◆◆第二百十話◆◆◆:入部届けの氏名欄
第二百十話
中間テスト、もはや説明も何も必要のない高校三年生には教師陣からの様々なプレッシャーをかけられる。
「受験するやつは、命をかけろぅ!」
そんな声を担任教師の吉野先生は張り上げている。しかし、このクラスはヤル気があるのかないのかさっぱりわからないが適当な返事を返すばかり。
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「やっぱ、結果だろうな」
クラスメートの話しているのが聞こえてきて、そんなことを言っていた。結果、結果か……確かにそれは重要なことだと僕も思う。
「俺は間山がくると思うね」
「そっか?おれは早乙女さんが奴を越えるね」
「……」
今、三年五組はそんな話題でいっぱいのようだ。そんなことやってるのならさっさと勉強しろよ!そう突っ込みたい。しかし、突っ込もうとすると早乙女さんからの『間山は余裕ね~……私に負けたら何でも言うこと聞くって言っていたから覚悟しておいてよ』そんな感じの視線を投げかけられる。
そんなわけで、チキンな僕は一生懸命勉強するのである。
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放課後、勉学部は他の部活と違って中間テストのためとかで休部になったりはしない。というよりも、こういうときにこそ活用すべきであるという部活顧問(吉野先生はスパルタ教師)の考えのために僕と一二三ちゃんは一生懸命図書館でお勉強中。
「ねぇ、一二三ちゃん?」
「……なんですか?」
すっごく、機嫌の悪そうな声が返ってきた。
「えっと、何かしたかな?」
「……そういえばこれ、渡しておくの忘れていました」
「?」
手渡されたそれは入部届け。しかし、すでに一二三ちゃんの入部届けはとっくに……氏名欄に記入されているのは……乙姫夏帆という文字。
「……乙姫」
「……知り合いなんですか?」
「いや、知り合いって言うか……」
「どうなんですかっ!!」
一二三ちゃんが珍しくそんな声を出した。
「図書館ではしずかにっ!!」
「……すいません」
どうかしたのだろうか?珍しく大きな声を出して……しかし、そこまでしつこく聞いてくるのならばまぁ、もう終わったことだから話していいだろう。
「えっとね、乙姫って言うのは僕の……なんっていうかな?旧姓みたいなものなのだ」
「旧姓?」
「うん、僕の両親が……離婚してね。昔は父方の姓を名乗ってて、それが乙姫」
「……乙姫、だから……ああ、え、ええ……ええっ!?ああ、ぁぁ、だ、だからあの人はあんなことを……」
またもや大声を出した。そして、咆哮は図書館の先生も行う。
「静かにしなさいっ!!」
「ま、間山部長……あの、一二三はこれで帰らせてもらいますっ!!」
そう騒ぎ立てて帰っていってしまった。どうかしたのだろうか?
首をかしげ、待っていたとしても彼女がもう一度戻ってくることなどなかった。
いよいよ本格始動となってきました!いや、何が?そう尋ねる人がいるかもしれませんが、以前後書きで『突っ込まれると痛いところ』があると言っていたのを覚えておいででしょうか?一つ目が苗字ですね。間山は霧之助の母の姓です。ちなみに、婿養子で悠子の父は間山となってます。以前は違う苗字で彼は次男です。この話、本当は霧之助が二年の時にしようと思っていたんですが行方不明、暴力事件でいれこむ隙間がなかったので今現在まで引っ張られてきています。では、また次回!十二月九日水曜、八時五十一分雨月。