◆第百九十二話◆◆
第百九十二話
以前通っていた屋上は閉鎖されてしまったわけだが、ここの高校はまだ大丈夫らしい。らしいという理由についてはどうやら来年から立ち入り禁止区域になってしまうという噂が生徒たちの間で広まっているだからだそうだ。
転落防止用のフェンスもうわさが本当ならば来年からはお払い箱になってしまうのだろうか?まだ一月なのでとっくに夜がやってきていて気温が下がってきている。冷たくなったフェンスに手を触れて、ギシギシと鳴らしてみたが別に面白くも何ともなかった。
人の気配を感じて後ろを振り向くとすぐ後ろに高畑さんと思われる女子生徒が立っていた。
「お~い、待った?」
こんなに近くなのにそんな適当な問いかけ。
「いや、そんなに待ってないよ」
「そっか、それならいいんだ……あ、ここの屋上はあっちのほうにベンチがあるからさ」
腕を引っ張られてそのままベンチのあるところまでやってくる。そして、冷えたベンチに二人で腰掛けた。
「……いきなりで悪いんだけど何があったのか話してくれないかな?」
「え?あ、うん」
「ごめんね、あたし気遣ってあげるとかそういったのなんだか苦手で……直球勝負っていうのかな?そういったものしか出来ないんだ」
「気にしないで……えっとね……僕が前の高校の終業式が終わった次の日かな……不良に絡まれたんだよ」
「ありゃりゃ……何か理由でもあるの?」
理由か……今となってはもはやわからないだろう。あの時だっていきなり声をかけられて殴られそうになって……そして、次の日、校長先生に呼ばれて相手と対面したときだって結局理由はわからずじまいだ。そのときだって僕を殴ろうとしていたのだから相当な恨みをかっていたに違いない。
「それがわからないんだ……いきなりなんだか喧嘩になった感じで、その後は橋から落としちゃった相手を助けにいって……助けられて、学校で約束どおり転校か退学か選ばされたんだ」
「……理由がわからない?」
実に不思議そうな顔を高畑さんがしている。
「うん、まったくわからないんだよ」
「その絡んできた人たちは間山君の知ってる相手だった?」
「いや、知らない」
文化祭のときとかその他であったことのある不良の顔ではなかった。それだけは断言できるだろう。
「あっという間に転校が決まっちゃってね、本当は三年から転校するって思っていたんだけどもうこっちに書類が来ちゃっててそれで……」
「編入試験とか受けたの?」
「……うん、受けたよ。次の日には結果がわかった」
あれよあれよのとんとん拍子。最初から仕組まれていたのではないかと僕が疑ってしまうほど怪しい段取りだった。
「転校生が来るってうわさがたったときめちゃくちゃ悪いやつだってうわさが広まったんだよ?」
「そうなんだ……」
だから誰も話しかけてきてくれなかったのか……
「けど、今じゃ知り合いがいたからほっとしてるよ」
「まぁ、これから同じ学校の生徒なんだから宜しくね」
「こちらこそ」
差し出された右手をしっかりと握る。
「まずは勘違いされちゃってるうわさをなんとかしないといけないね」
何度も何度も上下に手を揺らしながらしばし、考えるかのように人差し指をあごに這わせている。
「そうだよね……このままじゃ僕は残りの学校生活寂しく終わっちゃうよ」
北風が吹いてきたのか、それとも僕の未来を暗示しているのかはわからないが不安がいっぱいである。
「友達を作りたいか……それより、来週から学年末テストが始まるんだよ。他の高校はどうか知らないけどここは三学期に入ってすぐ始まるんだ」
「え?」
「つまり、お友達を作る前に勉強しないといけないよ!」
なるほど、それは実に理にかなった話でもある。学生の本分は友達を作ることではなく、勉強をすること……
その後、屋上でしばしの間二人だけでどうしたら友達が出来るか話し合った結果、とりあえずテストを乗り切ろうという話になった。
――――――――
自宅、着信音が響き渡って僕はとうとう通話のボタンを押した。
「あ、もしもし?うん、ごめんね……心配かけているってのはわかってる……それで電話してきてくれたんだよね?いじめを受けてないかって……大袈裟だよ、僕は大丈夫だから……ありがとう」
着信は終わり、僕は一つため息をついた。
今は昔、ある場所に雨月という若者がおったそうな。その雨月が生まれて初めて読んだラノベが、見事に読んだ人の心を撃沈させるような終わり方だった。約一週間引きずった雨月はネットサーフィンを始め、ネットの海をさまよった……そして、小説を投稿するサイトを見つけたそうな。続く。十一月二十四日八時五十七分雨月。