◆第百八十六話◆◆
第百八十六話
「今日は付き合ってくれてありがとね?」
「気にしないでよ」
デパートの屋上に何も好き好んでやってこなくたっていいじゃないか!そんな風に思う人もいるかもしれないがやってきちゃったものはしょうがない。そんな理由で冷えたベンチを二人で温めている。石の上にも三年いればきっと石だって温かくなるさ。ベンチの上に十分近く座っていればそりゃ、身体は冷たくなってくるけどベンチは温かくなるのである。
「ジュースとかならおごるからさ……何がいい?」
「任せるよ」
短いスカートをはためかせて高畑さんは去っていった。赤いマフラーが風に舞う姿というものはなんだか、こう、仮面をつけてバイクをブーンと運転するあの正義の味方を想像させる。ま、そんなことより視線は……はためかせている短いスカートのほうにいっているといわなくもない。もうちょっと強い風が吹いたらどうなってしまうのか……どきどきしてしまう。いっそのことこけてしまった!とか叫んでローアングルから……いや、やはり風よ、吹けっ!
「ううっ、さぶっ!!」
僕の願いどおり強い風が吹いたわけだが、あまりの冷たさとその鋭さに身震いしてつい目を閉じてしまった。カイロの一つでも持ってくればよかったかな?そういまさら思っても後の祭りである。
そして、しっかり見てなきゃいけないスカートの持ち主は戻ってきていたりする。左手でスカートを押さえているところを見るとはためいちゃったらしいな、さっきの風で……我慢して目を開けておけばよかった。
「はい、無難なところでオレンジジュース」
「……ありがとう」
たとえ、そう、たとえそれが冷た~いオレンジジュースでも(温かい、いや、生温かいオレンジジュースもそれはそれで嫌だけどね)買ってきてもらったのだから文句を言っては罰が当たるというものである。ここは素直にお礼を言っておかなくてはいけないのだ。そう、たとえ……たとえ、高畑さんがあたたか~いおしるこを飲んでいたとしてもお礼は言わなくては……
「ん?何?こっちのほうがよかった?」
「う、うん……というより、寒くてもう、ね、ちょっとギブアップ寸前」
「あ~じゃあ、半分あげるよ。代わりにそっちの半分あたしに頂戴?」
「はい」
こんな冷凍カイロはこりごりだ。さっさと飲みかけのおしるこを手渡してもらう。温かさが無くなってしまわないうちに飲み口へと唇をつけることにした。のど越しさわやか~……なぁんておしるこでなるわけなく(モチがつるんとのどを通ったときはひっかからないかちょっとあせった)微妙な後味だった。
「う~ん」
「やっぱりおしるこじゃ後味悪い?」
「うん」
「はい、オレンジジュース」
残してくれていたのだろうか?半分の半分となったオレンジジュースを口に含み、ふと、思ったことがあった。
ああ、間接キスしちゃったんだ……じゃなくて!
数回しか会った事がないのに何でここまで仲良くなれたんだろうか?
まぁ、そういったこともあるのだろう。考えをその程度にして僕は高畑さんを説得してデパート内へと戻ることにしたのだった。
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「よし、今日の記念にプリクラとろ?」
そろそろ帰ろうかという話になったときにそんなことを高畑さんは言い出した。そして、疑問符がついていたわりにはほぼ強制的にゲームコーナーの一角に連れて行かれる。まるで導かれるように画面前まで連れてこられてしまった僕だが、いざとなってみたらこれが生まれて初めてのプリクラであるということに気がつく。
「あのさ、悪いけどプリクラってよく知らないんだけど?」
「大丈夫、あたしもよく知らないから!」
ああ、そうなんだぁ……
―――――――――
夕暮れ時……といってもその時間帯は夏のときだけだ。冬の今ではもはや夕焼けなんて何処にもなく、常闇が空を覆いつくし、外灯があたりを照らしている。連れがいるものは身を寄せ合い、独り身はコートの前をしっかりと押さえている……。
二人だけど寄り添うこともなく、かといってお互いに身を震わせるでも無しに僕は少し前を後ろ向きで歩いている高畑さんを見ていて高畑さんはちょっと遅れてついてくる僕に話しかけていた。
「ごめんね~、ちょっと遅くなっちゃったね?」
「気にしないでよ、別にこれぐらいなら遅くなったうちには入らないからさ」
「そっか、ありがと……」
駅前までやってくると僕に手を振った。
「ここまででいいよ。今日は本当、助かったよ」
「どういたしまして……あ、忘れるところだった。はい、これ」
小さなサルのぬいぐるみを高畑さんに渡す。彼女は首をかしげていた。
「何これ?」
「サルだよ?」
「……いや、そうじゃなくてなんであたしにこれを渡すの?雪の誕生日プレゼントだよね?」
「違うよ、それは高畑さんの誕生日プレゼント。ほら、一月一日じゃ会うこともないだろうと思ってね……ちょっと早いけど受け取ってよ」
「え、そんな……」
「それと、ジュースもおごってもらったからね」
「……ありがと……大事にさせてもらうよ。じゃ、また……いつか遊ぼうね」
にこっと笑った表情がとっても素敵でベリーグッドだった。いつも笑っているような感じの人であったがこういった静かな……といったらおかしいかもしれないがそんな笑い方も出来るんだなぁ。
「うん、ばいばい」
手を振る高畑さんが改札の向こう側の人ごみへと消えていき、なんとなくだけどさらに寒さが厳しくなった気がする。
ムードメーカー……一口で言うならそうかもしれないな。ムードメーカー、高畑里香さんと別れて僕は帰路へとつくのだった。
オカン、熱燗こりゃあかん……どうも、作者雨月です。もう少しで十二月ですよ。早いものですね~……ま、気がついたら墓に入る一歩手前だったなんてよくある話です。気がついたら宙に浮いていた、それもよくある話ですよ。夢の中で美少女に手招きされた……ついていっちゃだめですよ、連れて行かれますからね。さて、今日なんとなく雨月が以前書いた小説を読みました。温故知新、初心に帰ろうと努力した結果ですが……電波です。今の雨月には過去の雨月を理解できず、結局最後まで読めずにケータイの電源を落としました。あれは恥ずかしい……使えそうな話があったら復活させて連載でもと思っていたのですがあれは駄目ですね。痛いです。ああ、あと二年ぐらい経ってこの小説読み直したときどう思うんだろうか……。まぁ、食らい話はそこまでとして来るべき十二月の話でもしましょう。十二月ってなんだか転機の季節のような気がしてならないんですよ。これも雨月だけかもしれませんけどね。十一月まで好きだったあの子に十二月彼氏が出来たとか、十一月に行われたちょっとした祭りでけんかして友達と十二月から話をまったくせずに疎遠になったとか……人生の転機ですね。世の中って言うのは不幸八割幸福二割じゃないと面白くありませんよ、きっと。さぁ、皆さんもモニター前で叫びましょう!『十二月なんて後半しか好きじゃねぇんだよ馬鹿ヤロー!!』。お目汚し、すみません……十二月二十日金曜、二十一時十一分雨月。