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◆第百八十二話◆◆

第百八十二話

 一生懸命ライトノベルを読み漁っている名古時羽ちゃんの姿はそれはそれで絵になるかもしれないが、彼女が料理の本を一生懸命読んでメモをしているという点はちょっと違和感を覚える。

「何してるの?」

「あ、先輩……実は、料理の勉強をしているんです」

 うん、誰しもそれはぱっと見て大体わかると思うんだけどな…聞き方が間違っていたのだろう。

「何でそんなことをしているの?」

「理由ですか?簡単です……昨日、お母さんが倒れてしまったんです……」

「名古ちゃんの料理を食べて?」

「違いますっ!!過労ですよっ!!」

「ああ、名古ちゃんの料理を食べて必死におべっか使っていて疲れたと……冗談だよ、半分だけ」

「残りの半分は何ですか!?」

「優しさ……かな」

「先輩、あたし……泣きますよ?」

 さてと、後輩いじめるのはこの程度にして改めて勉強をしている理由を聞いてみることにする。

「で、何で料理の勉強をしているの?過労で名古ちゃんのお母さんが倒れたから代わりに作ろうと思ってるとか?」

 彼女はこくりと頷いて続ける。

「そうです、代わりに料理を作るためです。今日は肉じゃがを作ろうと思ってます」

 ああ、そうなんだぁ……

「じゃあ何でハンバーグのページが開かれてるの?」

「ハンバーグのいいところを肉じゃがに持ってこようと思っています」

 自信満々に、そして得意げに胸を張る彼女が可哀想だと思ったことはこれほどはないだろうな。

「料理、基本的にしないって言っていたよね?」

「しませんね!これからはずっと台所に立ちますけど」

「じゃあさ、悪いことは言わないから基本的な肉じゃがを作ったほうが良いと思うよ?」

「駄目です、お母さんをびっくりさせたいんですよ」

 うん、ものすごくびっくりすると思う。肉じゃがにハンバーグの技術が応用されてるって……誰も想像つかないと思うんだ。

 本人が自信満々に勉強しているところに水を差すのはやめたほうがいいと思う。やる気を失ってしまうだろうから……

「えーと、がんばってね?」

「はい!いつかお弁当作ってきてあげますから」

 それは……非常にうれしいんだけど出来れば遠慮したいかな?素人が他の料理からの技術転用したところで成功例は殆どないし……

「名古ちゃん、ゆで卵の作り方知ってる?」

「知ってますよ?ゆでれば……いや、レンジでチンのほうが早い!そうですよね?」

「……」

 ああ、とっても早いさ……早くて中身が炸裂するほどに。



――――――――



 そろそろ、十二月も中盤あたりに差し掛かったと言ってよいだろう。図書館には今日も今日とて名古ちゃんが料理の本の勉強をしていたりする。おせっかいかと思いつつも近づいて声をかけることにする。頭には必勝と書かれた鉢巻を装備しており、彼女のやる気が伝わってくる。

「どう、はかどっているかな?」

「あ~……いや、あまり……」

 どうやら芳しくないようだ。だが、一生懸命メモを取っているところをみると失敗にもくじけていないようである。七転び八起きというやつだろうか?

「ハンバーグの技術を転用したところそぼろ入りの生煮え肉じゃがが出来てしまいました。食べれないというわけではないんですけどね……」

「そっか……まぁ、それはそれでいいんじゃないかな?僕も最初はよく失敗してたし」

 ゆで卵を作ろうとしてレンジに放り込んでたし。目玉焼きさえ焦がしていた記憶があるなぁ……僕って料理むいてないかもって作るたびに考えていたよ。

「おとなしくレシピどおりに作ったほうがいいと僕は思うけど?」

「あきらめたら其処で終わりです」

 とってもいい言葉だけど……人生、潮時って物がある。まぁ、ここは生暖かく見守ってあげることとしよう。


次回、持ち越し後書き短編集。十一月十八日十一時九分雨月。

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