◆第百七十八話◆◆
第百七十八話
夕食を食べ終え、ソファーの上でいつものようにくつろいでいる宮川百合の耳にチャイムの音が入ってきた。妹である宮川雪はお風呂に入っているためにまず出ることはないだろう。母親もいまだにこちらにいるのだが今日はどこかに行っているようであの人は相変わらず忙しい人だというのが印象に強い。
「おっといけない」
さて、やってきたのは一体全体誰だろうか?もとより、宮川百合には友人といえるほどの間柄が少ないために一人暮らしだったらやってくる相手を絞ることが可能だろう。友人、新聞の勧誘、宗教の勧誘、押し売り……その程度だ。
友人が出来れば言いというより、とある一人の友人が遊びに来てくれたならばどれだけうれしいことだろうか?なんだかんだ言いながらも一緒にいる時間が長いのでこの時間帯に来ることが絶対にないとわかってはいてもつい、期待をしてしまう。友人というより親友、親友というよりも……それ以上に発展できていないので宮川百合は一人のときによくため息をついたりしているのである。
扉の先は一体全体何が待ち受けているのだろうか?ドアノブを握る手が少し汗ばんできており、自分が緊張していることに気がついた。何を馬鹿な……単なるお客だ。総自分に言い聞かせて迷いを振り切るように扉を開ける。
そこには、予想していた相手の妹が必死そうな顔で立っていた。
「惜しい」
「え?」
心の声が漏れてしまったらしい。お客人は首をかしげている。
「ああ、気にしない……由美子ちゃんだっけ?どうかした?」
元モデルだと聞いていたがなるほど、そこらの子とオーラが違う。この子が妹でよかった……ふと、そんなことを考えてやれやれとため息をつく。
「あの、兄が来ませんでしたか?」
「霧之助か……」
きてくれていたらどれだけうれしいことだっただろうか?最近はめっきり家に来なくなった。まぁ、元から来る回数だって少なかったし、あまり霧之助の家のほうにいったこともない。誘ってくれればいつでも、それこそ夜中でも行こうと決めているのだが肝心のお誘いがないから仕方がない。
「学校で別れた後は会ってないな……それが?」
どうも何か問題でも起きているらしい。詳しく聞こうとしたのだが相手は頭を下げて去っていってしまった。
「……」
ちょっと気になったのだが余計な詮索ををするのはやめておいた。もしかしたら兄妹でケンカをしてそれであの由美子という少女が兄に謝りにでも、もしくは霧之助に謝らせようとしているのかもしれない。そういったことに首を突っ込まないほうが良いというのはよくわかっているつもりだ。第三者が話をまぜっかえしてしまうとよりこじれてしまうだろう。
「どうしたの姉さん?もしかしてお客でもきた?」
奥から雪の声が聞こえてくる。どうやらお風呂の順番が回ってきたようである。
「いや、なんでもない」
明日の朝、クラスの隣人に聞けば詳しいことが聞けるかもしれない。宮川百合は首をすくめて浴室へと向かうことにしたのだった。
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いつもの時間帯。この時間帯ならばクラスの隣人がすでに来ているはずなのに姿がなかった。風邪か?それとも兄弟げんかで重症を負ったのかもしれない。
楽観的に考えていると朝のHRが始まるチャイムが耳に入ってくる。
いつもと変わらない日常だが、やはり親しい友人が隣にいないのはちょっと寂しい。今日室内に入ってきた初老というより老人の教師は教壇に出席簿をおいて困ったような顔をしてクラス中を見渡す。
「あ~……間山が行方不明だ。場所を知っているとか、何処で見たとか知ってるやつは警察に行ってくれ」
「え?それってどういうことですか!?」
宮川百合は立ち上がり、阿呆のように教師へと質問した。
「言葉通りだ。妹さんの話によると昨日から家に帰っていないらしい」
なぁんだ、昨日からならどっかにいるだけだろ?そんな声が聞こえてくる。言われて見れば確かに一日家をあけることが自分にもよくある。しかし……あいつがそんなことをするだろうか?どうも引っかかることだなと思い、彼の友人に訊ねてみることにしたのだった。
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「ん~……おかしいっすね。中学のころでも毎日ちゃんと家に帰ってたんですけどね」
「そりゃ中学だったら家に帰るだろ?」
「いや、あそこの家庭はちょっと複雑……まぁ、今はそんなことをおくびにも出してませんけどね。ともかく、連絡もなしに消えるってありえませんよ」
黄銅猛も首をかしげる。
「行方不明、あながち嘘じゃないかもしれませんね……俺のほうでも知り合いとかに聞いてまわってみます」
「ああ、お願いする」
なんとなくだが、すぐには見つからないかもしれない。そんな不安がよぎる。もしかして、誘拐だろうか?
まだ真相がわからない行方不明二日目…霧之助の写真をもって宮川百合は学校の全クラスを訪ね歩いたのだったが、結果は芳しくなかった。
一年のどのクラスだったかわからなかったが海であった少女も首を振る。
「そうか……」
「先輩、行方不明になっちゃったんですね……」
心配そうな表情だ。しかし、後輩がいるとは思わなかった。
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家に帰ってみると雪がどこかに連絡を取っているようであった。ちょうど電話を切ったところで訊ねる。
「なぁ、霧之助みてないか?」
「……行方不明、だってね……姉さん」
やはり、心配そうだった。励ましてあげたほうがいいのだろうがそんなことよりも行方不明になってしまったほうのことを心配してしまう。
「ともかく、無事に見つかることを祈るしかないな」
「そうだね……」
宮川姉妹は途方にくれたかのように二人してソファーに腰掛けるのであった。
え〜次回、今回分の後書き書きます。十一月十五日十時四十七分雨月。