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◆第百九十九話◆◆

第百九十九話

「はぁ……」

 一つ、ため息をついてコタツの台の上に自分のあごを乗せる。近くには携帯電話が置かれており、着信を知らせる光がないかどうかずっと見ていた。しかし、みていてもまったく光る様子を見せない携帯電話。

 度の強い眼鏡がずれたのでそれを戻していると妹の部屋から由美子が顔を出す。

「お姉ちゃん、どうかしたの?」

「……別に、どうもしてない」

「ふーん?」

 なにやらにやけている。その表情が実に癪に障るがどうだっていいことだと割り切ると少しは楽になった。それより、電話がかかってきたときにどんな話をしようか考えておこう。

 そんなことを考えていると妹の由美子は何を思ったか、コタツに入って同じように携帯電話を眺め始めていた。

「……何?何かのあてつけ?」

 そういってみたのだが、相手はどうやら聞く耳を持たないらしい。

「あ~あ、早くお兄ちゃんから電話がないかなぁ」

「……」

 完全に無視されてしまった。しかも、“お兄ちゃん”ときたものだ……妹の由美子が猫かぶっていたのはずっと前から知っていたのだが海外からこっちに戻ってきたときその猫かぶりはほぼ消えていた。しかし、やたらと事あるごとに二人の兄である人物に絡むのである。二人で話していると由美子は兄に話しかけ、お人よしというか、八方美人なのかわからないが兄は由美子との間でも一生懸命会話を成立させようとして失敗したりする。

 ああ、一年のうちに自分よりも由美子と仲がよくなってしまったのか……そんな寂しい気持ちを抱いたりしたのだがどうやらそうではないようで引越ししてしまうぎりぎりの日に汚い字で書かれた手紙を手渡された。どうやらこれを由美子はもらっていないようだ。もちろん、中身は二人の妹に対して書かれた手紙だった。この手紙を一枚にまとめ自分に託した理由はわからないが少なくとも由美子よりも信頼されているからではないだろうか?そんな風に自分に都合よく考えて事実が違ったときはがっくりきそうだがそう考えておくことにしよう。そっちのほうが気持ちがいい。

「っと、そういえば私はぼーっとしている場合じゃなかった!」

 友達と遊びに行くと聞いていた(もちろん、直接由美子が話に来たわけではない)のでその準備をするために自室へと戻っていった。十分程度で出てきてそのときにはすでに着替えも終わっておりそのまま前を通過していく。

「……行ってきます」

「…………行ってらっしゃい」

 嫌だが、一応告げている。そんな感じでお互いがお互い、ぎりぎりの綱渡りみたいに今日までこのように挨拶をしている。おはようとかおやすみとかはないのだが行ってきます、行ってらっしゃい、おかえりだけは今のところ欠かしていない。

「……」

 由美子が完全にいなくなったのを確認するとコタツから足を出した。そして、そのまま一つの部屋のほうへと徐々に距離をつめていく。

 別に、由美子の部屋ではない。まぁ、確かに忍び込むなら今のうちだが忍び込んだところで何か利益があるとは思えなかった。それよりも、忍び込んでそれがばれたときのリスクのほうが高すぎる気がしてならない。

 忍び込むのは……兄の部屋だ。本人がいない今、忍び込むなんて言葉は少しおかしいかもしれないが由美子がいなくならないとはいれないので忍び込むという言葉が適切だろうか?まぁ、ちょっと用事があるだけだ。

 室内は相変わらず掃除されており、一応荷物はまだ一部が残されていたりする。送った像が置いていかれるという心配をしたのだがどうやらちゃんと持って行ってくれたようでその存在は確認されなかった。

「……」

 ぬいぐるみが置かれているのがこちらに帰ってきて不思議に思ったことだったが少しだけ数が減ってある。意外とぬいぐるみが好きだったのかぁと思ったりもしたのだがどうせ押し付けられたものだろうと勝手に解釈する。

 何か日記のようなものはないだろうかと探してみるも、机もないし本棚もあちらに引っ越してしまっているため確認できない。

 まぁ、所詮家族なんてそんなものなのだろうな……そんな考えをしているとチャイムが鳴り響き、慌てて部屋の外に出る。

 もう一度チャイムが鳴ったので玄関を開けるとそこには隣人が立っていた。

「結さん……」

「遊びに来ました。入ってもいいでしょうか?」

「かまいません」

 隣人である東結。気がついたときにはぽつりぽつりと話をするような仲だった。傍から見たら仲がよいとは誰も思わないかもしれないし、仲がいいとおもっているのは自分だけかもしれないとそんなことを考えるがなんだか似たような性格なのだろう。たまに悩みなどを話し合うような間柄だ。

