地球温暖化が進行しているのだろう。
「しっかしさぁ、中間テストで噂がたつぐらいまでに有名人になっちゃったね、霧之助」
「へ?」
呆けたような返事を返すことが出来なかったのは決して僕の所為ではなくて、いきなりそんなことを言い出した彼女のほうに問題があるのだと僕は思う。
「だってすっごく、頭いいって噂だってたってるし……去年霧之助と同じクラスの奴が賭け事を考えてたもん」
「賭け事?」
「うん、中間テストでどっちが勝つのかって」
「……」
下馬評が気になるところだ。比率的に、ビジュアル的に、これまでの行い的に考えて僕が三で彼女が七ってところだろう…
「あ、もちろんあたしは霧之助が勝つって方に二口!」
「……一口いくら?」
「そうだね、高校生だから百円だよ。他にも何人か霧之助に入れてるみたいだから総取りはないかなぁ」
いや、百円でも人数が増えれば結構な額になると思うんだけど……それに、やっぱり僕のほうに入れている生徒は少ないんだね。
賭け事はいけません!といってもやっぱり評価は気になる。もはや、誤解の解けた今、そういったことはどうでもいいわけだが僕のほうにいれてくれた里香のことを考えると負けられねぇって言うしかないね。
「うーん、まぁ、がんばるよ」
「負けたらお仕置きしちゃうぞ♪」
「あ、あははは……お手やわらかに頼むよ」
そんな馬鹿なやり取りをしていると分かれ道にたった。ここを右に曲がったら里香の住む家へ、左に曲がれば僕と一二三ちゃんの住んでいるほうへと進む。
「じゃ、また明日~……って言っても会えるかどうかわからないけどね」
「うん、そうだね……じゃ、また今度」
「なるほど、今度できたか……」
ぶつぶつとそんなことを言いながら去っていった。やれやれ、相変わらず破天荒な人物だ。
昨日のうちにスーパーで買出しを行っていたために今日行く必要がないので(一人暮らしというものはきちんと管理しておかねば湯水のようにお金を使用してしまうのではないかと心配があるため、僕の場合はけちに走る傾向がある)さっさと家に向かうことにする。
ーーーーーー
僕の部屋がある前で一人の女性が立っていた。なにやら思いつめたように扉を見つめていてインターホンを押そうとしていたが、ためらっているようだった。
「?」
誰だろうか?みたことがない!というよりあんまり人物を覚えるのが得意なほうではないためにじっと見てもわからない。とりあえず、知り合いではないということは確かだ。それならばストーカーか?首を傾げるもあんな大人な女性に会ったことなどないのだからストーカーというわけではないだろう。
ただまぁ、綺麗な人だった。
とにかく埒が明かないので話しかけてみることにする。
「あの、何か用ですか?」
「え?ああ、留守だったんだ……君が……間山霧之助君?」
「ええ、そうですけど?」
名前を知っているということは間違いなく僕に用事があるのだろう。ここに以前住んでいた人の知り合いではないということである。
「えっと……いや、なんでもないわ。ごめんなさい、また今度改めてきます」
「はぁ……?」
よくわからなかったが女性はそのまま帰っていった。
「?」
一体全体、あれは誰だったのだろうか?生き別れのお姉さんなんて僕にはいないし……
今回の後書きは次回の後書きに持越しです……どうせ、どうせ誰も……いえ、なんでもありません。では、また次回お会いしましょう。十二月十日木曜、十一時十八分雨月。