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◆第二百話◆◆

エンディングシリーズ第三話目!今回はついにあの人と……

第二百話

「手元がくるっていますよ?何ぼーっとしているんですか?」

「え?あ、いや……すいません」


 月水金は自分、火木土は夫が料理を作るという条件で、これまで料理を作ってきた。残っている日曜日はもちろん、二人で台所に立つ。夫は顔を真っ赤にしながら大根を切っている。


「今度は顔が真っ赤になっていますよ?」

「え、えーっと、大丈夫ですから!」


まだ式は挙げていないが籍を入れて、つまり結婚して半年ぐらいが経つだろうか?半年前、着の身着のまま家を飛び出して夫のもとへとやってきたのが懐かしくもある。今にも泣きそうだった自分を約一年ぶりに会うというのにいつものように受け入れてくれた時にはほっとしたし、やはり、自分には他の選択肢がなかったと痛感させられた。


「手、切らないように気をつけてくださいね」

「わ、わかってます」


 いまだに顔を真っ赤にしている……先週の日曜だって顔が真っ赤だった。理由はもうわかっている……自分をずっと見ていたのだ。それをいつ指摘されるか今頃心の中でひやひやしていることだろう……あっという間に経ってしまった半年間、夫はずっとそばにいてくれた。


「……」

「結さん……じゃなかった……結、どうかした?」

「え?ああ、ちょっと考え事をしていました」

「ふぅん?」


 よくわからないような感じで自分の作業へと戻る。やはり、一時期自炊をしていただけあって包丁さばきは人並み以上のようだ。


「あ、あの~……こっちみないでもらえますか?なんだか恥ずかしくて。」

「結構いい腕していますよ」

「あ、ありがとうございます……ごめん、敬語は使わないって約束だったね」


 プレッシャーに強いのか、手元が狂うことなく続きをはじめる。こちらの準備はもう終わってしまっている。後は材料担当の夫を待つだけである。


「……」


 ほぼ、駆け落ちのような感じで北へ北へと北上し、夫の祖母に当たる人物のところまでやってきた。少し、ややこしいが夫の両親の親ではなく、離婚した夫のははに当たる人物だ。少し変わったような人だったが、お金も何も持っていない自分たちを受け入れてくれた人でもあった。先月、亡くなってしまったのが実に惜しかったが死ぬひとつ前まで自分たちのことを心配することもなく『しっかりおやり』とだけ残して逝った。


「……結さ……結、あのね、ちょっと話しておきたいことがあるんだ」


 全ての下ごしらえを終えて夫は包丁を置いた。そして、ちゃぶ台へと座った。


「……僕、これで本当によかったのかなって思ってるんだ……あ、もちろん、結と結婚したことは間違いだ何て思ってないし……とてもうれしいんだ」


 お互い、背中を向けた状態。きっと、顔を向けて話していたら話が詰まると思っているからだろう。こちらから対面に座って話す勇気も何もない。


「……」


 夫の言葉は嘘ではなく、心から本当だといってくれている。元来、嘘をつくような人物ではなかったが流されやすい性格だというのも知っていた。

 だから、夫を頼ってしまったのである。



「わたくしと一緒に……逃げてください!」



 そういってしまえば夫は絶対に来てくれると信じてあの時あんなことを言ったのだ。夫は進学も決まっていたと聞いていたのだがそれさえも捨てて自分と来てくれた。両親が決めた結婚相手と結婚するつもりなんてなかったし、今の夫以外の男を選ぶことが第一に嫌だったことだ。

我が儘、自分の事だけを考えて自分はこれまで生きてきたのだ。

 夫は期待に応え、そして何もかも捨て、ここまでやってきてくれた。

 我が儘な自分のためだけに。


「……」


 料理を続けながらも、手元は完全に留守状態……ただ話を聞くことだけしか出来なかった。

 夫に支えられていて、夫が全てだ。夜は隣に夫がいなければ眠れない。もし、夫に何かあったとき、自分はどうなってしまうのだろうか?不安で不安で仕方がない毎日だが、今は夫の話を聞きたかった。