 兄に次ぐ、心を許せる人でもある。

 コタツに二人して入り、お茶を置いておく。いつものように、ぽつりぽつりと話をしながらお茶を飲む。少し、若者としてはどうかと思うことだが身体を積極的に動かしたいとか誰かとだらだら話したいなどとは考えてないのでこの程度がちょうどよかった。

「……そういえば、霧之助さんがいなくなって少し経ちましたね」

「……そうですね」

「……」

「……」

 二人の間に何か変な空気が流れた。相手の出方を待っているようなそんな空気。

「……お兄さんはわたしがいない間、結さんに迷惑とかかけませんでしたか?」

「いえ、そういったことは特に……逆にわたくしがいた所為で行方不明になったことも……今回の転校だって未然に防ぐ方法があったのかもしれません」

「……そうですね」

「わたくしはもう、卒業ですから……実は、今回ここにやってきた理由は遊びではなくお別れの挨拶にきたのです」

「別れの挨拶?」

 言葉の意味はわかったのだが、相手からはまったく哀愁の気持ちを感じ取ることが出来なかった。まぁ、もとより心の中を読めるような人間ではないと最初に会ったときに大体わかっていたのでいまさらそんなことはどうでもよかったりするのだが……

「はい、卒業するに当たっていますんでいる場所から別の場所へと引越ししてしまいますから。本当は霧之助さんがいる間にするべきことだったのです……ですが、いろいろと大変なことが重なってこうなってしまい実に残念です」

 ふと、結のほうに視線を移すとかすかに寂しそうに笑っていた。

「……また会って話でもしましょう」

「……そうですね、それではわたくしはこれで失礼させてもらいます」

 立ち上がり、去っていく。自分も少しばかりは寂しいと思ったが、かける言葉は特に思いつかない。

「……さようなら」

「ええ、さようなら……お邪魔しました」

 バタンと扉が閉まり、再びの沈黙。少し冷えたお茶を一気に飲み干してこれからどうしようかと考える。家捜しのようなことをもう一度しようかと考えてみたがやめておいた。そろそろ買い物にでも行こうかと考えていると再びチャイムが鳴り響く。

「……」

 なんとなくだが、相手が誰だかわかった気がした。

 鉄製の扉を開け放つとそこにいたのは野々村悠だった。

「……」

「にこっ」

「……」

「なによっ!反応ぐらいしてくれてもいいんじゃない?」

「……」

 扉を開けたままでそのまま室内へと戻る。悠も後ろからきちんと扉を開けて入ってきたようだ。

 てっきりコタツに入るとでも思っていたのだが向かう先はどうも違うようだった。

「……そこはお兄さんの部屋よ」

「知ってるわ、だから入るのよ♪」

「……」

 おじゃましま~すとか抜かしている不法侵入者を背後から捕まえ、引きずってコタツに入れる。何かまた騒がれると大変だったので兄から渡されていたものをさっさと悠に渡す。

「これ、あなたの家の鍵」

「はぁ?何であんたがこれをもってるのよ?これは……」

「わかってる、お兄さんから返すように頼まれたの。あの人はあなたと違って無断で友達の家に入ろうとはしないわ」

「……」

 鍵を引ったくり、ぷいっとそっぽを向く。相変わらず何を考えている人物なのかわからない。

「……で、あれから電話あったの?」

「まだ」

「そっか……あ~あ、あたしがこっちにいれば今頃一緒に遊べていたはずなのに……大体、絡んできた奴はどこのどいつよ?」

「結果が全てよ、今頃私たちが騒いでも迷惑がかかるだけだから」

「そりゃそうかもしれないけど」

 あ~っと声をあげた後に倒れ付す友人を尻目に携帯のディスプレイを見つめる。着信はなかった。

「……ん?あ、そっか……」

 何かに気がついたかのように悠は起き上がり、携帯を取り出した。

「何してるの?」

「ああ、ちょっと友人にメールをね。気にしなくて良いわよ……っと、邪魔したわね」

 それだけ言ってあっさりと悠は帰って行ってしまった。

「ふぅ」

 どうも、礼儀というものを知らないようだとため息を一つついて立ち上がる。これ以上誰かがやってくる前に買い物を済ませよう。

 間山悠子はそう思い立ってすぐさま行動するのだった。

 だが……携帯電話が鳴り出し、それをすぐさま耳に当てる。




 その後、悠子が買い物に行くまで一時間ほど時間が空いたのだった。


さて、次回記念すべき第二百話です。飛ばしたい人は飛ばして読んでいいですよ。いつものように誰か一人が面白かったと思えば成功ですので(ハードルが低いとか言わないで)気合を入れて掻き続けます。第三章でとうとう終わり……霧之助、最後の戦いが次回の次回、始まります。十一月二十八日土曜、十四時二十九分雨月。

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