「それでね、こんなにいい奥さんのことを否定した……今の僕の義父さんにあたる人にこの前、会ってきたよ」


「!?」


 もう、料理なんて続けることが出来ない。一週間前だっただろうか?そういえば夫の右頬が赤くなっていたのを思い出した。

 殴られたのだといまさら気がついた。あの時、夫は電柱に激突していたと言っていた気がするがあれは嘘だったのだろうか?……まぁ、自分の父親の拳を喰らったものは『電柱に殴られた錯覚を覚える』と言っていた気がするのであながち間違ってはいないかもしれない。


「……」


 夫の対面に座り込み、頬を見る。少しばかり、まだ痕が残っていた。


「あ、大丈夫だよ……ちょっと殴られただけ。しっかし、電柱に殴られたようだった……ま、殴られるのにはなれていたからね……話を続けるけど、あの人は僕を殴り飛ばした後、これをくれたんだ」


 夫から差し出されたのは正方形の一つの箱。開けてみると指輪が二つあった。家宝、とまでは言わないが自分が生まれたときに両親が買ったらしい結婚指輪だった。子どものころは触らせてもらえなかったし、これを手渡されたのはこの前お見合いをさせられそうになったときだ。それを思い切り父親に投げつけたのを今でも覚えている。

 夫は指輪を掴み、左手の薬指にはめてくれた。ぶかぶかである。最初は夫用のものかと思っていたが自分の指輪より輪をかけて大きかったりする。


「……サイズがあっていませんね」

「……ほんとだね」


 きっと、指輪が合うように成長して欲しかったのだろう……。


「……次、行くときはわたくしも行きます。指輪の文句を言わせてもらいますから」

「……え?あ、うん…あ、そういえば出てくるときに……次はさ、か、帰ってくるとき……結と……」

「どうかしました?」


 夫が顔を真っ赤に染めて落ち着きがない。どうかしたのだろうか?


「……子どもをつれて来いって言われちゃったよ……あ、あはは……」


 もう、夫は何も見てない、照れ隠しのつもりなのか後頭部を掻いている。


「子ども……ですか」

「え?あ……うん」

「……」

「……」


 すっと、手を握ると顔をさらに真っ赤にしながらも見つめてくる。きっと、自分も同じように真っ赤で相手のことしか考えていない状態だ。

 今、ここにいるのは二人だけ……誰にも邪魔されない二人だけの場所だ。

 そう思っていたのだが、意外なところにお邪魔虫はいたらしい。


「あ、あーっと……あのさ、なんだか焦げ臭くない?」

「え?あっ!!」


 火をつけたまま鍋を放置していたせいで後ろからは黒煙がのぼっていっている途中だ。


「ああっ!!消化しないとっ!!」


 その後はちょっとした小火騒ぎみたいになり、あわただしく時間が過ぎていった。


―――――――



「今度、帰るときは一緒に帰りましょう」

「……ん?うん、そうだね。まだ、子どもが……いや、なんでもないよ」

「……おやすみなさい、あなた」

「……おやすみ、結」

 少し手を伸ばすだけその幸せは逃げることもなく、結はその手にしっかりと握り締めることが出来る。だが、その幸せを二人で掴んでみたいと結は考えた。

 夫の幸せを見つけてあげよう、何年、何十年かかっても。それだけのことを夫はしてくれたのだから。

「……おやすみなさい、霧之助さん」

 もう一度、つぶやいてから結は静かに目を瞑るのだった。


さてさて、いかがだったでしょうか?読んでヨカッタと思える人がお一人でもいれば万歳ですよ。ディスプレイ前のあなた、一緒にはい、ばんざーい!!実際にしてくれた方、ありがとうございます。よろしければそのままこのエンディングに対する感想をいただけると雨月が起爆します。書いておいてなんですけどせめてハッピーエンドに出来ればよかったんですけどね。ハッピーエンドですかね、これは。次回からはとうとう第三章。くじけることもあるかもしれませんがよろしければこれからもお付き合いお願いいたします。それでは、また……次回がありましたら次回お会いしましょう。十一月二十九日日曜、十一時三十二分雨月。

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